H3ロケット試験機2号機打ち上げ現地取材 第3回 ようやく産声を上げたH3ロケット、軌道はストライクゾーンの“ど真ん中”

2024年2月19日(月)7時4分 マイナビニュース

既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は2月17日、H3ロケット2号機の打ち上げを実施し、これに成功した。奇しくも「2月17日」は、1年前、初号機の打ち上げを予定していたが、固体ロケットブースタへの点火が行われず、延期になった日。その1年後、止まっていた時間がようやく動き始めた。
H3は海外の打ち上げ需要を取り込めるか?
JAXAとMHIは同日12時半より、記者会見を開催し、打ち上げの結果について報告した。9時22分55秒に打ち上げられた同ロケットは、計画通り飛行し、第2段を所定の軌道に投入。小型副衛星の分離、第2段の制御再突入、ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)の分離まで確認し、文句の付けようがない完璧な成功となった。
会見に臨んだJAXAの山川宏理事長は、「私は宇宙業界に入って長いが、こんなに嬉しかった日はなかった。そして、こんなにホッとした日もなかった」とコメント。これから、H3ロケットでどんどん衛星や探査機を打ち上げられる体制が整ったということで、「非常に大きな一歩だった」と、成功を喜んだ。
メーカーであるMHIの江口雅之氏(執行役員 防衛・宇宙セグメント長)は、「どんどん使っていただいて、宇宙開発を盛り上げていきたい」とコメント。従来のH-IIAロケットは年間で数機程度の打ち上げに留まっていたが、「インフラ整備は必要になるが、できれば8機、10機と増やしていきたい」と、意気込みを述べた。
官需には大きな伸びは期待できないため、打ち上げ回数を増やすには、民需を取り込むしか無い。そのための大きな課題はコストである。H3は、それを強く意識して開発。最もシンプルな「H3-30S」形態の場合には、従来の半額となる「約50億円」という価格を、当初から目標にしていた。
これについて、江口氏は「まだ作り始めたばかりなので、コストダウンは目標に達していない」とし、達成できる見通しについては、「10号機とか15号機くらいには、競争力が出せるようにしたい」と述べた。
現在、商業打ち上げの市場は、ロシアのソユーズが使えなくなったこともあって、米SpaceXが圧倒的な強さを持っている。SpaceXにコスト面で対抗することは厳しく、活路を見いだすにはコスト以外の要素、たとえば信頼性とかオンタイム打ち上げ率とかで勝負するしかないが、比較しようと思える程度の価格差でなければ、それも難しい。
江口氏は、「簡単に受注できるとは思わない」としつつも、「SpaceXだけでは打ち上げられない衛星が出てくる。頑張っていれば、国際的に十分競争できる価格帯に近づいている」との見方を示した。欧州の「アリアン6」も開発が遅れており、その前に成功できたのは、タイミング的にも大きかったのではないだろうか。
ストライクゾーンの“ど真ん中”に投入
記者会見の第2部には、JAXAの岡田匡史氏、MHIの新津真行氏の両プロジェクトマネージャが出席した。岡田プロマネについてはこのあと、プレスの囲み取材や、個別インタビューも行われたので、そこでの内容も交えつつ、結果について紹介したい。
岡田プロマネは、「ようやくH3が『オギャー』と産声を上げることができた」と挨拶。「ものすごく重い肩の荷が下りた」と、安堵の表情を見せた。その一方で、「H3はこれからが勝負」と指摘。「しっかり育てていきたい」とした。
衛星を分離した瞬間、岡田プロマネは「笑いながら泣いていた」という。今回の打ち上げの採点については「今日だけは満点」と笑顔を見せるが、「3号機の準備は、明日からでも始めなければならない。大切なミッションを乗せることになっても、きっちり宇宙に届けられるようにしたい」と、前を向く。
2号機の目的は、ロケットの軌道投入を実現することだった。その精度については事前に決められていなかったが、打ち上げの実際の結果は「高度誤差が1kmも無かった」という。この精度は非常に高い。「今回はたまたまかもしれないが、本当にストライクゾーンのど真ん中に入った。何回か重ねると実力が見えてくるだろう」と評価した。
一方、新津プロマネは、「今後、細かくデータを見ていけば、改善が必要な点も出てくるだろう。そういったところに手を加え、信頼性の高い機体にしたい」とコメント。「打ち上げの成功で毎回喜ぶのではなく、それが当たり前になるくらいに淡々と打ち上げができるような機体に仕上げていきたい」と述べた。
今回の打ち上げは土曜に行われたため、現地や中継で、大勢の子供達も見たことだろう。メッセージを問われた両プロマネは、それぞれ以下のように回答した。
岡田プロマネ「ロケットという乗り物は、一度打ち上げるとやり直しができず、そこに難しさがある。そういった難しいものを開発して成功させることに、魅力を感じている。辛いときもあるが、好きなら乗り越えられる。何でもいいから好きになって、チャレンジして欲しい。乗り越えるのは楽しいよと伝えたい」
新津プロマネ「ロケットの打ち上げは、オリンピックの100m走に似ていると思っている。勝負は一瞬で終わるが、何年も準備する。我々のロケットは、短いと十数分で勝負が決まるが、仲間と取り組んで成し遂げる喜びは、なにものにも代えがたい。今回の打ち上げを見た子供達が、夢を持って開発に取り組むきっかけになればいい」
今後のH3ロケットはどのように進化する?
H3ロケットの初成功は非常に喜ばしいが、岡田プロマネが述べたように、本当の勝負はこれから。今は、ようやくスタート地点に立つことができたに過ぎない。今回、実証できたのはスタンダードな「H3-22S」形態だけで、2つの形態がまだ残っている。さらに、第1段エンジン「LE-9」も、開発の途上だ。
気になるのは、当初は2号機で実証する予定だったH3-30Sの打ち上げがいつになるのか、ということだ。岡田プロマネによれば、「まだ決まっていないが、少なくとも3号機ではない」とのこと。「H3-22Sはだいぶ感触を掴めたが、H3-30Sは心してかからないといけない面がある」とし、慎重な見方を示した。
LE-9は、ターボポンプの共振の問題が解決し切れておらず、初号機では暫定的な「タイプ1」仕様のエンジンが使われた。LE-9は初号機でも問題なく動作しており、岡田プロマネも完成度には自信を見せるが、開発のゴールとなるのは「タイプ2」。2号機では、初号機と同じタイプ1が1基と、その改良型となる「タイプ1A」の1基が搭載された。
仕様の比較表を見ると、タイプ1とタイプ1Aの違いは、「その他コンポーネント」だけだ。具体的な変更点について岡田プロマネに確認したところ、タイプ1Aの設計変更は、作り方をシンプルにするとか、加工の方法を変えるとか、どちらかというとコストダウンを狙ったものが中心だということだ。
なお、コストダウンの面では3Dプリンタ製の噴射器(インジェクタ)が期待されるが、タイプ1Aでは採用を見送った。この理由について、岡田プロマネは「まだ自信が持てるまでには至っていないけれども、もうすぐ持てるかもなというくらいの感じのところ」と、開発状況を説明。
タイプ1Aという中間バージョンがあれば、当面の間は、H3ロケットの運用に支障はない。「だからタイプ2は慌てて開発するのではなく、時間をもらってでも、本当に納得できるものとして仕上げたい」とした。
2024年度での退役が決まっているH-IIAロケットは、20年以上も使われ続けた。H3について、岡田プロマネは「20年使えるロケットを目指しているが、この“20年”というのは、1回作ったらそのまま同じものを使うということではない」と述べる
「H3は、中身を良くしたり、場合によっては第1段や第2段をすげ替えるようなブロックアップグレードを行いながら使っていく。そういうことをする土台が今回どうしても必要だったので、思い切って大きな開発をやらせてもらった。この機会を大事にして、次のステップに繋げていきたい」と、今後の抱負を述べた。
おまけコーナー
とりあえず現地取材の本編は以上になるが、これまでの記事で紹介し切れなかった現地での写真などを、最後に公開することにしたい。現在の種子島は宿不足が深刻で、なかなか気軽に打ち上げを見に行ける状況ではないのだが、少しでも現地の雰囲気を感じてもらえれば幸いだ。

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