「この人は認知症だから大丈夫」腕がパンパンに腫れあがっているのに救急車を呼ばなかったことも…高齢者の虐待が止まらない「介護現場のリアル」

2025年5月7日(水)7時10分 文春オンライン

「介護の世界は本当に酷いですよ」——かつて高齢者が虐待される現場に直面したことのある、50代のベテラン介護士。入居者の腕が明らかに骨折しているのに、古株の介護士がそれを無視したことも…。高齢者の虐待が止まらない実情を、ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊『 衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない! 』(宝島社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)



写真はイメージ ©getty


◆◆◆


「介護の世界は本当に酷いですよ」


 介護現場の崩壊はすでに始まっている。


 一例を挙げれば、高齢者への虐待が頻発していることだ。厚労省が発表したデータによれば、2024年度には高齢者虐待に関する相談・通報件数が2795件に達し、過去最多を記録している。さらに、虐待と判断された件数も856件で、これも2年連続で増加している。虐待を行った者は施設職員や家族が多く、その背景には介護の負担が大きく関係している。もちろん、公的なデータに載っていない高齢者虐待も水面下で起きていることは言うまでもない。


「私なら絶対、こんな施設に入らない」


 そう話すのは関東郊外の特養で働く上田康子さん(仮名)だ。50代の上田さんは2022年の夏に取材したベテラン介護士だ。私がかつて『週刊文春』で不定期連載していたときに出会い、そのエピソードを誌面で紹介したこともある。彼女はこれまで複数の介護施設に勤務し、転職を繰り返してきた。改めて彼女の体験談を聞いてみたい。


「介護の世界は本当に酷いですよ」


 彼女がそう話す理由の一つが、高齢者に対する“虐待”だ。


 東北地方出身の上田さんは、建設会社で経理の仕事を経験したこともある。以前は、北関東のサ高住で介護士として働いていた。だが、サ高住や居宅介護支援事業所の正社員ではなく、正式な所属元は派遣会社だ。2カ月更新の契約という雇用形態だという。


 介護業界に失望している彼女は、以前の職場での体験をこう振り返った。


「この人は認知症だから大丈夫」


「夜勤をしていたとき、夜中に入居者さんが部屋の外を歩いていて、怪我をしたことがありました。私たちが目を離した隙に、エレベーターホールで転倒して、腕が変な方向に曲がってしまったんです」


 慌てた上田さんは、「すぐ救急車を呼びましょう」と古株の女性介護士に言ったが、それを拒まれたというのだ。そして上田さんに、こう言い放った。


「この人は認知症だから大丈夫」


 本人は怪我をした状況も忘れるだろうから、室内で勝手に転倒していたことにすればいいと説明。翌朝、転倒した入居者の腕は、パンパンに腫れあがっている。結局、病院へ連れて行くと骨折をしていた。


「ちょうどコロナ禍で面会の制限をしていたので、家族の目もありません。それをいいことに、夜中に部屋で転び、自分でベッドに戻ったみたいだと嘘の報告をして、事情を知る他の職員も、みんな知らないふりをしていました」

〈 “高齢者を足で蹴飛ばす”若い男性介護士を目撃…虐待行為を通報した50代・女性介護師を襲った「予想外の仕打ち」 〉へ続く


(甚野 博則/Webオリジナル(外部転載))

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