世代を超えた宝塚OG鼎談 麻実れい×湖月わたる×咲妃みゆ 母と娘・息子を演じる『平家物語』「地味に頑張るのが好きな私たち」

2025年3月7日(金)11時0分 婦人公論.jp


豪華3ショット。麻実れいさん(中央)、湖月わたるさん(右)、咲妃みゆさん(撮影:本社 奥西義和)

『平家物語 —胡蝶の被斬(こちょうのきられ)—』は、公演回ごとに17人の〈日替わり出演者〉が入れ替わり、そこにダンサーやマルチパフォーマーを含む〈全日程出演者〉も加わる豪華版の舞台だ。初日の3月14日には、麻実れい(平清盛の妻、二位の尼・時子)、湖月わたる(清盛の長男、平重盛)、咲妃みゆ(清盛の娘、安徳帝の母、建礼門院・徳子)と、宝塚出身の3人が顔を揃える。本番に向けて稽古がはじまった3人に聞いた
(構成:清野由美 撮影:本社 奥西義和)

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普通はありえない顔合わせ


——今回の舞台をお引き受けになった理由から聞かせてください。

麻実れいさん(以下、麻実) 私は平安時代に惹かれる気持ちがもともとあって、中でも平家物語は特別に心を寄せる世界でした。以前に語りで建礼門院の役を務めたことはありましたが(*“いのうえシェイクスピア”『鉈切り丸』)、どこかでお役をしっかりと演じてみたかった。清盛の妻で二位の尼・時子の役は今回が初めて。時子は建礼門院・徳子の母でもあり、役者としても大変演じがいがあります。

湖月わたるさん(以下、湖月) 私は清盛の嫡男、平重盛の役で、まさに宝塚時代男役の再来といいましょうか。宝塚では1985年に星組トップの峰さを理さんが主演された『西海に花散れど—平資盛日記抄—』という舞台がずっと印象に残っていて、その時の峰さんのお役が重盛の息子、資盛でした。そんなご縁も感じつつ、重盛という武将を女性が演じる演出が面白いと思って、お受けしました。

咲妃みゆさん(以下、咲妃) お話をいただいた時に直感で「演じてみたい!」と思って、もう二つ返事でお引き受けしました。今回の演出を担当される朴ロ美(ぱくろみ)さんとは、以前に舞台で共演させていただいたことがあり、ロ美さんのパッションに、ずっとあこがれてもいます。※(朴ロ美のロは王へんに路)

麻実 今回、私はロ美さんのご主人で、劇の共演者となる山路和弘さん(平清盛役)経由でお声をかけていただきました。最初はどなたとご一緒できるか知りませんでしたが、配役表を見た時はうれしかったですね。催し物でOGの方々と共演することはありますが、湖月さん、咲妃さんと私は、歌劇団の在籍期間が被っていないですし、普通はありえない顔合わせですよね。

一人の人間としての生きざまを表現


——時子、重盛、徳子という、それぞれの役への思い入れをお聞かせください。

麻実 どの役も悲劇的で、その中に強さを持っています。時子は夫への愛、家族愛、一門への愛と、すべてに対する愛情を持っていますが、終幕は幼い安徳帝を抱いての入水になるので、重いお役ですよね。ある程度のめり込まなければ、あのシーンはできないのですが、入り込み過ぎたら違う次元に行ってしまいそうですし。歴史の波間で生きた女性の強さを持って演じたいです。

湖月 宝塚在団中と、退団後に培ってきたものが私の中にあって、また男役を演じさせていただくわけですが、男役というよりも一人の人間としての生きざまを表現できればと思っています。今回、『平家物語の虚構と真実』(上横手雅敬・著)という本を見つけて、重盛の人物像を研究したんです。重盛に関する記述はそれほど多くはないのですが、論理の筋を通す人で、息子の資盛が大失態をしでかした時にも、冷静に解決に動く。今回の脚本では、父の清盛の傲慢さに楔を打つ役目として描かれているので、そこを演じたいな、と。

麻実 湖月さんも、そういうタイプなの?

湖月 正義感の強さは似ているかな、と思いますが、私はどちらかというと平和主義で、何もかも押しのけて突き進むというよりは、みんなと手を取り合って行こう、というのが好きです。

咲妃 徳子は過酷な運命を生きた女性ですが、お母さまの時子の血を引いて、芯の強い、覚悟をもって生きた人だと思います。徳子に限らず、平家のもとに生まれ、あの時代に生きた人たちは、並々ならぬ覚悟を貫いたのでしょうね。

清盛も成り上がり者と蔑まれながら、一族を繁栄させるためにがんばって、そこにさまざまな悲劇が生まれました。今の時代も同じような争いがあるからこそ、この物語も過去に埋もれず、長い年月を生き残ってきたのだと思います。そのような物語に携わる機会をいただいたからには、全力で向き合いたいと思っています。

ご先祖さまが平家の家臣


麻実 私、建礼門院徳子ゆかりの「長楽寺」を、京都の東山に訪ねたことがあります。ここは徳子が壇ノ浦の合戦の後に、出家、剃髪したお寺で寂しいところです。その後は、一族を弔い続けて亡くなったんですね。だから強いですよね、本当に。今回の脚本で、徳子はけっこうお転婆なシーンで始まりますしね。そうそう、咲妃さんは平家の末裔なんですってね。

咲妃 はい、我が家はいちおう、ご先祖さまが平家の家臣だったことが分かっておりまして。あ、いちおうなんて言ったら、ご先祖さまに失礼ですね(笑)。実家は宮崎県ですが、ご先祖は四国から九州に移り住んだとのことで、私は昔から源平では平家の方に共感を寄せていて。

麻実 四国や瀬戸内には平家落人の里といわれる場所が残っていて、西日本ではご先祖が平家という方は、意外と多く聞きますね。

湖月 私は茨城県にある、重盛のお墓と伝えられているお寺を訪ねました。小松寺というお寺なんですが、「伝内大臣平重盛墳墓」という場所があるんです。神秘的な参道と階段を上っていくと本堂がありますが、実はその参道は本堂ではなく、奥にある重盛さんのお墓に通じているということで。

麻実、咲妃 まあ……。

湖月 小松寺のご住職さんに「実は私、今度、重盛さんを演じることになった者で……」と、お声をかけて、いろいろお話を聞かせていただきました。

麻実 出演者の山路和弘さんのコメントの中に、下関にある清盛塚を訪ねたら、やぶの中にあって、ささやかで見つからないぐらいだった、という一文があって、胸を打たれましたね。清盛公のお墓や供養塔と伝えられているところは、関西にいくつかあり、どこが本当のお墓かは分からないとのことですが、あの栄華を誇った清盛公が、やぶの中にひっそりと……というのは、あわれを感じますよね。

地味〜に、コツコツとやっている


——麻実さんはこれまでに、長いキャリアの中で、ギリシャ悲劇やシェイクスピア劇など、歴史に翻弄される人物を数多く演じてこられました。日本的な「もののあはれ」にも、共感されますか。

麻実 自分に自信がないから、移り変わるものに関して共感するし、歴史に翻弄される役を演じたいと思うのでしょうね。毎回、舞台に向かうのは、とても怖いんです。何もないところから作り上げていく作業が、大好きなんですけど、役者として与えられた責任に、いつも足がすくむ思いで。だから、ずっと地味〜に、コツコツとやっているのね。今までもずっと地味でしたし、これが一生続いていくんでしょうね。

湖月、咲妃 いえいえ、たーこさん(麻実)が地味だなんて、そんな。

麻実 みんなもそうでしょう? 地味にコツコツ取り組めない人は、役者を続けられないと思う。


湖月 大先輩のたーこさんの前で言うのは畏れ多いのですが、私も本当に自信がなくて。

麻実 本当?

湖月 本当です。地味なことをコツコツやるのがいかに大事か。それは身に沁みて感じています。宝塚時代も無我夢中でしたが、退団後もダンスなど基礎の基礎を毎日、コツコツ続けています。

咲妃 語弊がないといいのですが、今、お二人の言葉をうかがって、私は励まされた思いです。このお二人にして、そうなのか、って。私自身、演劇に触れたのは宝塚音楽学校に入ってからでしたが、その時にはじめて、何かを演じることで、自分の心が表現できる、と思えたんです。それはまさしく自分に自信がなかったからで、そんな私が誰かの言葉を通じて、イキイキとできた。そのことがお芝居に傾倒するきっかけであり、今にいたるまで、私の救いになっているんです。

舞台が始まると、世界が切り替わる


湖月 たーこさんから、コツコツという言葉をうかがって、驚きというか、感動というか。

咲妃 私はすがるように、このお仕事を続けていますが、もしかして、お二人のように輝けるのなら、この自分のどうしようもない自信のなさが、逆に助けになるのかな、と思いました。


麻実 でも、いざ、舞台が始まると、世界が切り替わるのよね。その大きな落差を味わうことが、私たち舞台人の醍醐味といいましょうか。

湖月 それはありますよね!

咲妃 私はもう、もとから地味〜にやるのが好きで。(笑)

湖月 私は結果が付いてくることが分かってから、地味〜が好きになりました。背が高いので下半身を強化していないと、舞台でダンスは踊れないんです。『2STEP(ツーステップ)』というOG出演のダンス作品に出演した時、激しい振り付けに耐えられたのは、日ごろから地味〜にスクワットを続けていたからだ、と実感しました。それは自分にしか分からないことなのですが。


麻実 本読み、稽古場、舞台稽古と、だんだんと本番に近づいていくでしょう。舞台稽古の段階まで行くと、今度はもう地味ではいられなくなるのよね。でも、普段は本当に地味よねえ……。

湖月 たーこさんは長いセリフが続くお役も多いですよね。

咲妃 どうやって覚えていらっしゃるのですか?

麻実 ぶつぶつ、ぶつぶつ呟きながら、何度も読んで覚えているの(笑)。今回、集合日にはじめて本を読んだ時は、涙が止まらなくてね。演出家に「今日だけは泣かせて。その代わり、これが終わったら泣かないから」って、伝えました。自分が選んだ役は、自分が責任を持って乗り越えないとね。そこを越えると、今度は幸せの光が見えてくるんですけど。(笑)

湖月 役に憑かれてしまう、なんてことはありませんか?

麻実 たとえば蜷川幸雄さん演出の舞台『オイディプス王』は、ギリシャのいちばん古い劇場で打たせていただいた。何十人というコロスが舞台でわーっと動く。その時に、何かに憑かれるというのではなくて、古代の時空に自分が行ってしまうような気にはなりましたね。

舞台に出る全員と結束してつくり上げていく


——お稽古の進行はいかがですか?

咲妃 実は今日、はじめて麻実さんにご挨拶させていただきました。

麻実 3人で会うのは、これがはじめてね。湖月さんとはイベントなどでご一緒したことがありましたが、40期下の咲妃さんとは、本当にはじめて。お稽古のスケジュールはタイトですが、お二人とご一緒できるのは、とてもうれしい。栄養分をいっぱい、いただきたいわ。

咲妃 いえいえ、私の方こそ、お二人からいろいろ学ばせていただきたいです。お二人のお芝居を身近で拝見できることが、とてもうれしいです。

湖月 今回、うれしいのはみなが家族の役柄というところですね。

麻実 ちょっと特殊な家族ですけどね。(笑)


——OGゆえの結束というものはありますか。

麻実 OGというよりも、この舞台に出るみなさん全員と結束して、つくり上げていく気持ちです。

湖月 今回は声優の方々とご一緒させていただいていて、みなさんがすばらしくて感動しています。演出の朴ロ美さんとは朗読劇でご一緒したことがあるのですが、その時に聞いた朴さんの第一声に、ずきゅん! と胸を射抜かれたことは、いまだに忘れられません。声に深みがあるというか、馥郁(ふくいく)としているというか、とにかくすごい。

麻実 普通の芝居は自分が持つ声帯を使うでしょう。高低はつけるけれど、声優さんの声は、それだけじゃなくて、別の世界に飛んでいく感じです。あれはマネできませんね。

お客さまがいなければ、作品は完成しない


——最後に、記事を読む方々にお伝えしたいことを一言ずつお願いします。

咲妃 はい、それでは下級生の私から行かせていただきます! 今回は平家物語という古典の世界を、目、耳、そして心で楽しんでいただける新しい芸術の形になります。そこをお楽しみいただければうれしいです。 

湖月 平家物語って、清盛、重盛、〇盛……って、登場人物が多岐に渡って、そこがややこしいですよね。今回は登場人物がぐっと凝縮されていて、その中に家族の愛憎や心の葛藤という、いろいろなメッセージが込められています。咲妃さんが言ったように、総合芸術として、すばらしいものができあがると信じています。

麻実 私は映画というよりは、舞台を中心にお仕事をしてきましたが、それは舞台人が人間というものを深掘りしていく姿勢が、好きだからなんですね。これはもう、役者の業といっていいかもしれません。その役者が、薄い膜を何枚も何枚も重ねるようにして、人間の業を描いていく。自分のための作業といってしまえば、それまでですが、最終的に劇場に足を運んでくださった方が、そこから何かを感じ取って、思いを深めてくださることで、作品は完成すると思っています。

湖月 お客さまがいなければ、作品は完成しないですよね。そこは私も痛感しています。

咲妃 その意味で、お客さまも出演者ですね。

麻実 稽古場からだんだん本番に近づいて、劇場に入るでしょう。幕が上がった時に、お客さまも私たちもぐわーと盛り上がる。その、ナマのぶつかり合いが、舞台の最大の魅力ですね。今回の舞台は、現代の国際情勢にも通じています。人間の争いそのものと、そのむなしさを通して、観る方は大きな何かを受け取ってくださると思います。

咲妃 悲劇ではあっても、お客様には違う角度から、心の励みを感じていただければうれしいです。

麻実 人間の悲しみを深く描くことが、かえって人の心を勇気づけることがありますよね。そんな舞台になると思います。

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