日本語は拙くセリフは不安定だが、本物の空手家が見せる迫力は十分!――春日太一の木曜邦画劇場
2025年4月29日(火)18時0分 文春オンライン
ブルース・リー主演『燃えよドラゴン』の大ヒットを皮切りにクンフー映画が大ブームとなったことを受け、東映は自社でカラテ映画を次々と製作していった。そうした中で、千葉真一の「殺人拳」シリーズや志穂美悦子の「女必殺拳」シリーズ、前回の 『極悪拳法』 などが作られている。

そして、今回取り上げる『ザ・カラテ』もまた、この時期の東映作品である。
先に挙げた映画はいずれも、東映にいる空手を得意とする俳優たちの主演作だ。が、本作はそうではない。主演は山下タダシ。「アメリカでブルース・リーに武道を仕込んだ」という触れ込みで現われた、本物の空手家である。
物語は、空手道の世界選手権が開催されることになり、オハイオに暮らす山下タダシ(役名も同じ)が賞金目当てに日本へやってくるところから始まる。たしかに正真正銘の空手の達人だけあり、冒頭のタイトルバックで山下の見せる演武は迫力十分。その後に繰り広げられるであろうアクションに向け期待は高まる。
だが、忘れてはならないことがある。それは、映画はフィクションだということだ。俳優はあくまで役柄を演じており、いくら本当に強いとはいっても、主人公としてキチンと様になって見せるために最低限の演技力は欠かせない。
そこが、本作の場合は問題だった。山下タダシはほぼ素人同然の演技力で、セリフがとにかく不安定。しかもアメリカ暮らしが長かったためか、日本語も片言なのだ。そのため、空手を駆使したアクションの数々は重量感も切れ味も抜群なのだが、口を開くと観る側を腰砕けにさせる。
ただ、野田幸男監督もそれを想定していたのだろう。監督とは「不良番長」シリーズで長く組んでいた盟友・山城新伍を山下の弟分役に据えているのだ。山城に縦横無尽に喜劇芝居をさせて、山下の芝居の硬さやセリフの拙さをカバーする。そんな意図を感じられる配役になっている。
山城もその期待に応え、コミカルな動きのインチキ空手、ダジャレ、下ネタを容赦なくぶちこんで芝居を引っ張っていた。山下によるブルース・リーばりの「アチョー」という怪鳥音と、山城お得意の「はひぃ」という声にならない悲鳴との競演が、本作に緩急のリズムをもたらすことになる。他にも北村英三や小田部通麿の胡散臭い悪玉ぶりに加え、チンピラ役の福本清三が豪快なやられ方を何度も見せてくれたりと、東映ファンにとって見どころは多い。
それでいて最後は蓬莱峡の奇岩群のスペクタクルをバックに、激しい肉弾戦の決闘で締めており、ジャンル映画としても十分に楽しめる。
(春日 太一/週刊文春 2025年5月1日・8日号)