社長の訓示よりも断然効果的…プルデンシャルが週2回のMTG前に流す"やる気を引き出すメッセージ"
2025年4月27日(日)16時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip
※本稿は、田中大貴『売れる組織 売れる営業』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
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■みんなで協力するカルチャーはどうつくれるか
プルデンシャルはフルコミッションのため、極論すれば自分さえ良ければいいという利己主義的な発想が生まれる可能性があります。しかし、プルデンシャルには「助け合うカルチャー」が根づいていました。
先輩が後輩に対して、ボランティアでセミナーや勉強会をしてくれるのは当たり前のことでした。報酬を得る機会をあきらめ、貴重な時間を使うのですから、助け合いの精神がなければ引き受けてくれるわけがありません。
その話を聞いて育った身としては、後輩に対するセミナーや勉強会を求められれば、私も喜んで引き受けていました。
一文の得にもならないロープレの相手を引き受けてくれるのも、助け合いのカルチャーの賜物です。これは、プルデンシャルだけでなく、キーエンスにもあるカルチャーです。
この2社が高い成果をあげている理由のひとつが、企業のカルチャーにあるのは間違いありません。たしかなことは、みんなで協力するカルチャーをつくらなければ、個人の資質だけに任せても限界があるということです。
■これがないと知識やノウハウの「囲い込み」が起きる
同じベクトルのカルチャーとして、プルデンシャルにもキーエンスにもあるのが、惜しみなく教え合うカルチャーです。
こういったカルチャーがない組織では、自分の存在価値や地位を保持しようと、知識やノウハウを「囲い込む」傾向が見られます。
その直接の要因は、評価制度が「相対評価」だからです。成果をあげている人の知識やノウハウを、成果をあげていない人に教えることで、万が一自分を超えるような成果をあげられてしまったら、自分の評価が下がりかねません。売れる営業は、それを恐れて情報を囲い込んでしまいます。
そのうえ、その組織における売れる営業は、売れない営業から過度に「神格化」される傾向があります。
売れない営業にとっては、神のような存在に対して恐れ多くて気軽にアドバイスを求めに行けないという心理が強く働きます。あるいは「こんなことも知らないの」と蔑まれることを恐れ、萎縮する傾向も見られます。
売れる営業、売れない営業のそれぞれの思惑によって、思わしくないカルチャーにまで発展します。しかしそれは、組織のトップやマネジメント層からすると、喜ばしいことではありません。
■知識や情報の囲い込みをしない制度づくり
教え合うことをKPIや評価制度に組み込むのもひとつの方法です。企業が大事にする考え方や姿勢を表現したものがカルチャーなので、それを評価制度と結びつけるのはもっとも手っ取り早い手段です。
プルデンシャルの場合はフルコミッションのため、そもそも相対評価ではなく「絶対評価」です。情けは人のためならずと言われるように、教え合うことはいずれ自分の成果にもはね返ってきます。自分だけでなく、みんなで成果をあげればいいと素直に思えます。
キーエンスには、企業全体の利益が自分たちの給与に還元される仕組みがあります。給与の制度設計上、企業の利益の一定割合がボーナスに還元されると決まっているのです。
企業が儲かれば、営業パーソン全体に回せる人件費が多くなる。それによって、みんなでハッピーになる。
「だからみんなで頑張ろうぜ」
そうした発想が自然と生まれるのです。仮に自分の部署が絶不調だったとしても、ほかの部署が助けてくれたら感謝の気持ちが生まれます。次は、自分たちがほかの部署を助けようという気持ちにもなるでしょう。
写真=iStock.com/maroke
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キーエンスには自分が良いと思った知識やノウハウ、情報を、加工することなく、囲い込むこともせず、社内のメーリングリストにすぐに発信するという素晴らしいカルチャーがあります。
在籍した2年半の間、毎日のように誰かが発信した良い気づきが流れてきたと記憶しています。それほど、日常的に教え合うカルチャーが定着していたのです。
これらのことを評価制度や金銭的な見返りと関連づけると、カルチャーが崩壊してしまうリスクもあります。しかし、「利他の精神」が定着するまでの暫定的な方法として、KPIや評価制度に組み込むことには一考の余地があるかもしれません。
■利他の精神を組織に根づかせたプルデンシャルの手法
営業という職種にとって、利他の精神はきわめて重要な心構えです。そもそも営業の基本的な立ち位置は、顧客の課題解決に寄与することです。顧客の課題解決は、利己的な心構えでは到底実現することは不可能です。
何度もお話ししているように、プルデンシャルにはペイフォワード的な「教えられたから、教えていく」カルチャーがあります。
ボランティアの機会を多数用意
その一環として、プルデンシャルでは数々のセミナーや研修会が催されています。その講師を頼まれるのは、エグゼクティブ・ライフプランナーをはじめとする売れる営業です。彼らは、講師を受諾するときに、決して報酬を要求しません。ボランティアの手弁当です。
たとえば、生命保険業界には「JAIFA(公益社団法人生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会)」という組織があります。ここには「JAIFA日本会」という大きな組織から、「JAIFAプルデンシャル会」「JAIFAソニー生命会」など、企業ごとの分科会のような組織もあります。
JAIFAプルデンシャル会は、関西ブロック、中部ブロック、関東ブロックなどに分かれており、プルデンシャルの営業パーソンの約9割がこの組織に加入しています。それぞれの組織ごとに、手弁当でセミナーや研修会を企画していますが、それらはすべてボランティアです。
ほかにも、JAIFAのイベントで震災復興のボランティアが企画されることもあります。毎年各支社ごとに、その年のボランティア活動の内容を宣言するなど、プルデンシャルには利他の精神を養うイベントが数多く企画されているのです。
なぜこれほどまでにプルデンシャルがボランティアを重視するのか、当初はよくわかりませんでした。
しかし、プルデンシャルは「家族愛・人間愛」を標榜しています。そのひとつの体現として利他の精神を持ち、ボランティア活動をするのは当たり前という意識とともに、それを行動と結びつけているのです。
カルチャーは、明文化されているだけでは浸透しません。プルデンシャルは、カルチャーを浸透させるためにあらゆる手段を講じているのです。
■テンションとモチベーションを高めるMTG前の仕掛け
週2回のミーティング時の演出
プルデンシャルの演出がうまかったのは、ミーティングにも表れていました。プルデンシャルでは週に2回のミーティングが行われますが、始まる前に必ず「オープニングムービー」が流されます。
よりオフィシャルなミーティングでは、それに加えて「クロージングムービー」も流されます。この演出は、カルチャーの浸透には意外とあなどれないものです。
月曜日の朝9時にミーティングを始めるとしたら、普通の企業は社長や組織のトップが出てきて訓示からスタートします。一方、プルデンシャルはオープニングムービーから始まります。ムービーの中身は、簡単に言えばテンションとモチベーションを高める内容です。
田中大貴『売れる組織 売れる営業』(実業之日本社)
たとえば、過去の偉人たちが残した名言、プルデンシャルの偉人たちが残した言葉、年間チャンピオンがスピーチしたときの発言などが流れ、いやが上にも気持ちが上がります。
クロージングムービーでよく流れていたのは、イラク戦争後に米兵が帰還し、家族にサプライズで会いに行ったときの様子を記録したものでした。
プルデンシャルは家族愛・人間愛をうたっています。その映像を見ると、自然とより多くの人に家族愛・人間愛を届けなければならないと改めて決意させられるのです。
私も、オープニングムービーやクロージングムービーを見て「やるぞ!」という気になっていました。いま振り返ってみても、プルデンシャルの演出はカルチャーの浸透と体現に非常に効果的だったと感じられます。
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田中 大貴(たなか・だいき)
Sales Navi 代表取締役
2008年同志社大学文学部を卒業後、キーエンスに入社。連続で目標を達成したのち、2010年にプルデンシャル生命保険にスカウトされ入社。以来11期連続社長杯入賞。2017年に、当時全国最年少でエグゼクティブ・ライフプランナー(部長)に就任。2017〜2021年度には、日本の生命保険募集人登録者、約120万人のなかで上位0.01%しかいないとされるMDRT TOT会員に認定される。順風満帆な営業人生を送る一方で、「道しるべがないがために営業に悩んでいる組織や人」の存在を知り、「営業の道しるべを創る」というビジョンを掲げて2021年にSales Naviを創業。事業を推進する傍ら、ひとりでも多くの営業パーソンが抱える課題や悩みを解決したいという想いから「営業の教科書」をつくることを決意し、『売れる組織 売れる営業』を執筆。
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(Sales Navi 代表取締役 田中 大貴)