草なぎ剛&樋口真嗣、『日本沈没』から育んだ友情が18年を経て『新幹線大爆破』で結実
2025年4月23日(水)7時0分 クランクイン!
◆『新幹線大爆破』リブートの主演オファーに「ウソなんじゃないかと思いました!」
東京行きの東北新幹線はやぶさ60号に仕掛けられたのは、時速100kmを下回ると即座に作動する爆弾。車掌である高市(草なぎ)が乗客へ事件の発生を伝えると、絶望の表情を見せるものや憤怒するものであふれ、一瞬で車内はパニック状態に。乗組員と大勢の人質を乗せ、時速100km以上で走るはやぶさ。この危機的状況を打開しようと、高市は乗組員と乗客、そして新幹線総合指令所と共に、さまざまな策を講じていく。
——樋口監督は、原作となった『新幹線大爆破』を小学生の頃に初めて鑑賞したとのこと。もともとファンだった作品をリブートする上で、「これだけはブレてはいけない」と思われたのはどのようなことでしたか? また「今だからこそできた」「機が熟した」と感じることがあれば教えてください。
樋口:原作を観た当時、特に印象的だったのが、事件に立ち向かう国鉄職員がものすごくカッコよかったことなんです。新幹線の中にいる人たちもそうだし、宇津井健さんが演じる司令室の中の人にしても、みんながとにかくカッコよかった。時代は変わったけれど、そういった働く人たちの姿をリアリティと共に再現したいというところからスタートしました。今回JR東日本さんの特別協力もあり、実際に新幹線を走らせたり、施設や内部のことについてあらゆる面で監修をしてもらうことができました。今だからこそできたことという意味では、僕は『シン・ゴジラ』のあたりから、きちんと調査をして、それを映画に反映させていくということをチームの全員に徹底させてきたので、そういった経験をしっかりと注げたのかなと思っています。
——樋口監督と草なぎさんが本格的にタッグを組むのは、2006年公開の『日本沈没』以来のこととなりました。『新幹線大爆破』をリブートする作品で主演のオファーが届いた時、草なぎさんはどのような感想を持ちましたか?
草なぎ:ウソなんじゃないかと思いました!
樋口:あはは!
草なぎ:『日本沈没』の後、樋口監督はよく「今度、作品をやるから」「今、用意しているから」と言ってくれていたんですが、作品が完成してみると斎藤工くんが主演をやっていたり(笑)。『進撃の巨人』にほんの少し出演させていただきましたが、この18年の間、「俺、出ないじゃん!」と思うことの連続だったんです。だから今回のオファーも、また“やるやる詐欺”だろうと期待していなくて。そうしたら台本が届いて、「これはマジなやつだ!」と。以前から樋口監督が『新幹線大爆破』を大好きだということは知っていたので、すごくうれしかったですね。
——『日本沈没』以降も、連絡を取り合っていたのですね。
草なぎ:樋口監督とは電話をしたりもするし、ずっと連絡を取り合っていました。考えてみると、監督さんで日頃からやり取りをする人って、僕にとって樋口監督しかいないなと思って。どこか友達のようなところがあるんですよね。樋口監督はきっと、『これを剛くんが演じたら最高にいいものになる。持っているものを発揮してくれる』と感じられるものを渡そうと思ってくれていたんじゃないかな。長かったけれど、この18年はそのやさしさから来る助走だったのかなと。だいたい18年も助走があるとくたびれてしまうものだけれど、今回はものすごい作品ができました。本当に満を持してという感じで、僕の代表作ができたと思っています。
樋口:こんなに喜んでくれると、監督冥利に尽きますね。剛くんといつかまた一緒に作品を作りたいという気持ちは、ずっとありました。この18年の間、剛くんがドラマにしろ、映画にしろ、舞台にしろ、本当にすばらしいお芝居をされているのを見ていると、そのたびに「剛くんの魅力がみんなの知るところになってしまった」となんだか悔しい気持ちにもなったりして。剛くんにこれ以上の作品をお願いしたいと思うと、どんどんハードルが上がっていったんです。
草なぎ:『日本沈没』の撮影では潜水艦に乗ったりもして。それも昨日のことのように覚えていますが、もう18年も経ったんですね! 僕が演じた小野寺という役は、日本を救おうとする最高にカッコいい役でしたよね。
◆「苦しみの中で立ち上がっていく役を演じる剛くんは最高」
——本作で草なぎさんが演じた車掌の高市も、危機に立ち向かう役どころです。樋口監督にとって、草なぎさんにそういった役を預けたいという思いがありますか?
樋口:剛くんは、苦しんだり、耐えたりする人を演じると本当に輝くんですよ。今回演じてもらった高市は、乗客を救うためにものすごく苦しい決断をしなければいけない役どころです。究極の選択に対する葛藤をにじませたり、苦しみの中で立ち上がっていく役を演じる剛くんは最高です!
——クライマックスで見せる高市の表情も、忘れ難いほどすばらしいものでした。樋口監督が改めて、俳優としての草なぎさんのすごみを感じたシーンがあれば教えてください。
樋口:豊嶋花さん演じる女子高生の柚月から、高市が落とした名札を受け取るシーンがあります。走っている新幹線の中で撮影をしていたので、みんながどうしても「トンネルに入るまでにここまで撮らなければ。次の駅に着くまでに撮らなければ」と少し殺気立ってしまったんですね。そんな中で撮ったので、あとからお互いの気持ちを撮り切ることができなかったのではと感じて。キャラクターの気持ちを整理しつつリテイクをさせてもらったところ、草なぎさんがすばらしい表情をしてくれました。天使のような顔でしたよ。
草なぎ:リテイク前にもいいシーンが撮れていたけれど、あの時はみんな焦っていたからね。撮り終わった時に、僕も「監督、違和感を覚えているのかな」と感じる部分があって。やっぱり監督は、よく全体を見ていますよね。冷静になって仕切り直したことで、さらにいいシーンになって本当によかったなと思います。
——お二人が通じ合っていることがよく分かる一コマですね。18年の中でお互いの変化を感じることはありますか。
樋口:剛くんはこの18年の間、YouTubeを始めたり、犬を飼ったり、いろいろな変化、経験をしてきたと思います。それらがすべてご本人の年輪となり、役者としてのレイヤーにもなっている。
草なぎ:レイヤー! 横文字を使うんだよね(笑)! 樋口監督は、子どもがおもちゃで遊んでいるように、楽しみながら作品づくりをする方で。いくつになっても子ども心を忘れていない。僕も精神年齢は小学校2年生くらいなところがあるので(笑)、監督とは、大人の縛られた価値観や世界観から放たれて、「楽しんで作ろう」というところで共鳴し合っている感じがするんです。それでいて、子ども心だけでは決して作れないような作品を完成させてしまうんだからすごいですよ。監督の頭の中にはきちんと撮りたい画があって、そのためにはどんな技術が必要かも分かっているんですよね。そして1秒に満たないようなワンカットにもものすごい熱意を注いで撮っていくので、役者としても安心感ややりがいがあります。
樋口:特に本作は登場人物が多いし、それぞれの表情を撮ることに手を抜くわけにはいかない。キャラクター大渋滞のような作品ですが(笑)、時間をかけて丁寧に撮っていきました。
草なぎ:監督の真骨頂を味わえる作品になったと思いますよ!
◆草なぎ剛の転機、今でも背中を押してくれる高倉健さんの姿
——『新幹線大爆破』といえば、高倉健さんが犯人役として新境地に挑んだ作品としても印象深い作品です。お二人にとって、この時に思い切った新境地に挑んだことが自分を成長させてくれた、転機となったと思われるような出来事や出会いがあれば教えてください。
草なぎ:樋口監督とご一緒した『日本沈没』は、僕にとって転機となる作品の一つです。超大作の作品でプレッシャーもありましたし、いろいろな特撮の技術を目にしたり、なかなか経験できないようなことをたくさんさせていただきました。ヘリのシーンなど「何度も撮ることはできない」という緊張感の中、撮影したことをよく覚えています。そういえば六平直政さんと一緒に焚き火の前で民謡を歌うシーンがあったんですが、それは全部カットされていましたね(笑)!
樋口:楽しい雰囲気になりすぎていたから(笑)!
——六平さんは、本作にも出演しています。
草なぎ:そうなんだよね! 六平さんとは『日本沈没』で出会って、それからいろいろな作品でご一緒していて。僕のことを助けてくれる役も多いんですよ。そういった意味でも、『日本沈没』はたくさんの出会いをくれた大切な作品で、僕にとって財産だと言える作品です。
樋口:僕は今回の作品が、自分にとって転機になるものだと思っています。よく行く東十条の焼き鳥屋があるんですが、そこの親父が「監督、そろそろ映画を撮りなよ」と言うんです。いやいっぱい撮ってるけど、と言うと、ゴジラやウルトラマンではなくて、人間を撮れと。厳しいことを言うんですね(笑)。そんな中、『日本沈没』から18年が経って、より深いレベルで人間を表現しながら、スタッフ、キャストみんなでいいものを作っていけるはずだと感じて臨んだのが本作。新幹線はもちろん、そこに乗り合わせた人間たちに向き合って、作品を作れたという実感があります。
——草なぎさんは、生前の高倉さんと交流がありました。『新幹線大爆破』における高倉さんの魅力について、どのように感じていますか。
草なぎ:樋口監督と同じように、僕も『新幹線大爆破』は大好きな作品で何度も観ています。健さん演じる沖田が吸っているタバコの灰で時間経過を表現したり、斬新な演出も印象的で。現場でそういったアイデアを聞いた健さんが、「いいね!それ!」と興奮していたんじゃないかなと想像すると楽しくて。健さんがバイクに乗る姿もカッコいいし、セリフを発していなくても、説得力が画面からあふれてくるようで本当にステキなんですよね。僕もなんとか健さんに近づきたいと思って、“健さんグルーヴ”が出せないかなと思うこともあります。クライマックスの高市の表情にも、「健さんだったらどうするかな」と考えたり、健さんのように寡黙さの中に説得力をにじませるためにはどうしたらいいかと考えていました。
——今でも高倉健さんの存在は、草なぎさんにとって大きなものなのですね。
草なぎ:本当にそう思います。不思議なもので、健さんの声が聞こえてくる時があるんです。健さんと一緒に過ごした時間があるので、自分の中の想像で作ってしまっている言葉かもしれないんですが、僕には語りかけてくるように聞こえてくる。今回の撮影でも健さんのことを思い出すことが多くて、そうすると「剛、役者なんていうのは作り物で、嘘の世界を生きるものなんだから、お前自身がちゃんと生きていないとすぐに見透かされるし、観客になにかを植え付けることなんてできないぞ」という声が聞こえてきた。それは、そういう画を監督が撮ってくれたからこそ。樋口監督に、本当に感謝しています。
(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
Netflix映画『新幹線大爆破』は、Netflixにて4月23日より世界独占配信。