「仕事を続けていれば脳は衰えない」は大誤解…和田秀樹「50代の前頭葉老化を防ぐたった1つの方法」

2024年4月28日(日)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Halfpoint

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老化の兆候が表れるのはいつか。医師の和田秀樹さんは「脳の中の『前頭葉』の機能が衰えると、本当の老化が始まる。最近どうも意欲が湧いてこない、感情が乏しくなった気がするという状態であれば、あなたの前頭葉は劣化が始まっているのかもしれない。このような『前頭葉バカ』の状態を食い止めるには、これまでに経験したことがない新しい体験をすることだ」という——。

※本稿は、和田秀樹『老後に楽しみをとっておくバカ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。


■老化のサインは意外なところから


50歳前後になると、人は誰しも、あるサインを感じ取ります。


40歳前半くらいまで「当たり前にできていたこと」が、ふいに難しくなる……。


そう、「老い」のサインです。


わかりやすいのが、視力です。


まず、本を読むのが億劫になります。小さな文字がかすんで読みづらくなります。気がつけば、スマホの画面をうんと目元から離してピントを合わせようとしていないでしょうか?


電車に乗って、広告や行き先を表示するトレインチャンネルを見ようとしたら、ぼやけてよく見えないなんてことは?


間違いなく、老眼です。


老眼になると文字や画像がぼやけることになるので、情報のインプット量がガクンと減ってしまいます。


また現代社会はデジタルテクノロジーの進化によって、経済も文化も人々の価値観もすさまじい勢いで変化していますが、ふと、その変化についていけなくなっている自分に気づきます。


「新しい何か」を吸収しにくくなっているのです。


「もうデジタルの最先端にはついていけないな……」
「おっさん(おばさん)だから仕方ないか……」


数年前までは意地でも口にしなかった言葉を、つい口走ってしまいます。いや、口走りたい言葉そのものを思い出せなくなる瞬間も増えます。「あの映画、良かったよねえ。ホラ……なんだっけ、ホラ。あの女優が出ていた……あの女優だよ、ホラ、なんて名前だっけ?」と、聞き手にしてみればまったくノーヒントの会話になっていたり。


友人、知人、有名人……、以前はよどみなく出てきた人の名前も、たびたび思い出せなくなる瞬間に遭遇します。


想起力(思い出す力)の低下です。


些細な会話で感じる自分のふがいなさに、小さなイライラがたまっていきます。


ため息とイライラを積み上げたまま、1日を終え、お風呂に入る。


このとき自分の顔を、風呂場や脱衣所の鏡でふと見つめます。


写真=iStock.com/Halfpoint
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Halfpoint

老眼のため見過ごしていましたが、鏡に近寄ってよく見てみれば、顔にはシワやシミが増えていることに気づきます。


■人間は右肩上がりに成長し、やがて下降をたどる


さらに髪は力強さを失い、白髪も日に日に増えているように見えます。体形も変わりました。お腹にぽっこりとついた脂肪が落ちづらくなり、肌にハリもありません……。


「すっかり老けたな……」


何度目かの深いため息が漏れます。


人間は赤ん坊として生まれると、体と頭脳を右肩上がりに成長させながら、人生を歩んでいきます。


背は伸び、体重は増え、知識は積み上がり、経験も蓄積されていきます。


まるで空高く打ち上げられる野球のボールのように、打ち出された途端、グングンと上昇しながら加速するように人間は成長していきます。


しかし、いくら強い打球でも、やがて勢いは失われます。


徐々に力は弱まり、頂点で弧を描いて、今後は下降していきます。


同じように人間の体も衰えていく……。


下降線をたどり始めたことを、いやがおうにも意識させられるのが「50歳前後」というわけです。


ただし。


アンチエイジング医療に関するエビデンスと経験を豊富に持つ医師である私に、ここで言わせていただきたい。


老化が始まるのは、肉体的な衰えからなのではありません。


「本当の老化」は、もっと別の場所から始まるのです。


■老眼、想像力…中年以降の経年劣化にはあらがえない


人でもものでも、経年劣化にはあらがえません。


靴でも、自動車でも、冷蔵庫でも、使えば使うほど劣化していきます。


人間の体も物理的な存在である以上、くたびれるのです。


たとえば、先にあげた「老眼」。


写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

その原因は、目の筋力の衰えです。


眼の中には水晶体というレンズの役割を担う部位があります。この水晶体を厚くしたり薄くしたりすることで、人はピントを合わせています。


ところが45歳を過ぎるあたりから、この水晶体の厚さを調節する筋力がガクンと弱まります。ピントを合わせようと思ってもうまく合わせられないのです。


これは、あたかも機械部品が摩耗するようなもので、物理的な現象であり、程度の差こそあれ、誰しも受け入れざるをえない劣化現象です。


「想起力の低下」も同様です。


大好きだった映画のタイトルが思い出せない。知り合いの名前が思い出せない。何を買うつもりだったかど忘れしてしまう……。


加齢によるこうした普通の物忘れは「想起障害」と呼ばれています。


想起障害はこれまでの人生でたくさんの物事を記憶してきた結果、脳の中が洋服でパンパンに膨らんだクローゼットのような状態になっていて、どこかにしまった記憶はあるのに取り出したくても取り出せなくなっているのです。


だから想起障害は健常者にも起こる物忘れであって、認知症などの病気の症状としての物忘れとは基本的に異なります。


長い人生でたくさんの経験を積んできた中年以降だからこその現象と言えます。


■最も危険なのは、前頭葉の老化である


「顔のシワ」はさらに仕方ないことです。


私たちの肌には、コラーゲンやエラスチンといった弾力性やハリを形成するのに役立つたんぱく質が含まれています。


コラーゲンやエラスチンは「性ホルモン」がその生成をうながすといわれているのですが、年齢を重ねると誰しも、性ホルモンの分泌自体が減少してしまいます。


シワもカサカサ肌も、スキンケアだけでは限界があります。年齢を経るごとに性ホルモンの合成は減少していきますから、肌も次第に衰えていく。


これはやはり仕方のないことです。


しかし、先ほど私は、「本当の老化が始まるのは、肉体的な衰えからなのではありません」と言いました。


「本当の老化」は、もっと別の場所から始まる、と。


では、いったい何が衰えると、「本当の老化」が始まってしまうのでしょうか?


結論を先に言いましょう。


脳の中の「前頭葉」の機能が衰えると、本当の老化が始まるのです。


前頭葉は、大脳の前方に位置する部分です。


前頭葉の主な役割は、「感情」や「意欲」をコントロールすることといわれています。


ですから「前頭葉の機能が低下する」ことは、すなわち、感情や意欲が劣化してしまうことになります。


最近どうも意欲が湧いてこない……。


感情が乏しくなった気がする……。


そんな状態であれば、あなたの前頭葉は、劣化が始まっているのかもしれません。


「そう言えば……」と思い当たりませんか?


老眼で小説が読みづらくなったり、俳優の名前が思い出せなかったりもさることながら、それ以上に、小説を読んでも映画を観ても、若い頃のように“血湧き肉躍る”ような感動を味わうことが減っている……。それどころか、読みたい、観たいという意欲も衰えてくる。


私が「本当の老化」と指摘したいのは、まさにここなのです。


めっきり感動が減った。


感動が減ったから、意欲もやる気も湧いてこない……。


それこそが、「本当の老化」が、静かに、しかし確実に進行している証拠なのです。


私はそんな状態を、「前頭葉がバカになった状態」と呼んでいます。


「前頭葉バカ」になってしまった状態。


あえてキツい言葉を使うのは、それだけの理由があるからです。


■「毎日の本や新聞」で脳を鍛えられるという誤解


「前頭葉が衰える? いやいや、私は毎日のように本や新聞を読んで、脳を刺激しているから問題ないよ」
「『前頭葉バカ』だって? ハハハ。俺は毎日、仕事をきちんとこなしているから、脳の衰えとは無縁だよ」


読者の中にはそう思われる方もいるかもしれません。


しかし残念なことに、ただ漫然と読書をしたり、仕事をソツなくこなしたりしているだけでは、前頭葉の衰えを防ぐことはできません。


たとえば「読書」という行為は、文字列の内容を認知して、理解する作業です。


写真=iStock.com/SteveLuker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SteveLuker

言語の認知や理解、言語の記憶を司るのは、脳の両側面に位置する「側頭葉(そくとうよう)」という部分。


読書しているとき、脳は、ほとんどこの側頭葉しか使っていません。いつもの馴染みの著者の本や、毎朝、習慣的に読んでいる新聞の場合はなおさらです。


また、決まり切った仕事を毎日ルーティンのように続けているだけでは、脳は省エネモードになって、ラクをしようとしてしまいます。


いずれにしても「前頭葉」はほとんど使われていません。だから、読書を大量にしたり、単に現役で仕事を続けていたところで、前頭葉を活性化することはできません。


■前頭葉の老化を食い止める、たった1つの習慣


では、前頭葉はどうすれば活性化できるのでしょうか?


どうすれば、「前頭葉バカ」を食い止めることができるのでしょうか?


ズバリ言いましょう。


それは、「これまでに経験したことがない新しい体験をすること」です。


先ほども述べたように、前頭葉の主な役割は、「感情」や「意欲」のコントロールです。


つまり、「感情」が揺さぶられ、「意欲」が湧き起こるような新しい体験をすれば、前頭葉も活性化されるというわけです。また、前頭葉は想定外のことに対応する脳だと考えられています。


訪れたことのない場所に行って、人生でこれまで見たこともなかったすばらしい景色を眺める。


あまり縁のなかった演奏会に足を運んでみて、これまで聴いたことがなかった音楽に触れてみる。


馴染みの友達ではなく、新しく初めて知り合った人と、いつもは行かないようなしゃれたレストランに行ってみる。


私たちはこうした「未知の世界」に触れたときに、「いったいこれは何なのか」と、好奇心を揺さぶられ、前頭葉が働きます。


湧き立つ好奇心は、意欲ややる気に火をつけて、さらなる未知の世界へと足を運ばせます。


こうして前頭葉が活性化してくると、ますます新たな経験への興味が湧き起こるようになります。


■老化を防止するための何よりの筋トレ


50代にもなると、「今さら新しいことなんて億劫だなあ……」と腰が重くなりがちです。



和田秀樹『老後に楽しみをとっておくバカ』(青春出版社)

しかし「新しいこと」を敬遠することが、あなたの前頭葉を劣化させ、老化が早まることにつながるのです。


筋肉と同じで、脳も使わない部分は衰えていきます。腹筋運動をすれば、お腹まわりの筋肉が発達します。スクワットをすれば、太ももの前方にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)や、お尻の筋肉である大臀筋(だいでんきん)が鍛え上げられます。


「前頭葉」を鍛えるのも、筋トレと同じことです。


これまで経験したことのないことをすることが、老化を防止するための何よりの筋トレとなるのです。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)

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