北朝鮮”国家的盗聴”の実態「固定電話の受話器に怪しい装置」
2025年5月21日(水)5時20分 デイリーNKジャパン
北朝鮮の首都・平壌市内の高級ホテルの客室には、盗聴装置が仕掛けられていると言われるが、どこに仕掛けてあるかもわからず、実物を発見したという報告は未だにないようだ。
だが、北朝鮮北部、恵山(ヘサン)からはこんな情報が寄せられた。
「国産の固定電話の受話器から異様な(盗聴)装置が発見された」
それはどのようなものだったのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の住民筋(匿名希望)によると、現地では家庭用固定電話に盗聴装置が隠されていることが、保衛部(秘密警察)の関係者の家族から噂が広まり、逓信所(郵便電話局)には解約が殺到した。
あまりの解約申し入れの多さに、両江道通信管理局は、今月初旬から受付を中止するに至った。
この情報筋によれば、固定電話への盗聴装置の設置は、中国キャリアの携帯電話などの取り締まりが最高潮に達していた昨年2月初旬、国家保衛省(秘密警察)の両江道駐在15局(電波監視局)の技術指導員の家族の口から外部に漏れた。
半導体設計を学んでいる恵山高等機械専門学校の学生たちが今年2月、北朝鮮製と中国製の電話機をすべて解体した。すると、受話器の部分から異様な装置が見つかったという。
それを取り外しても通話には一切支障がなかったことを、学生たちが確認した。これを受けて、加入者は電話機を分解して「装置」を外すにとどまらず、電話回線の解約を申し出る事態となった。
なお、「装置」の存在を漏らした一家は、海抜2000メートルの寒村、豊西(プンソ)郡龍門里(リョンムンリ)に追放されたとのことだ。
情報筋は、「2017年以前までは、固定電話を設置する家庭はあらかじめ電話機を自分で準備する必要があった」と説明した。当時、北朝鮮国内では固定電話機の製造が行われておらず、住民たちは中国製を購入せざるを得なかったという。
しかし2018年以降、「メアリ」「ウルリム」「三日浦」といった国産固定電話が大量に生産されるようになり、2022年までに両江道通信管理局が中国製の固定電話をすべて回収し、国産のものに入れ替えさせた。中国製の有線電話は非常に貴重な存在となっている。
両江道の幹部は、携帯電話が盗聴されていることは広く知られており、固定電話も同様だと思われていたが、通話内容のみならず、家庭での会話も盗聴されているとは思わなかったと述べた。
「国家保衛省が固定電話を使って、住民の会話を一語一句漏らさず盗聴していたという事実に、両江道の幹部たちも大きな衝撃を受けた」という。「住民監視の手口が露呈した問題を受けて、両江道保衛局は3月の1カ月間、非常に厳しい内部検閲(監査)と思想闘争(吊し上げ)を行った」とのことだ。
そこでは、収賄が取り沙汰された捜査課の課長が厳重警告を受け、上述の技術指導員以外にも、大尉クラスの若い指導員が解任された。
情報筋は続けて、「家庭用固定電話が家族監視の手段だったという事実に衝撃を受けた住民たちは、携帯電話に対する疑念もさらに深めるようになった」と話した。そのため、「複数人が集まる場や秘密の話が交わされるような場では、携帯電話を一切持ち込まないことが一種の礼儀として定着しつつある」と説明した。
固定電話のある家には、友人も訪問をためらうようになったという。情報筋は「最近、道の通信管理局が固定電話の解約の申し入れを無視するようになったため、住民たちは家庭用電話の配線そのものを切ってしまっている」「家庭用電話があると『遊びに行く』と言っていた友人も約束をキャンセルし、隣人も深い話をせずにそそくさと帰ってしまう」と述べた。