本当にうまいラーメンとは何か…「飯田商店」飯田将太が初めて明かす「トップであり続ける秘密」
2025年4月16日(水)10時15分 プレジデント社
「飯田商店」の厨房に立つ飯田将太さん。「おいしい」をとことん追求する“闘い”の舞台だ - 写真撮影=合田昌弘
※本稿は、飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
写真撮影=合田昌弘
「飯田商店」の厨房に立つ飯田将太さん。「おいしい」をとことん追求する“闘い”の舞台だ - 写真撮影=合田昌弘
■ラーメン美味求真
僕の「しょうゆラーメン」の、おいしい食べ方をお伝えしたいと思う。
どんぶりが運ばれてきたら、匂いを胸いっぱいに吸い込んでほしい。醤油を芯にした、鼻の奥から脳までを心地よく刺激する、いい香りがするはずだ。
スープの色は美しい琥珀(こはく)色。澄んでいる。味にも濁(にご)りがないから、醤油の風味をストレートに感じられる。醤油は搾(しぼ)りたての生き揚げ醤油を8種類、蔵から直接仕入れて使っている。
香りをかいで心を穏やかにしたら、れんげを使ってスープをどうぞ。どんぶりの手前から、たっぷりとスープをすくうのがおすすめだ。
手前のスープに浮いているのは比内地鶏などからとった旨み豊かな鶏油(チーユ)だ。そして、その下にあるのが豚のロースのA脂といわれる、豚肉で最高においしい脂身。
■最初のひと口のスープに感動を
豚は、霧島高原純粋黒豚、TOKYO X、天城黒豚という銘柄豚のいずれかだ。
飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)
そのロースを使い、低温調理で10時間かけてゆっくりと火を入れたチャーシューだ。これを、あえて脂が手前にくるように盛り付けてある。つまり、最初のひと口のスープに、そこから溶け出る脂も一緒に楽しめるようにしてあるというわけだ。
醤油が香る芳醇(ほうじゅん)なスープに、鶏油と豚の脂が合わさる。だから、絶対おいしいに決まっている。これを狙って盛り付けてある。最初のひと口がうまいっ! となれば、あとはずっとおいしくラーメンを楽しめる。
お客さまの中には、鶏油や脂の味が入らない、どんぶりの右上からスープを飲む方もいる。実は僕も同じ。
毎朝、製麺をしたあとに、お客さまにお出しするものと同じ「しょうゆらぁ麺」をつくる。匂いで全体をよく点検してから、まずスープをそこから飲む。でも、お客さまには手前から飲んでいただきたいと思っている。最高においしいはずだから。
■麺は国産小麦の甘い風味
次は麺だ。
麺を手前から引っ張り出して、強くすすり上げてほしい。つるつるつるっーーと。そしてスープをひと口、ふた口と飲んで、さらに麺をすする。なめらかで、しなやかな細めの麺が、程よくスープをまとって舌から喉(のど)を気持ちよく通りすぎていく。
と同時に、醤油とスープと小麦粉の風味が、舌の上から鼻腔まで、大きく花開くのがわかると思う。
れんげに麺とスープをのせて口に運ぶ方もいる。しかし、これはもったいない。しっかりすすると、味覚が4倍も敏感になるというデータがあるほど。だからおいしさがまったく違ってくる。
スープが飛んで服を汚すのが嫌なお客さまには紙のエプロンをご用意しているので、ぜひ思いっきりすすってほしい。
■チャーシューは10時間かけて作る
こうして、ある程度の全貌が見えたところで、手前に盛ってあるロースのチャーシューを食べてほしい。チャーシューは、ラーメンの中のご馳走(ちそう)だから、僕もいつ食べようかとワクワクしているもの。
このチャーシューは、低温調理で絶妙な柔らかさに仕上げてあるので、この柔らかさを保っている間に、ひと口でパクッと食べてほしい。一度に口に入れると、ロースの柔らかいところ、赤身のしっかりしたところ、そして脂身の甘さが合わさって実においしい。
このチャーシューを噛んで、うまいっ! となったときにスープをひと口。口の中が豚のおいしさであふれているときにスープを飲むと、旨みの相乗効果でもっとおいしい。
さらに、チャーシューを飲み込む前に麺をすすってほしい。そうするともっともっとおいしい。これは慣れないと、ちょっと難しいかもしれないけど。
■海苔もラーメンのご馳走
このあたりでコリコリッとした自家製メンマを食べて、口をリセットして少し落ち着かせる。
次は海苔(のり)だ。海苔はスープに浸からないように盛り付けてある。メンマを食べる前に、海苔をスープの中に沈めておく。30秒くらい経って、海苔に油脂とスープを吸わせてから食べてほしい。トロッとしてうまいから。
そして、すぐに麺をすする。これがまたおいしい。海苔で麺を包むようにして食べる方もいるが、僕としては佐賀県産の一番摘み海苔を使っていることもあり、海苔だけの味も体験していただきたい。
あとはネギだ。京都から九条ねぎを取り寄せている。食べているうちに散らばっているから、合間につまんで口直しをする。そして、またメンマを食べて、麺をすすって、豚バラの煮豚のチャーシューを食べて、スープを飲んで、と繰り返していたら食べ終わる。
写真撮影=合田昌弘
醤油の風味をストレートに感じられる美しい琥珀色のスープ。表面には鶏油と豚ロースのA脂が光る。 - 写真撮影=合田昌弘
■味の変化を楽しんでほしい
一杯のラーメンを食べる流れの中でとくに感じていただきたいのは、最初は醤油の風味だ。醤油がもつ酸(さん)もあって、キレのある醤油の味と香りがいい感じで続く。それが後半になるにつれて変化していく。
麺を動かしながら食べているから、麺からもスープに味が出る。小麦のでんぷんの甘さがスープに移っていく。すると醤油のキレはおさまり、今度は味に丸みを帯びて、実にふくよかな味わいになっていく。最初と最後で味が全然違っている。
そういう変化を楽しみながら食べていただくと、最後まで飽きることがなく、おいしいはずだ。
■「純水」へのこだわり
スープを炊く水は、逆浸透膜システムを導入して純水に近いものを使っている。
水道水だと、舌にひっかかるような違和感が出る。水道水やミネラルウォーターのほうが、水に厚みがあるので、ボディーのある、おいしいと感じやすいスープにはなる。
しかし、僕はあえてそれらを使わない。水にスープの骨格をつくられるのが嫌だから、限りなくゼロに近い水に、きれいな旨みだけを足していく。
水の力に頼ることをしない。だから原価はめちゃくちゃかかる。でも僕は、真っ白なキャンパスに絵を描くイメージでスープをつくりたいと思ってやってきた。
■生産者との出会いが生んだ「飯田商店」のらぁ麺
スープの材料は、秋田県産の「比内地鶏」、愛知県産の「名古屋コーチン」、鹿児島県産の「黒さつま鶏黒王」などの地鶏の鶏ガラと肉、鹿児島県産の「霧島高原純粋黒豚」、東京都産の「TOKYO X」、静岡県産の「天城黒豚」のゲンコツと背骨(背ガラ)と肉が主役だ。
それを、北海道産の利尻昆布と羅臼昆布が支える。昆布はどちらも天然物だ。ほかに、青森県産の干し貝柱、アサリ、乾燥マッシュルーム、そして白菜などの野菜が入る。
これらに決めている、ということではない。スープの材料については、飯田商店を始めたときは比内地鶏の鶏ガラだけだった。そこから始めて、いろいろ足したり引いたり、たくさんの生産者さんとの出会いの中で、少しでもおいしくしていくものを求めてきた。
■生産者さんと会うことがスタート
それは麺も同じ。
今の「らぁ麺」の麺の小麦粉は、北海道江別産の「はるゆたか」の一等粉という小麦の芯だけを挽(ひ)いたものを主にしている。これに、秋田県産の「ネバリゴシ」、香川県産の「さぬきの夢」など数種の小麦粉を加え、内モンゴル産のかんすいを使って製麺をしている。小麦粉は、つけめん用も入れれば、10種以上ある。
醤油は、兵庫県の足立醸造の国産有機大豆を使った樽仕込みの生揚げ醤油を主に、8種をブレンドして、店で火入れをして醤油だれをつくっている。醤油だれには、リンゴ酢、本醸造みりん、はちみつなども入る。
ほかにも、伊豆大島産の「海の精」、高知県産の「海一粒」、広島県産の「海人の藻塩」などの塩、鹿児島県指宿産の本枯節(かつお節)、香川県産の煮干し、おやさいご飯の野菜など、使っている食材はたくさんある。
ほぼすべての産地に足を運び、生産者さんと話をして仕入れさせてもらっている。単に、たくさんの上質な材料を集めているからおいしい、ということではない。
一杯のラーメンは、生産者さん一人ひとりの想いの集合体だ。皆さんの想いが僕の中に入ってきて、それが一杯のラーメンに結実する。これが「飯田商店」のラーメンだ。
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飯田 将太(いいだ・しょうた)
「飯田商店」店主
1977年10月、神奈川県真鶴町に生まれる。明海大学経済学部卒業後、日本料理の道へ進む。25歳のときに、家業に1億円の借金があることを母親から告げられ、返済のために2002年11月「ガキ大将ラーメン湯河原店」を始める。2008年7月、「支那そばや」のラーメンに衝撃を受け、この道を究めることを決意。2010年3月16日「らぁ麺屋 飯田商店」開店。1日の客数ゼロからスタートし、客数300人にまで大躍進する。2017年から、東京ラーメン・オブ・ザ・イヤーTRY大賞総合1位を4連覇。殿堂入りを果たす。2019年には一時休業をしてラーメンを一新。2021年から、食べログ「全国ラーメン・つけ麺TOP20」1位を継続中。2025年3月16日、開店15周年を迎え、店名を「飯田商店」に変える。著書に『本物とは何か』(プレジデント社)がある。
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(「飯田商店」店主 飯田 将太)