朝に食べると「ダイエットと睡眠」に絶大な効果、夜なら死亡リスク減…コンビニで買える"最強の一品"とは?
2025年5月20日(火)15時15分 プレジデント社
雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)より
■アンチエイジングにも効く栄養素が豊富に含まれる
納豆1パック(50グラム=以下同)は、およそ90キロカロリーで糖質約2グラム、タンパク質約8グラム。つまり低カロリー&低糖質で、高タンパクの食品だ。
雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)より
原材料の大豆は五大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル)のすべてを備え、体内で生成されない9種類の必須アミノ酸も含む。そして大豆が発酵して納豆になることで栄養成分が吸収されやすくなり、納豆菌がナットウキナーゼをはじめとした人の体に有益な成分を作って、健康食品としてパワーアップするのだ。
健康に良いだけでなく、アンチエイジングにも欠かせない成分が納豆には豊富に含まれている。糖化を防ぐビタミンB1、美容・発育のビタミンとして知られるビタミンB2、皮膚の健康維持に欠かせないビタミンB6、肌や血管の老化を防ぐビタミンE、細胞や脳を若く保つレシチンなどのほか、ネバネバはポリグルタミン酸という成分で、これも美容に良い効果が期待できる。
管理栄養士の望月理恵子氏は「ポリグルタミン酸は、アミノ酸のひとつであるグルタミン酸が長くつながったもの。皮膚表面に膜を作って肌を守り、肌が本来もつ潤い機能を高めるといわれています」と説明する。
■朝食に食べると体温が上がり、代謝がアップ
さてこの納豆を朝食に食べると、臓器やホルモン分泌が正常に働くために重要な「体内時計」がリセットされて体温上昇につながるという。筋肉維持やダイエット効果があり、質のいい睡眠にも関係する。
体内時計の視点から考えた食事法を「時間栄養学」といい、その第一人者である早稲田大学名誉教授の柴田重信氏(東京科学大学特別研究員、愛国学園短期大学特任教授)はこう話す。
「『糖質+タンパク質』のセットは体内時計のリセット効果が高い。加えて納豆に豊富なタンパク質、食物繊維、ビタミンKも体内時計を動かしますから、体内リズムを整えるのに朝に『納豆ごはん』はお勧めです。朝にタンパク質を取ると、筋肉をつくることを助けますし、食物繊維や難消化性タンパク質は腸内細菌のエサになって、おなかの調子を整えます」
本人提供
望月理恵子氏 - 本人提供
納豆に含まれる食物繊維の量は、豊富に含まれる代表格であるゴボウより多い。50グラムあたりゴボウに含まれる食物繊維が約3グラムに対し、納豆1パック約4.8グラムの含有量だ。とはいえ食物繊維豊富である良さが、あまりピンとこないかもしれない。実はメリットがたくさんあり、まずは病気発症や死亡リスクの低下だ。
■食物繊維の含有量はごぼうよりも多い
「食生活の欧米化に伴い、現代人は食物繊維が不足しがちです。食物繊維の摂取量とさまざまな病気リスクを解析した研究では、1日あたりの食物繊維摂取量が25〜29グラムの時には死亡リスクが低下し、心血管疾患、2型糖尿病、大腸がん、乳がんといった病気を発症するリスクが下がると発表しています。ですので、1日あたり25グラム程度の食物繊維摂取を目指したいのです。そういう中で納豆1パックで5グラム近く補えるのは大きいですね」(望月氏)
次に食物繊維摂取は食事の満足感や、肥満予防につながる。
食物繊維には水に溶けにくい「不溶性食物繊維」と、水に溶けやすい「水溶性食物繊維」がある。体内での働きにも違いがあり、不溶性は水分を吸収してかさを増やし、満腹感を得やすくする。一方、水溶性はゲル状であるため、余分な糖質を包み込んで体外に排出して血糖値の上昇を緩やかにするなど生活習慣病を予防する。納豆はこの両方を含むのだ。
そして最近、注目されている新たなカテゴリーが「発酵性食物繊維」。水溶性食物繊維のほぼ全てと、不溶性食物繊維食品の一部が該当し、納豆も当てはまる。発酵性食物繊維が含まれるものを摂取すると、肥満や炎症を防ぐなど全身に良い働きがある短鎖脂肪酸が増えやすくなることがわかっている。これも大豆ではなく、納豆だからこその利点。
発酵性食物繊維が豊富な食事をすると、その次の食事後の血糖値急上昇を防ぐ。
「セカンドミール効果といって、最初に取った食事(ファーストミール)が、次の食事(セカンドミール)後の血糖値に影響を及ぼすのです」(同)
■昼食の血糖値上昇を抑えるダイエット効果も
血糖値急上昇は太る要因になる。なぜか。食事をすると血糖値が上がる。すると膵臓からインスリン(ホルモン)が分泌され、血中の糖を肝臓や筋肉に取り込み、血糖値が下がる。しかし取り込む量にも限界があるため、主食(糖質)を食べ過ぎてしまうと、血中のあまった糖が脂肪細胞に取り込まれて太ってしまうのだ。
それが発酵性食物繊維が豊富な食事であれば、胃や小腸で吸収されにくく大腸まで届くので、ゆるやかに吸収される(血糖値の急上昇を防ぐ)。朝食に取り入れれば、昼や夕食をガッツリ食べても、脂肪に変わりにくく、ダイエット効果が続きやすいということだ。
実際に朝食に納豆を取り入れると、昼食後の血糖値上昇が抑えられることも国内の研究で報告されている。
写真=iStock.com/KPS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KPS
また栄養学的にも、朝に納豆を足すメリットは大きい。日本人は朝のタンパク質摂取量が少ない傾向にあるからだ。
「タンパク質は体重1キロあたり1グラム、つまり体重60キロの人であれば毎日60グラムが必要で、筋肉を維持するためには1食20グラム以上のタンパク質を取ることが推奨されます。特に長い絶食期間を経た朝食のタンパク質摂取は欠かせません。けれども茶碗1杯の白米で約3グラム、卵1個で約6グラム、味噌汁を入れても合計13グラム程度のタンパク質なんです」(同)
■タンパク質が足りない朝は納豆で手軽に強化
実際に自分の朝食を見直してほしい。平均的にタンパク質は何グラム摂取できているだろうか。上記にヨーグルトを足しても、20グラムに満たない。しかし、ここに納豆1パックで約8グラムのタンパク質を朝食に加えると、1食20グラムを達成できる。タンパク質は満腹感を持続させ、体温を上げやすい。食物繊維豊富である点と合わせて、「朝の納豆はダイエット向き」といえるだろう。
写真=iStock.com/Yuuji
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加えて「朝の納豆が質のいい睡眠に関係する」のは、睡眠の質に影響するトリプトファン(アミノ酸の一種)が1パックあたり約130ミリグラムも含まれているため。これは卵(1個95ミリグラム)やヨーグルト(50グラムあたり30ミリグラム)より多い量だ。
「トリプトファンはセロトニン(脳内神経伝達物質)の材料です。朝食にトリプトファンを含むものを摂取して日光を浴びると、セロトニンが増えやすくなります。そして夜になるとセロトニンがメラトニンに変わり自然な睡眠状態に入れるのです」(同)
■納豆菌パワーは胃酸にも負けない強力な味方
一方で、夕食に納豆を食べるメリットは? 再び柴田氏が解説する。
「納豆に含まれるナットウキナーゼは血液をサラサラにして血栓を予防する作用があります。その働きは摂取後8時間近く持続するとされます。血栓は早朝にできやすいことが知られていますから、朝にナットウキナーゼの効果を出すためには夕食に納豆を食べておくといいでしょう。ただしナットウキナーゼは酵素なので熱に弱く、納豆サラダといった冷製の調理法のほうがお勧めです」
筆者撮影
柴田重信氏 - 筆者撮影
実は“酵素”のほとんどは、体内にあるさまざまな消化液によって破壊されてしまう。しかしナットウキナーゼのパワーは強力。
「弱酸性である胃酸が分泌される胃の中でも壊れず、アルカリ性である腸内でも元気に働くようです」と望月氏。
「玉ねぎなど他の食品でも血液サラサラ効果は期待できますが、ナットウキナーゼは強力に血栓を溶かす働きがあることが多くの研究で証明されています」
ナットウキナーゼそのものが血栓を溶かす作用があるだけでなく、そのほかの血栓溶解酵素を活性化する働きもあるという。
■ビタミンKの補給なら「ひきわり納豆」がおすすめ
東邦大学名誉教授で平成横浜病院総合健診センター長、循環器内科学を専門とする東丸貴信医師も、いくつかの論文を紹介してくれた。
「『高山スタディ』と呼ばれる岐阜県で行われた大規模調査のひとつに、『納豆摂取と循環器疾患死亡リスク』を調べたものがあります。納豆を多く食べている群は16年間での全循環器疾患死亡のリスクが25%も有意に低下しています。脳卒中、特に脳梗塞のリスク低下につながるようです。ほかにも、納豆に含まれる大豆イソフラボンが糖尿病や高脂血症を予防する効果があることを証明したものや、高血圧症においてナットウキナーゼを服薬した群で血圧が低下した報告があります」
国立がん研究センターは2020年、大規模追跡調査から「納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低い」と発表している。
雑誌『プレジデント』(2025年5月30日号)より
夜に食べるもう一つの利点として「骨強化」がある。
「納豆に含まれるビタミンKが、夜に骨を合成するのを助けます。また大豆イソフラボンは閉経後の女性の骨量維持に役立ちます。血栓のリスクを軽減するとともに骨粗しょう症予防も期待できますね」(柴田氏)
■血糖値を抑えたいなら朝、骨量維持なら夜
しかもビタミンKは納豆1パックで『日本人の食事摂取基準』の1日目安量150マイクログラムをはるかに上回る約450マイクログラムを摂取できる。
東丸貴信医師(本人提供)
ナットウキナーゼもビタミンKも、大豆ではなく納豆ならではの栄養メリットといえる。冒頭でも述べたが、納豆菌がナットウキナーゼをはじめとした機能性成分を作り、また人の腸内でビタミンKをより多く産生するのだ。
ここまで朝と夜に食べる効果の違いを紹介したが、「製法の違い」はあるのだろうか。
実は「粒納豆」よりも「ひきわり納豆」のほうが、骨強化のビタミンK、肌や血管の老化を防ぐビタミンEがやや多め。また納豆菌の数は大豆の表面積が多いほど増えていくため、同じ重量を食べるなら、ひきわり納豆のほうが納豆菌の数が多くなる。対してカルシウムと食物繊維の総量は粒納豆が多い。
血糖値上昇抑制を期待するなら朝に粒納豆を、ビタミン補給による細胞修復を意識するなら夜にひきわり納豆でもいいかもしれない。納豆に含まれるアルギニン(アミノ酸)が成長ホルモンの分泌も促進してくれるため、夕食に食べれば成長ホルモンの分泌によって細胞の修復がスムーズに進む作用も期待できる。
「もしくは水溶性食物繊維は、夕方以降にカルシウム吸収を促進するので、骨量維持を重視するなら夜に“粒納豆”でしょう」(柴田氏)
■「粒納豆VSひきわり納豆」栄養素を比較
まとめると次のようになる。
納豆を
朝食に食べると→体温上昇、体内時計リセット、良質な睡眠、筋肉量維持、次の食事の血糖値上昇抑制(=ダイエット)
夕食に食べると→血栓予防、骨強化、成長ホルモン分泌による細胞修復
「粒(糸引き)納豆」VS「ひきわり納豆」(50gあたり)
タンパク質8.25g/8.3g★
食物繊維総量4.75g★/2.95g
カルシウム91mg★/29.5mg
ビタミンK435μg/465μg ★
ビタミンE(トコフェロール)1.65mg/2.7mg ★
※食物繊維とカルシウムは粒納豆が多い。納豆菌の数、ビタミンKやEはひきわり納豆が多い
粒納豆を
朝食に食べると→ダイエット効果
夕食に食べると→骨量維持
ともかくも子どもから高齢者まで毎日食べてほしい納豆だが、“食べてはいけない人”もいる。次回、理想の食べ方とともにお伝えしよう。(後編は21日(水)7:00に公開予定です)
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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)