なぜ読売ジャイアンツで「大投手」は育たないのか 「伝説の名投手たち」が弱小球団でばかり生まれる“悲しすぎる理由”

2025年5月11日(日)12時10分 文春オンライン

イチローの「4367本」でも王貞治の「868本」でもない…現代野球で最も破るのが難しい“アンタッチャブルレコード”とは 〉から続く


 日本のプロ野球にはさまざまな金字塔がある。例えば、王貞治が生涯に放ったホームランの数である「868本」はその一つだ。しかし、それ以上に難しいのが金田正一の残した「400勝」である。いったいなぜ、金田は前人未到の記録を残せたのか。そこには金田の執念とともに、皮肉な理由があった。『 野球の記録で話したい 』(広尾晃著、新潮社)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の3回目/ 1回目を読む / 前回を読む )


◆◆◆



読売ジャイアンツで「250勝」以上した投手がいない悲しい理由(読売ジャイアンツ公式HPより)


勝ち星が多いピッチャーが「弱小球団」に多い皮肉


 金田が前人未到の「400勝」を挙げることができたのはその実力に加え「弱小球団だったから」という側面も実はあるのだ。NPBの300勝投手と所属球団別の勝利数は次の表のようになっている。


 1955年7月30日、スタルヒンが史上初の300勝投手となり、1959年10月14日に別所が2人目となったが、この2人は巨人、南海と言う強豪チームのエースとして勝ち星を積み上げた。しかし、それ以降に300勝を達成した投手の多くは、毎年優勝に絡むような強豪チームのエースではなかった。


 たまに優勝することはあるが、Bクラスに沈むことが多い球団で投げまくっていたのだ。2位の米田哲也がいた阪急は、1967年に西本幸雄監督の采配で初優勝して以降、強豪チームになっていくが、それまでは「灰色のチーム」と言われ、下位に低迷していた。米田はその「灰色の時代」に209勝を挙げている。


巨人から「大投手」が生まれない理由


 弱小チームの多くは、シーズン前半でペナントレースから脱落する。あとは個々の選手が「個人記録」に走ることになる。主力選手、中心選手は自分の記録のために融通を利かせてもらうことが可能になる。西本幸雄は1974年に近鉄の監督になった当時を「選手はみんなバラバラで野球をしていた。マウンドでは鈴木啓示が一人で勝手に投げていた」と述懐したが、そういう状況だったのだ。


 反対に、巨人は1960年代からMLBの選手起用を真似て投手のローテーションを組んでいた。巨人の歴代最多勝は南海から来た別所毅彦の221勝、200勝投手は他に203勝の堀内恒夫がいるだけ。むしろ強豪チームでは、こうした「大投手」は生まれないのだ。


 弱小国鉄時代から、金田正一は「記録」に異様な執念を抱いていた。1957年6月19日の巨人戦で、スタルヒンが持っていたプロ野球通算最多奪三振記録を抜く1967奪三振を達成。それからわずか5年の1962年9月2日の巨人戦で8三振を奪い、ウォルター・ジョンソンが持つMLBの奪三振記録に並ぶ3508奪三振を記録。


 優勝に縁がなかった国鉄の記事が紙面に大きく躍るのは、金田が大記録を作ったときだけだった。金田がとりわけ執念を抱いていたのは「連続20勝記録」だった。最終的には前人未到の「14年連続」を記録するが、10年目の1960年は、オフに事故に遭って故障したこともあり、やや不振。残り6試合となった9月29日の中日戦でようやく19勝。


勝手にマウンドへ上がった「金田の執念」


 気が気ではなかった金田は翌日の同じカード、プロ未勝利だった島谷勇雄が4回まで無失点に抑えていた5回に、「わしが投げる」とばかりに勝手にマウンドに上がった。しかし宇野光雄監督は審判に交代を告げない。金田は憮然とした表情でマウンドから降りて、ボールをベンチ前で叩きつけた。


 しかし島谷が5回に先頭の横山昌弘に三塁打を打たれると、金田はまたも勝手に審判に「次、わしが投げるから」と告げてマウンドに向かった。宇野監督もしぶしぶ審判に交代を告げることとなる。金田は5回を締めくくり無事20勝を挙げたが、翌日の新聞は金田の大記録をたたえつつも「大記録を汚す態度」と批判した。この時、金田に勝ちを譲った島谷は結局、未勝利のまま引退している。


 金田の400勝は、巨人に移籍して5年目の1969年10月10日の中日戦で達成されたが、この試合も先発の城之内邦雄が4回まで投げ、5回以降をつないだ金田が1失点で試合を完了させたものだ。金田の400勝は確かに空前の大記録だが、こうした「金田天皇」ならではの横車を押すような行為が散見されるのだ。


 選手のマナー、ふるまいに対するチェックが厳しくなっている昨今なら、こうした専横は、許されないのではないか。そういう意味でも、金田正一は「過ぎし時代の大投手」だと言えよう。


(広尾 晃/Webオリジナル(外部転載))

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