病室を見れば残酷なほどわかりやすい…医師・和田秀樹が説く「出世を遂げたのに幸福度が低い人」の共通点
2025年3月24日(月)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios
※本稿は、和田秀樹『60歳からの仕事の壁 10年後も食える人、1年後すら危ない人』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios
■稼ぐ人の共通点は「フットワーク」の軽さ
新しいチャレンジをするとき、慎重すぎるぐらいがちょうどいいと思っていませんか?
残念ながら、その姿勢ではチャンスを逃すかもしれません。たとえ、世の中が停滞期でも、何歳になっても、あなたの人生まで停滞期にする必要はありません。
その打開策として、意識して欲しいのが、“フットワークの軽さ”です。
世の中が停滞期でも、果敢にアクションを起こして儲ける人はいます。自分を高めて、上昇気流に乗る人にとっては、短期的な世界不況なんて恐れる必要はありません。いまや大企業でさえ、チャレンジ精神を失って、思考が硬直化しています。
一例を挙げましょう。
世界のリーディングカンパニーが何社もある日本の自動車業界ですが、保守的になり、弊害が生まれているようです。
先日、60代の知人が新車買い換えで嘆いていました。「せっかく新車を買うのに同じ車種が買えない。新モデルは大型ばかりで、欲しいサイズは、みんな旧型だよ」と。
高齢者のドライバーにとって、大型サイズの運転は怖いものです。つまり、これまでのマイカーの最新モデルが大きすぎたため、違う車種からちょうどいいサイズを探して乗り換えようとしていたのです。
ところが、日本の自動車メーカーは超高齢社会に対応していません。海外市場に輸出する都合を意識するあまり、車を大きくしすぎているのです。
■スティーブ・ジョブズだって人と組んで成功した
現在の日本には、とくに高齢者向けの商品・サービスが圧倒的に不足しています。
だから、「いけるかな?」と思えるアイデアが浮かんだら、積極的にトライすればいいのです。
ネットもあるし、大きな予算は必要ありません。フットワーク軽く、自分のやれる範囲で挑戦する価値はあります。
貯金もないし、ビジネスアイデアもなければ、特別なスキルもない。そんな風に悲観的に考えて、アクションを起こすことをあきらめてはいけません。
それらすべてを補うことも可能なのが“人脈”です。
世の中がどう変わっても、頼りになる人脈を持っている人は強い。年齢が上になると、交際範囲を限定する人がいますが、絶対にもったいないです。
自分1人ですべてを満たす必要はありません。自分の欠点を補ってくれる人と組めば解決する問題です。あのスティーブ・ジョブズだって、技術力のあるスティーブ・ウォズニアックと、資金力のあったマイク・マークラの3人でアップルを創立しました。
もし、あなたがいいアイデアを持っているのに、営業能力がなくて、販路が作れないとします。でも、世の中には営業スキルは高いけど、たまたま現在の勤務先の商品には魅力を感じていない人もいるかもしれません。
■心がけるべき「3つのポイント」
この2人が組んで、お互いに足りない部分を補い合えば、素晴らしいビジネスモデルを立ち上げられます。
人に頼ることへの抵抗感は捨てるべきです。
そもそも、自分の欠点を直そうとしても、たかが知れています。成功する人は、他人に素直に依存できます。1人でなんでもやろうとすれば、すべて中途半端になりかねません。他人とうまく協調することで、より大きな上昇気流に乗れるはずです。
とにかく、フットワークを軽くして行動します。何をやっても自分や世の中は変わらないとあきらめたら、本当にそのまま時間が過ぎてしまいますよ。
フットワークを軽くするために、次の3つを心がけてください。
・何歳からでも自分は変われる
・資本がなくても、時間が限られていても、自分が動くことはできる
・ひとつの考えに固執しない
■筆者が「手を出さないほうがいい」というもの
このような思考のできる人間になれるかどうかで、上昇気流に乗れるかどうか決まるといっていい。何から手をつけていいかわからない人は、とにかく自分の考えを柔軟にすることから始めましょう。
事件、ニュース、情報に対して、いろんな方向性で自分なりに勉強してみるのもお勧めです。とはいえ、マスコミや世論に流されていては、いつまでも変われません。
思考の権威主義にとらわれている限り、新しい発想や、自分なりの視点は生まれないでしょう。
実際に現在、主流の経済論やマーケティング論を用いても、結果が出ずに現実は停滞しています。長いものに巻かれる式の勉強は不毛なのです。
ただし、フットワーク軽く動くといっても、手を出さないほうがいいものの1つに“依存性のある趣味”があります。これには短期的な快楽の強いものが当てはまります。
具体的にはお酒やギャンブル。どうしてもやりたければ数字で自己管理しましょう。いくらしか賭けない、何杯しか飲まないといった考え方です。いずれにせよ、行動あるのみ。フットワークの軽い人ほど、いまの世の中、成功するチャンスをつかめます。
■じつは「会社員でいること」は得
バブル経済の頃には、世の中の流れに乗り遅れたら損だと考えた人々が、銀行からお金を借りてまで不動産や株に投資しました。
その結果、高値でつかんだ人ほど大きな被害を受けた。損得を見極めるには、いろんな角度で眺めることが大事です。
たとえば、貧乏クジを引かされたような仕事が回ってくることはないですか?
誰かの代理の役目であるとか、誰かの補佐に回るような仕事です。でも、見方を変えればチャンスであり、得かもしれません。
代理の仕事はそつなくこなすだけで合格点がもらえます。補佐する相手は仕事ができる人間が多いので、そのやり方を間近に学ぶこともできるでしょう。
目先の利益だけを追わずに、長期的な視点を忘れないでください。
じつは会社員でいることが、すでに得なのです。ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長、柳井正(やないただし)氏の著書『一勝九敗』(新潮社)は、起業家よりも会社員にこそ当てはまります。
写真=時事通信フォト
ファーストリテイリングの入社式で新入社員にエールを送る柳井正会長兼社長=2025年3月4日、東京都江東区 - 写真=時事通信フォト
■体験に勝る一次情報はない
ベンチャービジネスや投資で、9敗できるだけの損に耐えられる人は少ないでしょう。でも、会社員なら9敗が許される環境がある。損することを経験できます。
そして大きな1勝をあげれば評価される。いまは失敗続きでも損だけとは限りません。
もし、自分に能力がないと思うなら、情報を発信して役に立つことを考えてみましょう。面白い遊び場、美味しいお店のネタをそこそこ握っていれば職場でも人気者になれます。
やはり、体験に勝る一次情報はないのです。自分自身が面白かった、美味しかったというデータは、1番確実でしょう。
知人の料理評論家・山本益博(ますひろ)さんと一緒に食事をしていると、よく彼に問い合わせの電話がかかってきます。「いま横浜にいる人」からお勧めの店を聞かれ、いつも彼はていねいに教えていますからね。
■「どれだけ人を幸せにしたか」
かつてブータン国王が来日した際に話題になった『幸福度』について考えてみましょう。私が友人と出した結論は、「どれだけ人を幸せにしたかで決まる」というものです。
実際、「和田先生のおかげで志望大学に合格できました」と声をかけられると、私自身、本当に幸せな気分になります。
反面、出世や収入だけでは、必ずしも幸せになれるとは限りません。
私は高齢者医療に携わっていますが、入院している方々を見ていると、明らかな“格差”が生じています。それは見舞い客の数です。奥さんや子ども、元同僚やプライベートの知人まで毎日病室を訪れて、笑いの絶えない患者。一方、知人の見舞いはほとんどなく、家族さえ稀にしか顔を見せない患者もいます。
話を聞けば、後者は骨身を惜しまずに会社に尽くし、出世を遂げたのですが、代償として周りの人々を幸せにできなかったようです。
■お金を惜しんでも、手間を惜しむな
会社の肩書きはあなたの人生の一部に過ぎません。やはり人生の損得は、お金だけではない。わずかな労力と時間を惜しんで、信頼やチャンスを失うことも損です。
以前、ある大学のベンチャービジネス研究会の講師に私は招かれました。その席で学生たちに起業は人と人のつながりが大事という話をしたのです。
和田秀樹『60歳からの仕事の壁 10年後も食える人、1年後すら危ない人』(青春新書インテリジェンス)
最後に「明日、私が初監督した作品の試写会があるから、時間がある人はどうぞ」と誘いました。ところが当日、学生は1人も姿を見せませんでした。
不思議なことに映画の試写会ひとつとってみても、多忙な人ほど足を運んでくれます。やはり、成功している人は、人づきあいのために時間の投資を惜しみません。
学生に限らず、これからも成長したいと考えるなら、目上の人の信頼を得るには時間を使うほうが有効です。少なくても私は銀座で何十万円も使って接待してもらうより、長年の夢を実現した映画を観に来てくれるほうが、よほど嬉しいです。
時間をケチり、お金で補おうとしても信頼は得られず、本当に仲良くはなれません。
時間をうまく使えば喜ばれるし、経済的にも得です。
----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
----------
(精神科医 和田 秀樹)