他の同窓会とは一味違う「慶應三田会」 圧倒的な結束力と社会に張り巡らされたネットワークが持つ影響力とは?
2025年4月16日(水)4時0分 JBpress
SNSの普及で人々の承認欲求が肥大化する中、「他者よりも優れた自分を演出したい」という欲望が、今や消費行動の大きな源泉になった。「モノ」や「コト」の枠を超え、どうすれば優越感に浸れる「マウンティングエクスペリエンス(MX)」を提供できるのか。『「マウント消費」の経済学』(勝木健太著/小学館)から内容の一部を抜粋・再編集し、実例を挙げながら「マウント消費」のメカニズムに迫る。
MXの活用に成功している慶應三田会、「慶應卒」であることは、人間関係やビジネスにおいてどれほどのブランド価値を発揮するのか?
慶應三田会:卒業生に「自分は慶應卒」というステータスをさりげなく、時には堂々とアピールする場を提供する、最強の同窓会ネットワーク
単なる同窓会とは言えないほどの存在感を放つ慶應三田会は、慶應出身という特権的なステータスを巧みに演出することで、その地位を圧倒的に強固なものとしている。
三田会に参加することは、旧友との再会という表面的な目的にとどまらず、「自分は選ばれた組織の一員である」という優越感を味わう特別な体験そのものである。この場は、慶應ブランドの共有者同士が自らの存在価値を確認し合い、その絆(きずな)を活用してさらなるビジネスチャンスや社会的影響力を得るためのネットワークとしても機能している。「慶應出身であること」を実感し、それを社会的に誇示するための舞台を提供しているのである。
この「選ばれし者」としての感覚こそが、コミュニティとしての独自性を際立たせている。名門私立である早稲田の稲門会と比較しても、三田会にはある種の特別な「オーラ」が漂い、その雰囲気が参加者に独特の高揚感を与えている。
その場で交わされる「どのゼミにいたか」「誰と学んだか」といった会話は、思い出を懐古すると同時に自らの学歴と人脈をさりげなく強調する格好の機会となる。「あの教授のゼミ出身だ」「◯◯先輩と親しい」といった発言が、知らず知らずのうちに自らのステータスをアピールし、結果として自然発生的な「マウント合戦」へと発展することも珍しくない。
こうした微妙な優越感の争奪は、表向きには和やかな雰囲気を保ちながらも、参加者に特有の緊張感と魅力をもたらしている。この些細な違いを誇る文化が、三田会特有のステータス競争を形成し、同窓の集まりとして以上の意義を持たせている。そして、こうした競争心が三田会の価値をより一層高め、集まる場を他の同窓組織とは一味違う魅力的な存在へと押し上げているのである。
真の強みは、その圧倒的な結束力にある。年次単位で編成される「年度三田会」、企業内で活動する「勤務先・職種別三田会」、業界横断的な「職域三田会」、さらに全国各地で展開される「地域三田会」など、そのネットワークは多岐にわたり、縦横無尽(じゅうおうむじん)に社会へと張り巡らされている。
慶應出身者同士が強固な信頼関係を築き、互いに支え合う場として機能している。その結果、「慶應卒」という肩書きが一種のブランドとして認知され、信頼と尊敬を勝ち取る力を持つようになる。ネットワークが社会の隅々にまで広がることで、慶應出身者はどこに行っても「特別な存在」として認められる地位を享受できる。
このようにして高められている結束力こそが、三田会の揺るぎない強みであり、慶應出身者にとって圧倒的なアドバンテージを生み出している。社会的影響力をもつネットワークとして独自の存在感を放っているのである。
その結束力が最も象徴的に表れたのが、2023年に慶應高校が夏の甲子園で優勝したときである。スタンド全体が三田会のカラーに染まり、外野席に至るまで総立ちで応援歌「若き血」を熱唱する光景は、多くの人を魅了した。
その迫力は、慶應卒でない者さえ引き寄せ、応援に駆けつけさせるほどの力を持つ。さらに特筆すべきは、野球に興味がない層さえ「慶應卒」という理由だけで甲子園の応援に向かうという現象である。この行動にこそ、慶應の結束力の真髄が象徴的に現れている。
競技の結果を超えて、慶應ブランドへの誇りとその共有が、三田会を中心とした全体の団結をより強いものにしているのだ。それは学校愛や伝統の域に収まらない一種の社会現象として三田会の影響力を如実に証明しているのである。
また、出身者同士で「実は慶應なんです」と名乗る場面も少なくない。この一言を単なる「自己顕示」と捉えるのは早計である。そこには明確な実利が存在している。
共通の出身校である者同士であれば、「本当ですか、私もです」という返答から瞬時に共通の話題が生まれ、その場で特別な信頼関係が構築される。特にビジネスの場では、「慶應」という言葉が強力な合言葉として機能する。これによって会話がスムーズに進むだけでなく、互いの信頼が前提となるため、商談やプロジェクトが加速するきっかけとなる。
慶應という共通項が、学歴以上の価値を生み、人間関係やビジネスの可能性を広げるためのツールとして活用されているのである。このように、「実は慶應なんです」という一言は、表面的には軽い自己紹介のように思えるものの、実際には信頼構築と連携促進を可能にする極めて実利的な効果を持つ発言なのである。そして、この暗黙のネットワークが、出身者同士の絆をさらに強固なものとしているのだ。
三田会のパワーは、金銭的な側面においても圧倒的である。慶應義塾大学の創立150周年記念事業では、総額285億円という膨大な寄付金が集まり、申し込み件数は約5万件に達した。
この集金力は、他の同窓会や団体と比較しても群を抜いており、組織力の高さを如実に物語っている。この財力は慶應義塾の運営基盤を強化し、教育や研究の質を向上させる原動力となるだけでなく、三田会が社会的影響力をさらに強化するための基盤にもなっている。
寄付金を通じて慶應卒業生のブランド価値が再確認され、その結束が次世代へと引き継がれる構造が確立されているのだ。この集金力は、慶應義塾の発展と三田会自身の影響力の拡大を支える要であり、慶應ブランドの独自性と強さを象徴する一側面と言えるだろう。
三田会の魅力の隠れた要素は、「慶應卒である自分」を再確認し、その特権的な体験を味わえることにある。
慶應の独特な文化──たとえば、「学生」ではなく「塾生」、「先生」ではなく「君」と呼ぶ慣習──が、この特別感を強調し、存在意義を支えている。
これらの文化的特徴は、慶應出身者に独自の一体感と誇りを与えている。三田会の場に集うことで、「慶應卒」というアイデンティティを改めて確認し、その共有による特有の経験を味わうことができる。
これが、三田会を一種のエリート意識を醸成する舞台へと様変わりさせている。この一体感が繁栄を支え、時代を超えてその地位を揺るぎないものにしているのである。
「慶應卒であること」に誇りを持ち、それを社会の中で特権として享受する体験が、三田会の最大の魅力であり、この独特の文化が未来にわたる発展の原動力となり続けるのだ。
<連載ラインアップ>
■第1回 なぜロレックスでなくアップルウォッチを選び、インスタで“匂わせる”のか?「マウント回避」と「特別感」の正体
■第2回一度乗ると価値観が変わる? 高級車同士の「優越感争い」を超えたテスラの「環境マウンティング」とは
■第3回「俺は自由だ」ワルの愛車ハーレーダビッドソンは、ユーザーの自己肯定感をどう高め、新旧ファンを虜にするのか
■他の同窓会とは一味違う「慶應三田会」 圧倒的な結束力と社会に張り巡らされたネットワークが持つ影響力とは?(本稿)
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筆者:勝木 健太