「辞めるな、でも変えろ!」教員が心を病まずに働くための“4月の秘策”をドラゴン先生に聞いた
2025年4月1日(火)21時25分 All About
13年間の教員経験を持つドラゴン教育革命の代表・坂田聖一郎さんが語る、教員のリアルな現状と働き方改革とは? 常にギリギリの状態で働く教員たちにおすすめしたい、働き方を変えるための「4月の秘策」やキャリアチェンジの可能性をお聞きしました。
教員という仕事のリアル、そして今まさに働き方に悩んでいる現場の教員たちへのアドバイスをお聞きしました。
学校の先生が「ブラック職」だと言われる理由
——現在、教員という仕事がブラック化している最たる理由は何でしょうか。「授業準備、子どもの対応、保護者対応……1人に対して『業務全部乗せ』という状況ではないでしょうか。そういったものが総合的に教員の仕事を煩雑にしていると思います。
例えば、子どもたちの間でトラブルが起こると、周りにいる特別な支援が必要な子どもがパニックになってしまう。すると保護者から問い合わせの連絡が来て……というように、全てつながっているんですね。どこが1番と切り取って話すのが難しいです」
——学級崩壊などもさまざまな要因が重なって起こってしまうということでしょうか。
「そうだと思います。教員って、常にコップに水がなみなみと注がれているような、ギリギリの状態での業務が求められているんですよ。さまざまな子どもを1度に30〜40人見ているわけですから、気が抜ける状況がほとんどなく、土日ですら学校のことを考えているという人は多いと思います。私もそうでした。
そのような環境で評価されるのは、仕事をたくさん抱えて頑張るタイプの教員。無理できてしまう教員が『立派だ』という雰囲気になってしまうんですよね。
そうやって限界まで頑張る教員が心身ともに疲れ切ってしまい、最終的に休職してしまうということも珍しくありません。休職すること自体は悪いことではありませんし、自分を守るために必要な選択です。しかし、休職に追い詰められるまでSOSを出せない方が、教員という職種の人には多いと感じます」
——そうした状況を打破するためにキャリアチェンジ(転職)という選択をする方もいるのでしょうか。
「私が知る限り、それほど多くはないと思います。教員になる方は基本的に真面目な人が多いので、『転職=逃げ』と考えてしまう方が一定数いらっしゃるのかもしれません。
また、キャリアアップという選択肢も選びにくい環境があります。先ほども話した通り、教員は常に精神的にギリギリの状態で指導、保護者対応、学校行事の運営などをおこなっています。キャリアアップのためには、ほかの仕事のペースを落として自己研さんの時間を作る必要がありますが、とてもじゃないですがそんな時間は持てません。
一般企業なら、納品したら一息つくとか、決算までは頑張ろうとか、仕事の区切りを付けやすいですよね。しかし、学校の先生の仕事にはインターバルがほぼないんです。3月31日が過ぎたらすぐに次のクラスの準備に追われます。相当な覚悟を決めて時間を作ろうとしないと、現状を変えるのは難しいというのが実情です」
教員が心を病まずに働く「4月の秘策」とは

——そのような環境下でも、人を育てる仕事が好きだという方はいると思います。教員が心を病まずに働くためには、どのような心がけや意識が必要だと思いますか?
「ズバリ、4月が大事です! どういうことかというと、自分の“キャラ設定”をしっかり作っておきましょうということです。
心を病んでしまう教員には、とにかく真面目で仕事を断れないという人が多いのではないでしょうか。そういう方は、例えば『基本的には定時で帰る人』など、キャラクターを自分の中で設定し、それを貫けばいいのです。
遅くまで残っている教員って、管理職から見て仕事を頼みやすい人に映ってしまうんですよ。都合のいい人にならないよう、最初は心が痛むかもしれませんが、設定したキャラクターを貫いてください」
——一方で、キャリアチェンジを考えている教員も多いと思います。坂田さんから見て、教員経験者は、どのような業界で求められていると思いますか?
「塾講師など、教育業界では学校の先生としてのスキルは歓迎されると思います。また、マルチタスク能力がとても高いことも評価される特徴だと思います。複数のことを同時進行させるスタミナがある方が多いですから、そこは強みにしてほしいですね。
一方で、一般企業に比べて、基本的なメールのやりとりやスーツを着てのビジネス経験は少ないですから、ギャップやつまづきを感じることも多いかもしれません」
——キャリアチェンジした教員の多くが感じるギャップやつまづきには、どのようなものがあるでしょうか。
「先ほども少し触れた、『ビジネス経験の少なさ』に尽きます。教員という仕事は集客をして利益を上げる仕事ではありませんから、そこで苦労する方は多いのではないでしょうか。
僕が独立したときに痛感したことは、まさにビジネスに関する知識が自分に全くないということでした。自分はこんなにもビジネスを知らないのかと愕然(がくぜん)としました。特に僕の場合は、転職ではなく起業。しかもコロナ禍で人に会いに行けないという、かなり不利な状況からのスタートでしたから、何もかも手探り状態でした。
そこからSNSでの発信を始めて多くの方に知っていただくことができ、現在はコーチング講師として活動しています。
SNSは1対多数のコミュニケーションですよね。これはまさに学校で日々やっているコミュニケーションの形なので、先生がすごく得意なことなんですよ。こんなふうに学校や教育業界以外でも教員として培ったスキルを生かす場はありますから、そこまでたどり着くためのビジネススキルを身に付けることが大事だなと思います」
現場の教員には「辞めるな!」と伝えたい

——キャリアチェンジを考えているものの、現状に悩んでいる教員にアドバイスをするとしたら、どのような言葉をかけますか。
「ご自身のメンターをつくってみてはどうでしょうか。自分がこうなりたいと願うロールモデルでもよいと思います。
学校の先生だったときは、自分自身が子どもたちにとってのメンターだったと思います。しかし、学校から一歩外に出れば、自分も子どもたちと同じ立場ですから、自分に先生を付けるというのは確実な方法なのではないかなと思います。
もう1つ付け加えるとすれば、他人軸のみではなく自分軸を取り入れて働くということ。一般企業への転職、もしくは独立を目指すのであれば、『管理職にこう言われたから』『子どもたちがこう言っているから』ではなく、自分がどうしたいのかという意志をもち、自己決定することが大事だと思います。
繰り返しになりますが、教員は真面目で頑張り過ぎてしまうことが多い人たちです。しかし、周りからの声だけではなく、自分自身がどうしたいかに重点を置いてみてほしいです」
——最後に、学校の先生を続けながらも自分の働き方に悩んでいる先生へのメッセージをお願いします。
「ここまでいろいろ話してきましたが……僕から言えるのは『教員を辞めるな!』でしょうか(笑)。もちろん、つらくてしょうがないという方に辞めるなとは言わないです。
しかし、学校が大変だからといって、転職や起業がラクだなんてことはありません。新たな仕事を覚えることのほかに、これまでと異なる環境への適応などさまざまなギャップが生じるでしょう。
僕は、安易に環境を変えるのではなく、まずは自分自身を知り、自分を取り巻く環境の捉え方を変えることのほうが目の前の問題解決につながると感じます。
それがまさに僕が講師をしているコーチングの考え方です。自分から見たらマイナスに思えた要素も、見方を変えたら実はプラスなことだった、なんてこともたくさんありますから」
坂田 聖一郎さん プロフィール
大学卒業後、芸人を目指し現在「しずる」村上純とコンビ結成するも解散。その後、教員を13年間経験。独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングを」をスローガンのもと、「ままためコーチング塾」をスタート。子育てや家事で忙しいお母さんや教員にも親しみやすい丁寧な指導が好評。All Aboutの子育て・教育ガイドとしても活躍している。
この記事の執筆者:大塚ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。(文:大塚 ようこ)