【日本大学】健康食品として使用される天然由来脂質が脳や脊髄の炎症を抑える新機能を発見--アルツハイマー病などの神経変性疾患の新たな治療戦略として期待--

2025年5月27日(火)14時5分 Digital PR Platform




1 概   要
日本大学薬学部薬理学研究室の小菅康弘教授らの研究グループは、株式会社シー・アクト(坪井誠代表取締役、東京都千代田区)と共同で、天然由来の油脂である「ペンタデシル」に、脳の免疫細胞であるミクログリアの異常な活性化で引き起こされる炎症反応を抑制する機能性があることを突き止めた。特に、炎症を引き起こすサイトカインを作り出すためのスイッチ役である転写因子の活性化を、「ペンタデシル」が抑制するというメカニズムも世界に先駆けて見出した。この成果は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった、ミクログリアの異常活性化が深く関わる神経変性疾患に対する、新しい治療法や予防法の開発につながると期待している。本研究成果は、同学院薬学研究科の鶴田こむぎ大学院生(博士課程4年)を筆頭著者とし、国際的な学術雑誌である International Immunopharmacology 誌の2025年6月17日発行号に掲載される予定である。





2 背   景
 脳や脊髄の主要な免疫細胞であるミクログリアは、神経細胞の保護や修復、恒常性の維持などに関与しています。しかし、そのミクログリアは何かの刺激により過剰に活性化してしまうと炎症性サイトカインと呼ばれる細胞障害性のタンパク質を分泌し、神経細胞の機能を障害し、最終的には神経細胞死を引き起こすことが知られています。このような神経炎症と呼ばれるプロセスは、アルツハイマー病やALSなどの神経変性疾患だけでなく、統合失調症、自閉症、ダウン症などの精神疾患や、脳血管障害の発症や進行に幅広く関与していることから、ミクログリアを標的とする治療薬の開発が国内外の研究機関で進められています。
 本共同研究で着目した「ペンタデシル」は、シー・アクト社が微細藻類Aurantiochytrium Limacinuから抽出した油脂成分として市販されており、奇数鎖脂肪酸であるペンタデカン酸を豊富に含む健康食品成分です。これまでに、ヒト臨床試験における皮膚バリア機能の改善作用や糖尿病モデルマウスにおける代謝改善作用などが報告されており、安全性と機能性を兼ね備えた物質として注目されてはいるものの、その他の機能性については不明なままでした。そこで、本共同研究では、ミクログリアのモデル細胞を用いて、ペンタデシルが過剰な炎症反応の引き金となるミクログリアの活性化に及ぼす影響を検討いたしました。

3 研究の内容と成果
 本研究では、ミクログリアのモデル細胞として汎用されているBV-2細胞を利用しました。この細胞にペンタデシルをさまざまな濃度で加えたところ、細胞の増殖や細胞死には影響を及ぼしませんでした。つまり、「ペンタデシル」は、毒性がなく、安全な成分であることが細胞レベルで示されました。そこで、様々な細胞に炎症を起こさせる物質であるリポポリサッカライド(LPS)を加え、Interleukin-1β(IL-1β)、Interleukin -6(IL-6)、あるいはTumor Necrosis Factor(TNFα)などの炎症を促進するサイトカインが発現増加するモデル細胞を作成しました。そこに「ペンタデシル」を処理したところ、IL-6とIL-1βの発現量が減ることが判明しました(図1)。一方、TNF-αの発現増加や、炎症を抑える働きをするサイトカインとして知られているInterleukin-10(IL-10)やTransforming Growth Factor β(TGF-β)の発現増加を抑制する作用は認められませんでした。そのため、「ペンタデシル」は、ミクログリアの異常活性で生じるサイトカインを一律に抑制するのではなく、一部の炎症性サイトカインを選択的に抑制する作用があることが期待されます。
 さらに、この抑制作用のメカニズムについて詳しく調べたところ、「ペンタデシル」は、Signal Transducer and Activator of Transcription 3(STAT3) という炎症反応を促進するスイッチとなるタンパク質(転写調節因子)の働きを抑えることで(図1右)、炎症性サイトカインの産出される量を減らしていることが明らかになりました。一方で、Nuclear Factor Kappa B(NF-κB)やp38、c-Jun N-terminal Kinase (JNK)といった炎症反応でよく活性化されるスイッチには影響を及ぼさないことも発見しました。


4 今後の展開 
 本研究成果により、ペンタデシルがミクログリアの異常活性のキーとなる転写因子STAT3の活性化を抑制することで、IL-1βやIL-6といった炎症性サイトカインの産生を抑制することが明らかとなりました (図2)。既存の抗炎症薬では、炎症を引き起こすプロスタグランジンという物質を合成する際に必要な酵素(COX)の産生や活性を抑えるステロイド薬や非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)が主に使用されています。これらは高い効果を持つ一方で、免疫機能全体が弱くなりすぎることで感染症に対する抵抗力が弱まる、胃腸障害などの副作用が出るなどの課題があります。また、IL-1βやIL-6を標的とした抗体を用いる高選択的な抗炎症薬もありますが、非常に高額であることから、慢性炎症への広範な使用には経済的・実用的な制限があります。さらに、単一の因子が主な病態因子でない場合には効果が限定的であり、炎症の原因が複数のサイトカインや経路にまたがる場合には十分な効果が得られない可能性も指摘されています。今回の研究で発見したペンタデシルは、従来の薬とはまったく異なる作用メカニズムを持つ、新しいタイプの炎症制御物質になるのではないかと期待しています。また、経口投与可能なペンタデシルは、一部の炎症性サイトカインの産生を制御するといった、免疫機能を維持しながら過剰な炎症だけを抑える"ピンポイントな炎症コントロール"が期待されます。そのため、既存の薬と併用して効果を高めることが期待できるだけでなく、既存薬が効きにくいケースにも有効な可能性があります。今後は、動物モデルや臨床研究を通じて、ペンタデシルが経口投与で脳や脊髄まで届き、炎症を安全かつ選択的に抑える治療法として実用化できるか検証し、創薬への応用を目指した研究を展開していきたいと考えています。さらに、ペンタデシルは他の「炎症性サイトカインが関わる疾患」への応用も期待されます。特に、関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患、新型コロナウイルスなどのサイトカインの暴走が重篤な症状の引き金となるウイルス感染症がその検討対象となるのではないかと期待しています。


5 発表論文の概要
研究論文名  Pentadecyl®, an odd-chain-rich triglyceride mixture derived from Aurantiochytrium oil, attenuates lipopolysaccharide-induced inflammatory cytokine production in BV-2 microglial cells

著   者  Komugi Tsuruta a, Yusei Sato a, Hiroshi Nango a , Yasuko Sakata b, Hideaki Ishikawa b, Makoto Tsuboi b, Hiroko Miyagishi a , Yasuhiro Kosuge a
a Laboratory of Pharmacology, School of Pharmacy, Nihon University, 7-7-1 Narashinodai, Funabashi-Shi, Chiba 274-8555, Japan.
b Research and Development Division of Sea Act, Sea Act Co., Ltd., 2-17-8 Tonomachi, Kawasaki-ku, Kawasaki 210-0821, Japan.

公表雑誌 International Immunopharmacology誌 Volume 158, 17 June 2025, #114810
早期公開版;https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1567576925008008


6 問い合わせ先
研究に関する問い合わせ
日本大学薬学部薬理学研究室
教授 小菅 康弘(Yasuhiro KOSUGE, Ph.D.)
TEL&FAX:047-465-4027  E-mail: kosuge.yasuhiro@nihon-u.ac.jp
〒274-8555千葉県船橋市習志野台7-7-1

株式会社 シー・アクト 
企画開発部 部長 阪田泰子(Yasuko SAKATA, Ph.D.)
TEL:044-223-6946 FAX:044-223-8421  E-mail: sakata-yasuko@refine-hd.jp
川崎事業所 〒210-0821 神奈川県川崎市川崎区殿町2-17-8
東京本社 〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル11階

※取材にお越しいただく際は,あらかじめ上記連絡先までご一報願います。





【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

Digital PR Platform

「日本大学」をもっと詳しく

「日本大学」のニュース

「日本大学」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ