「どこの施設でも、職員が高齢化しています」労働者の平均年齢は50歳…若者がすぐやめてしまう「介護業界」の深刻

2025年5月3日(土)7時0分 文春オンライン

「若いスタッフをどうしたら定着させられるかが、難しい問題になっています」


 介護労働者の平均年齢は50歳に到達…若い働き手がいつかない介護業界の問題とは? ノンフィクションライターの甚野博則氏の最新刊『 衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない! 』(宝島社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)



写真はイメージ ©getty


◆◆◆


「見捨てられた老人ホーム」


〈施設閉鎖のお知らせ〉


 そう書かれた一枚のペーパーが都内の高齢者施設に張り出された。東京都足立区にある住宅型有料老人ホーム「J」の社長が忽然と姿を消したことを、フジテレビの番組『イット!』がスクープしたのは2024年10月だ。「見捨てられた老人ホーム」と題して連日報道していたことを覚えている方もいるだろう。報道によると、職員に給料を払わないまま社長が行方をくらませ、当時30人近くの職員が退職したという。困ったのは残された90人以上の入居者やその家族だ。


 当初の報道では施設の名前こそ伏せていたが、この施設について知り合いの介護関係者に聞くと、すぐに「J」だとわかるほど、業界内でも話題になっていたという。この施設は2023年10月にオープンしたばかりだといい、多くの老人ホーム紹介サイトで、同施設が掲載されていた。


 複数の紹介サイトでは、〈要介護度や医療依存度が高い方でもご入居できるよう万全の体制を整えています〉〈安心して過ごせる生活環境で穏やかな暮らし〉などとPRされており、清潔感があり安らげる施設という印象を抱かせるものだった。ところが実際は安心とは程遠い運営体制だっただけに、こうした紹介サイトの広告に基づいた情報は、たいしてあてにならないことを物語っている。


 さらにこの施設の運営会社は他県でも介護関連施設を経営しており、自社のホームページには、こんなキャッチコピーが躍っていた。


〈「安心した生活を送ることができる」をつくる〉


 こうした無責任な運営をしているケースは多いが、施設をめぐる問題は他にもある。


「若者の労働力不足」に悩む介護業界


「どこの施設でも、職員が高齢化しています」


 そう話すのは先に記した奈良県にある特養の施設長。職員の高齢化に頭を悩ませているというのだ。とくに地方の介護施設が顕著だと施設長は語った。


「まず、人を募集しても集まらない。この辺りのコンビニを見てもらうとわかりますが、外国人のアルバイトばかりです。若い人は都心に出て行ってしまうため、街全体が若者の労働力不足に悩んでいます」


 そうしたなかで、とくに重労働で低賃金のイメージが根強い介護業界に、若者が来る可能性は今後も低いと話す。


 介護労働安定センターが実施した2022年度の介護労働実態調査によると、介護労働者の平均年齢は50歳に達しているという。職種別に見ると、最も平均年齢が高いのは訪問介護員で54.7歳だ。次いで看護職員が52.2歳、介護支援専門員が53.0歳と、いずれも50歳を超える結果となっている。他の職種でも40代後半から50代前半の年齢層が中心を占めており、データの上でも介護職員の高齢化は顕著だ。


「資金力のある施設では、海外に研修施設をつくって、そこで教育した外国人スタッフを自社の介護施設に連れて来るという試みをしている。また、国内に介護の学校をつくって、自前でスタッフを育てるという企業もありますが、それも稀なケースですし、他の介護施設が容易に真似をすることはできません。うちでも数年前、やっと若いスタッフが1名入ってきたので大切に育ててきたのですが、最近、辞めてしまいました。若いスタッフをどうしたら定着させられるかが、難しい問題になっています」


 こうした人手不足は周辺の介護施設も同様で、とくに若い介護職が定着しないのだと、この施設長は嘆いた。

〈 介護を続けることも、施設に入れることもできない…うつ病の夫(94)が認知症の妻(89)を殺害する事件も→「介護疲れ」が殺人に発展する日本のヤバさ 〉へ続く


(甚野 博則/Webオリジナル(外部転載))

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