恒松祐里「復讐心を途絶えさせないように」『ガンニバル』若き後藤銀役のため衝撃の1コマを携帯のロック画面に
●グラデーションになるように表現した復讐前後の銀の変化
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』でヒロインの幼馴染を演じ、Netflix『全裸監督 シーズン2』ではヒロインを好演するなど、数々の作品で存在感を放っている恒松祐里。ディズニープラス「スター」で独占配信中の『ガンニバル』シーズン2では、キーパーソンである若き後藤銀を演じた。恒松にインタビューし、本作への出演について話を聞いた。
本作は、累計発行部数400万部を超える二宮正明氏のサスペンスコミックを実写化し、2022年12月にディズニープラス「スター」で独占配信された『ガンニバル』の続編。人里離れた供花村(くげむら)が隠してきた「この村では、人が喰われるらしい」という恐ろしい噂をめぐる真相が明らかとなる。主人公の警察官・阿川大悟役の柳楽優弥をはじめ、供花村を支配する後藤家の当主となった後藤恵介役の笠松将、大悟の妻・阿川有希役の吉岡里帆らキャスト陣が続投。そして、供花村を牛耳る後藤家のかつての当主で、シーズン1で倍賞美津子が扮した後藤銀の若き頃を恒松が演じ、妖艶かつ狂気に満ちた演技を披露している。
——本作のオファーを受けたときの心境をお聞かせください。
もともとシーズン1を拝見していたので、この作品に出演させていただけるんだという気持ちになりました。そして、原作を読んで、銀がすごく壮絶な人生を歩んでいて、この役はすごく挑戦しがいがあるだろうなと思ってお受けしました。
——どこがご自身の中で挑戦だなと感じましたか?
こんなにも負の連鎖を背負った役はないと思いますし、供花村がこうなってしまった元凶なので、すべてが挑戦だなと思いました。
——物語を背負うというプレッシャーもありましたか?
ありましたね。過去編の5、6話は佐野(隆英)さんが演出されているのですが、銀の感情が変わっていく様子をどう描いていくか、佐野監督と相談しながら演じました。最初は無垢な女性のように見えますが、段々と妖艶な女性になっていく様子も表現し、復讐前と復讐後の銀の変化をグラデーションになるように作っていきました。
——後藤銀をどういう人物と捉えて演じたのでしょうか。
すごく悲しい女性だなと思います。銀の母も村の中で虐待されたり、男性から弄ばれて生きてきて、誰が父親かわからないまま銀を授かり、銀が生まれたときには母も亡くなってしまい、どこにも味方がいないまま村で育ちました。女であることを武器にすることでしか生き延びることができなかった銀だからこその強さがあったとも思いました。
——役作りで意識したことを教えてください。
前半の銀は復讐を行動の源にしていますが、後半からは銀にとって大切なものができて、それを守りたいという気持ちに変わっていきます。原作の漫画で村人たちが畑に撒くはずの人間の排泄物を銀に浴びせるという強烈な描写があるのですが、それを見たときはすごく衝撃的でした。村人たちからこういうことをされていたのだと、その1コマを撮影期間中の半年間、携帯のロック画面にして村人たちへの復讐心を途絶えさせないようにしていました。
——プライベートで楽しい時間を過ごしていても、携帯を開いた瞬間、銀の気持ちに?
なります。開くたびに「銀……」って銀のことを思うというか。気持ちが途絶えないようにそうしていました。
——ほかにも撮影に向けて準備したことがありましたら教えてください。
漫画が原作なので、読みながら深めていきました。あと、銀の現代パートを演じられた倍賞さんが若い頃に出演されていた作品を拝見して、雰囲気などを少し近づけられるように努力しました。
——倍賞さんらしさとして取り入れたのはどんなところでしょうか。
倍賞さんが演じる銀は女性としての強さ……色気だけではなく、たくましさがあるというか、何にも動じず立っているという雰囲気があると思うので、そういう強さを取り入れていけたらいいなと思っていました。
●衣装やヘアメイクも変化「最初はすっぴんに近い雰囲気で…」
——難しい役どころだったと思いますが、特に苦労した点を教えてください。
1日の撮影の中で最初に登場する時の銀、復讐前、復讐後など、全く違うタイプの銀を演じないといけないこともあったので、そのグラデーションをどう表現していくか事前に監督と綿密に打ち合わせを行いました。そして、衣装やヘアメイクも手助けしてくれて、気持ちの変化を表現しやすくなった気がします。
——衣装やメイクに関して印象に残っていることをお聞かせください。
最初はメイクもすっぴんに近い雰囲気で、無垢そうでどこにでもいそうだけど美しさがある女性を表現しました。そこから紅を入れることで、銀が山で生活を始めてからは口元が血のような色になり、そして後藤家の当主になってからはまたさらにきれいに紅を入れました。髪型も、山にいるときは邪魔にならないように三つ編みにしていて、後半は倍賞さんの銀を彷彿とさせるような髪型にしていただきました。衣装も妖艶な感じのときは蝶がデザインされた紫の着物を着ていて、羽ばたけない銀というか、その村から出られないというのを表しているようにも感じて、すごく気に入っていました。
——蝶の衣装は恒松さんご自身で決めたのでしょうか。
蝶のデザインだけでなく色も素敵だなと思って、衣装合わせの際にみなさんと話し合って決めました。山で生活を始めるシーンではいろんな人からはぎ取ったお着物をレイヤーして重ね着していて、その衣装もお洒落で本当にかわいいんです。いろんな工夫がされていて、小道具にもこだわっているので、衣装、髪、メイクの変化にも注目していただきたいです。
——妖艶さと狂気さに満ちた演技で見事に銀を表現されていましたが、新しい挑戦になったのでは?
映画『タイトル、拒絶』など、女性ならではの悲しみややるせなさを爆発させる役は何回か演じたことがありましたが、銀のように村の全員から嫌悪感を抱かれ、誰も味方がいないという役は経験がなかったので、とても難しかったです。銀は倉(悠貴)さん演じる正宗を惑わしていく役柄ですが、惑わす芝居もあまり演じたことがなくて。漫画だと正宗を操るときにニヤリとわかりやすく笑っていましたが、ドラマでは生身の人間が演じるので、実際はちょっとしたラブロマンスがあるのではないかという話になり、正宗の純粋さに心が動いているのか、どちらかわからない絶妙な具合を監督と相談しながら演じました。
——完成した作品を見て、どのように感じましたか?
山奥で撮影していたので現場ではモニターチェックがあまりできるような環境ではなくて、完成した映像を観てとても美しく撮っていただいていたんだなと改めて感じました。2〜3月頃に雪山で撮影していて、お着物だったのでとても寒かったのですが、着物の黒と雪の白、雪の白とリップの赤が映えていて、映像を観て感動しました。
——雪山で着物というのは、相当薄着ですよね?
そうなんです。でもとても美しい映像になっていたのでうれしかったです。
■恒松祐里
1998年10月9日生まれ、東京都出身。2005年にドラマ『瑠璃の島』で子役としてデビューし、2009年『キラー・ヴァージンロード』で映画デビュー。2019年公開の映画『凪待ち』で『おおさかシネマフェスティバル2020』新人女優賞を受賞。代表作は、ドラマ『おかえりモネ』『泣くな研修医』(21)、『ザ・トラベルナース』(22)、『リバーサルオーケストラ』(23)、『わたしの宝物』(24)、映画『きさらぎ駅』(22)、『Gメン』(23)、Netflix『全裸監督 シーズン2』(21)『今際の国のアリスシーズン2』(22)、『御手洗家、炎上する』(23)など。『きさらぎ駅 Re:』が6月13日公開予定。
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