信用ガタ落ちの北朝鮮通貨、国内の零細商人もそっぽ

2025年4月26日(土)14時2分 デイリーNKジャパン

一度失った信用を取り戻すのは、そう簡単なことではない。


北朝鮮当局はかつて、「1ドル=8900北朝鮮ウォン」と定めた“協同為替レート”を違反した者に対して、公開思想闘争(吊し上げや人民裁判)にとどまらず、厳しい法的処罰を科すよう命じていた。ヤミ両替の撲滅を徹底しようとしていたのだ。


当局は、「ヤミ両替商(通称:トンデコ)が外貨を隠し持っているせいで、ウォン安とインフレが起きている」と、やや筋の通らない理屈を掲げ、取り締まりを強化した。



しかし、ヤミ両替は一向に収まらなかった。理由は明白だ。国営の「金融奉仕所」や「協同貨幣取引所」では、ヤミ市場よりも2倍近く安い不利なレートが適用され、使えば使うほど損をする状況だったからだ。このレートは2023年10月のヤミ市場価格をもとに設定されたものだったが、その後のインフレとウォン安で乖離がどんどん拡大していた。


結局、2025年3月には為替レートが見直され、ヤミ市場とほぼ同じ「1ドル=2万1000北朝鮮ウォン」にまで引き上げられた。しかし、それでも北朝鮮ウォンの信用は回復せず、多くの人が資産を米ドルや中国人民元で保有している。この実情を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。


咸鏡南道のある住民によれば、北朝鮮ウォンに対する不信感は深まる一方で、多くの人が資産をドルや元に両替し、自宅に保管しているという。


ある程度の規模の商売をしている商人たちは、その日の営業が終わるとすぐに、稼いだ北朝鮮ウォンをドルや元に替えているという。


「為替が急に動くことが多く、損をしないようにするためです」(情報筋)


今月第3週の時点で、コメ1キロの価格は1万ウォン、ドルのヤミレートは1ドル=2万3000ウォンにまで上昇。昨年4月の1ドル=9000ウォンと比べると、約2.5倍の上昇である。為替の不安定さは、今後も続く見通しだ。


「昨年末には1ドル=2万4000ウォンまで上がったこともありましたが、もうすぐそれを超えるとも言われています。3万ウォンを超えるという噂もあり、今は外貨を持っておくのが一番賢明だと皆思っています」(情報筋)


このような状況の中で、ある程度余裕のある人々は、日常で使う少額だけを北朝鮮ウォンで保ち、それ以外はすべて外貨に替えてしまう。市場や国営商店でも、外貨での支払いが歓迎される。


平安北道(ピョンアンブクト)・新義州(シニジュ)の住民は、国営銀行や協同外貨取引所の使い勝手の悪さをこう指摘する。


「ドルや元を北朝鮮ウォンに替えることはできても、北朝鮮ウォンから外貨に替えることはできません。外貨が必要なときは、個人の両替商(ヤミ両替商)に頼るしかないんです」


さらに、北朝鮮ウォンそのものの使い勝手の悪さも問題だという。


「家具や家電など高額商品は外貨建てで売られているため、ウォンで買おうとすると、大きなカバンに現金を詰めて行く必要がある。かさばるし、価値も日々変わる。だったら、軽くて一晩で値上がりする可能性のある外貨を持っておいた方がいい」


なお、最高紙幣は5000北朝鮮ウォン(約30円)だ。


国営商店も、価格表示は基本的に外貨建てだ。北朝鮮ウォンで表示すれば、頻繁に値札を貼り替えなければならず、店側にも手間がかかるからだ。現金が大量に持ち込まれた場合、両替の処理も煩雑になる。


夜遅くまで路上に立ち、懐中電灯の光の中で両替を行うヤミ両替商たちは、「今が稼ぎ時」といわんばかりだ。当局の取り締まりも、かつてほど厳しくはないように見える。


情報筋と付き合いのある両替商によると、野菜を売る八百屋の女性ですら、時折北朝鮮ウォンを持って元に両替しに来るという。日銭で生活する人たちですら、少しの儲けをすぐに外貨に替えるということだ。それほどまでに、北朝鮮ウォンの価値は不安定なのだ。


「いくら当局が取り締まっても、個人の両替商はなくなりません。むしろ、銀行よりも高いレートで外貨を買ってくれるので、彼らを利用する人の方が多いのです」(情報筋)


北朝鮮当局は、コロナ禍以前から外貨流通をはじめ、国内の商行為や国外との貿易まで、あらゆる経済活動を国家が一元管理しようとしてきた。しかし、その試みは5年以上経っても成果を上げられず、国民の暮らしはますます厳しくなっている。


金正恩総書記は、かつては「市場に干渉しない」姿勢で、父・金正日とは異なるリーダー像として一定の支持を得ていた。しかし最近では、その期待も薄れつつある。「経済のことは何でも国が管理する」という方針は、皮肉にも国力をすり減らす結果を招いているのだ。

デイリーNKジャパン

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