「経営の神様」松下幸之助も稲盛和夫も大切にしていた…100年続く企業の経営者に共通する"たった一つのこと"

2025年5月16日(金)17時15分 プレジデント社

松下幸之助氏(1985年7月29日) - 写真=共同通信イメージズ

長く続く会社は何が違うのか。税理士の山下明宏さんは「『経営の神様』と呼ばれる2人の経営者、松下幸之助氏と稲盛和夫氏が、共通して大切にしていたことがある。それは、会計力だ」という——。

※本稿は、山下明宏『稼ぐ力は会計で決まる』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。


■経営には3つの道がある


かつて「経営の神様」と呼ばれた松下電器(現在のパナソニック)の創業者・松下幸之助さんは、経営には「王道」「覇道」「邪道」という3つの道があると説きました。


写真=共同通信イメージズ
松下幸之助氏(1985年7月29日) - 写真=共同通信イメージズ

松下さんの見立てによれば、世の中の90%の会社は「覇道の経営」を行っています。社会貢献などは考えず、従業員の幸福を犠牲にしてでも、ひたすら自社の利益を追求するような経営です。


それより悪いのは、社会のルールさえ守らずにお金儲けだけを考える「邪道の経営」ですが、こちらは全体の5%程度。残りの5%が、もっとも望ましい「王道の経営」です。


では、「王道の経営」とは何か。それについて松下さんはこんな言葉を遺しました。


宇宙根源の法則に則った経営こそ王道や。

さすがに、「神様」の言葉は深遠です。「宇宙根源の法則」といわれても、あまりに深遠すぎて、ふつうの人間にはすぐには飲み込めません。


■「宇宙根源の法則」とは何なのか


しかし、やはり「経営の神様」と崇める人の多い京セラの創業者・稲盛和夫さんも、著書の中で同じようなことをおっしゃっています(『「成功」と「失敗」の法則』致知出版社)。


私は、この宇宙には、すべての生きとし生けるものを、善き方向に活かそうとする「宇宙の意志」が流れていると考えています。その善き方向に心を向けて、ただひたむきに努力を重ねていけば、必ず素晴らしい未来へと導かれていくようになっている……と思うのです。

宇宙根源の法則に、宇宙の意志。日本を代表する2人の偉大な経営者がおっしゃるのですから、企業経営には何か目に見えない不思議な力が強く作用しているのでしょう。その不思議な力を味方につけられるかどうかが、堂々たる「王道の経営」を実現するためのポイントなのだろうと思います。


■神様たちも「ささやかな中小企業」経営者だった


とはいえ、その「不思議な力」とは何なのか、よくわかりません。


松下電器や京セラのような大企業を育てたカリスマ経営者が到達した境地ですから、「ささやかな中小企業をやっている自分なんかには無縁の話だ」などと聞き流す社長も多いでしょう。


でも、松下電器も京セラも、最初から日本を代表する大企業だったわけではありません。松下さんも稲盛さんも、最初は「ささやかな中小企業」からスタートしました。そこから「宇宙」につながるような経営手法を築き上げたのです。ですから、たとえ小さな会社であっても、「王道の経営」という境地に到達することはできるのではないでしょうか。


■「会計がわからんで経営ができるか!」


では、その「不思議な力」はどこから生まれるのでしょう。私は企業会計を扱う税理士なので、この2人の「会計力」に注目します。


かつて松下さんは「経理というものは、単に、会社の会計係ではなく、企業経営全体の羅針盤の役割を果たす」とおっしゃいました。一方の稲盛さんは「会計がわからんで経営ができるか!」が持論。2人とも、会社の会計的な側面をとても大事にする経営者でした。


たとえば松下さんは、「あんまり儲かりまへんなぁ」などとボヤく系列の家電販売店の店主に対して、よく「帳簿を毎日つけてるか?」と聞いたそうです。「その日の帳簿はその日につけろ」「今日の損益をちゃんと見てから寝ろ」というのが口癖でした。


これは私の想像ですが、そうやって毎日しっかりと帳簿と向き合うことで、経営者としての心が磨き上げられる──松下さんは、そんなふうに考えていたのではないでしょうか。


実際、税理士として毎月さまざまな会社の帳簿をチェックしていると、それをくり返しているだけで社長の心持ちが整い、経営状態が好転していくケースをよく見ます。


■稲盛氏が「1取引2伝票」を徹底したワケ


また、稲盛さんは会計について「1対1対応の原則」を掲げていました。商品とお金の取引があれば、必ず伝票が起票されます。その伝票を通じて、商品の動きとお金の動きをすべて「1対1」で処理していく。


単純で当たり前の原則のように思えますが、それを徹底しないことで生じる不正は少なくありません。不正が起こらなくても、この「1対1対応の原則」をないがしろにして、伝票なしで商品やお金を動かしたり、逆に伝票だけ確認して商品やお金の動きを見ない「どんぶり勘定」の経営者は、自社の経営状態を正確に把握できないでしょう。


さらに稲盛さんは、「1取引2伝票」も徹底させました。1つの取引を必ず2つの伝票で把握するということです。まず商品を売ると売掛金が発生するので、そこで1つめの伝票が起こされる。でも、その取引はそこで終わるわけではありません。取引相手の支払いで売掛金が回収され、2つめの伝票が起こされるところまでが取引です。売掛金の伝票だけでお金の流れを把握していたのでは、売上がいつ現金化され、どの段階でいくら利益が出たかといったことを正確につかめません。


稲盛さんの経営哲学の根底には、そういう正しい「会計」のあり方に対する信念がありました。それは松下さんも同じでしょう。会計をゆるがせにしていたのでは、どんな商品をどのように売ろうが、会社の経営は成り立たない──2人の偉大な経営者の言動から、私はそんなメッセージを受け取っています。


写真=iStock.com/pepitoko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pepitoko

■「帳簿さえつけていればOK」ではない


その考え方をひとことでいうなら、「経営即会計、会計即経営」ということになるでしょうか。「宇宙根源の法則」「宇宙の意志」といった言葉でしか表現できない不思議な力の源泉は、「会計」にこそあると思うのです。


さて、それでは会社経営における「会計」とはどういうものでしょうか。


松下さんは「帳簿」を大事にすることを説いておられました。たしかに、帳簿は会計にとってとても重要です。「会計=帳簿」というイメージをお持ちの方もいるでしょう。でも、きちんと帳簿さえつけていれば「しっかり会計をやっている」ことになるかというと、決してそんなことはありません。


会計の定義にもいろいろありますが、私は本書(『稼ぐ力は会計で決まる』)で、帳簿から始まる一連の流れ全体を「会計」と呼びたいと思います。それは、「帳簿」→「監査」→「報告」→「責任」という流れです。


帳簿をつけたら、それを税理士や会計士などの資格を持つ第三者がチェック(監査)して、最終的にはそれを決算書という形で報告する。その報告内容を踏まえて会社の業務を次に進めていくのが、社長の責任です。その業務の結果をまた帳簿につけて、監査を受ける。そういうサイクルをぐるぐると回し続けるのが、「会計」にほかなりません。


■監査の頻度は“会計力”のバロメーター


ここで重要なのが、この会計サイクルを回すペースです。これは、会社によって大きく違うでしょう。


TKCに所属する税理士や会計士は、毎月1回の「巡回監査」を行い、その結果を報告します。ですからそれを受け入れている会社は、月に1回のペースで会計サイクルが回っているわけです。


でも、そのような会社は少数派かもしれません。多くの中小企業は、年に1回、もしくは年に2回の決算期に帳簿をチェックするだけではないでしょうか。会計サイクルが、年に1回、半年に1回のペースでしか回っていないのです。


どちらの「会計力」が高いかは、いうまでもありません。帳簿のチェックは、会社の現状を把握して次に進む方向を考え直すチャンスです。その頻度が高いほど、より良い経営を行うための判断材料も多くなるでしょう。


どんな物事であれ、現実を直視するのは改善への第一歩。メジャーリーグで大活躍する大谷翔平も、打席で凡退した後はベンチでじっくりと自分が打ち損ねた様子を動画でチェックしています。それが、次打席でのホームランにつながるのです。


■お金が貯まる人は何が違うのか


マメに帳簿をチェックすることの大切さは、たとえば家庭のお金の出入りを記す家計簿のことを考えてもよくわかるでしょう。家計簿を毎日つけている人と、月に1回しかつけない人とでは、お金の貯まり方が違うはずです。



山下明宏『稼ぐ力は会計で決まる』(幻冬舎)

毎日つけていると「ああ、今日もこんな無駄遣いをしてしまった」などと悔やむ経験を重ねることで、自然と財布の紐が固くなっていくもの。それで少しずつでもお金が貯まっていくと、ますます「赤字にしたくない」という気持ちが強まるので無駄遣いが減り、どんどん黒字が増えていくのです。


会社の会計も同じこと。サイクルが年に1度の会社と月に1度の会社では、自己資本の増え方がまったく違います。さらに、社長が自分で毎日帳簿を見てチェックしていれば、自己資本はもっと増えやすくなるでしょう。


だから松下さんも、販売店の店主に「帳簿を毎日見なさい」と指導していたのだと思います。そうやって毎日コツコツと経営についての情報を積み上げていくことで、「宇宙根源の法則」につながる不思議な力が働くようになるのでしょう。


■売上に振り回されない社長の共通点


会計のサイクルを同じペースでコツコツと回していくことは、経営のリズムを保つ上でも大切です。会社の経営状況は、自分たちではコントロールできない内部的な要因や外部的な要因に左右されるので、一定ということはあり得ません。同じように安定した日々を過ごしたいと思っていても、常に揺れ動きます。


そういう不安定な日常に安定感を与えてくれるのが、会計サイクルです。さまざまな変化にさらされながらも、帳簿の処理だけは変わらず毎日同じようにやっていると、そこから規則正しいリズムが生まれます。1日の終わりに必ず帳簿をチェックし、赤字だろうと黒字だろうと月に1度の監査を受けて、数字を締める。それを続けていると、会社の業績がいくらかブレることはあっても、社長の心はブレません。


長年、いろいろな会社の巡回監査をやっていると、それがよくわかるようになります。会計のリズムには、社長の人間性のようなものが滲み出るように思えてならないのです。


写真=iStock.com/Tippapatt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tippapatt

■会計は経営者を映し出す「鏡」である


たとえば、どの月も伝票の枚数がほとんど一定で、大きく変わらない会社がときどきあります。そういう会社の社長は、売上が増えても減っても、あまり態度が変わりません。安定したリズムをくり返しながら、いつも長い目で会社の将来を見ているように感じられます。逆に、伝票の枚数を含めて会計のリズムが不安定な会社の社長は、発言内容が日によってコロコロと変わるなど、経営方針も定まりません。


そうやってさまざまな中小企業経営者とおつきあいしているうちに、私は会計関連の書類を見ただけで、その会社の社長の人柄が想像できるようになりました。


「実際に会って話をしたら、こんなことをいいそうだな」ということが、なんとなくわかるのです。もちろん百発百中ではありませんし、おおよその傾向がわかる程度のことですが、初めて会ったときに「やっぱりこういう方だったか」と思うことが少なくありません。会計は、ある意味で、経営者の姿を映し出す「鏡」のようなものなのでしょう。


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山下 明宏(やました・あきひろ)
山下明宏税理士事務所所長、税理士、巡回監査士
1963年東京都生まれ。TKC東京都心会所属、同会顧問。中小企業の自計化の推進、税務調査省略、申告是認等、税理士業務のほか、資金調達、認定支援機関としての経営助言など、通常の税理士業務にとどまらない精力的な活動を展開。著書に『テキトー税理士が会社を潰す』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『小さな会社を強くする会計力』(幻冬舎新書)がある。
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(山下明宏税理士事務所所長、税理士、巡回監査士 山下 明宏)

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