「死が怖くなくなった」クジラの骨だけを頼りに生きる深海生物の本がヒットしている“意外な理由”

2025年4月23日(水)8時0分 文春オンライン


『クジラがしんだら』(江口絵理 文/かわさきしゅんいち 絵/藤原義弘 監修)童心社


〈鯨骨生物群集〉という言葉をご存知だろうか。何十年という長い一生を終えて深海へ沈んだクジラの死体に集まってくる、ホネクイハナムシなど一群の深海生物のことを指す専門用語だ。あまり広く知られていないその生態を物語仕立てで描いた絵本がヒットしている。


「中にはクジラの骨だけを頼りに、厳しい深海の世界を生き抜き、命を繋いでいる生き物もいる。そこに魅力を感じた著者の江口さんが、長年あたためてきた企画です」(担当編集者の中山佳織さん)


 監修は、日本に数少ないこの分野の専門家である海洋研究開発機構の藤原義弘氏に依頼。子供が読みやすい文章を意識しながらも、ファンタジーとしてではなく、科学的な事実に即した淡々とした描写から何かを感じてもらうことを心がけた。結果、大人の読者からも意外な反響があったという。


「『自分もクジラのように何かを遺したい』『死が怖くなくなった』といった声が多くの方から届いています。『死』についての本として読まれることは編集時には意識していなかったので驚きました」(中山さん)


 死を描きつつ、ただ悲愴なばかりではない。この絶妙な塩梅は絵の力も大きい。


「深海をカメラで捉えたそのままに描くのではなく、月面に見立ててどこか神々しい絵に昇華してくださった点もヒットの要因だと感じています」(中山さん)


2024年9月発売。初版5500部。現在9刷5万1000部

(前田 久/週刊文春 2025年4月24日号)

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