九大など、6600万年前の小惑星の落下が環境回復にも寄与したことを確認

2025年4月9日(水)15時41分 マイナビニュース


九州大学(九大)と東京科学大学(科学大)の両者は4月8日、恐竜を絶滅させた約6600万年前の小惑星の落下後にメキシコ湾の堆積物に記録された約300万年間の化石層序およびオスミウム同位体層序から、落下後少なくとも70万年にわたってメキシコ湾は半閉鎖的な海洋環境となり、クレーター直下で生じた熱水活動の影響を受けていたことを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、九大大学院 理学研究院の佐藤峰南助教、科学大 理学院の石川晃准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
白亜紀末の小惑星落下により、メキシコ・ユカタン半島沖に直径約200kmのチクシュルーブ(チチュルブ)・クレーターが形成。その際に飛散した物質からなる堆積物からは、小惑星物質に特有の高い白金族元素濃度が確認された。また、低いオスミウム同位体比(187Os/188Os=0.12)も特徴であり、世界中の350地点以上から発見されている(地球の大陸地殻のオスミウム同位体比は1.4)。
2016年4月から5月にかけて、国際深海科学掘削計画の第364次研究航海が実施され、チクシュルーブ・クレーター内で掘削コア試料が採取された。同試料を用いた研究から、落下地点では、小惑星の落下からわずか数年以内に生物活動が再開されたことが確認されている。そして、少なくとも数万年以内には植物性プランクトンを基盤とする多様な生態系が復活した可能性も示唆された。しかし、クレーター内でそのような環境がどのように形成されたのかは、依然として不明である。
そこで研究チームは今回、クレーター掘削コア試料とメキシコ東部に分布する落下後約300万年間の堆積物を対象に、海洋環境指標である「浮遊性有孔虫」(外洋域の表層から中層に生息する単細胞の原生動物プランクトン)を用いた化石層序から高解像度の堆積年代を取得。さらに、オスミウム同位体比の変動記録の詳細な調査を行ったという。
調査の結果、落下由来の堆積物が示す低いオスミウム同位体比(0.2)は、落下前の値である0.4に戻るまでに約70万年を要したことが判明。この結果は、落下地点から5000km以上離れた外洋域から報告された約20万年とは大きく異なる。これについて研究チームは、クレーター下やその周辺域に堆積した低いオスミウム同位体比を持つ小惑星物質が、メキシコ湾内にのみ継続的に供給されていたことを意味するとした。
クレーター内の海底下では、小惑星の落下で生じた海底熱水活動による元素移動の証拠が、非常に広い範囲(海底下5〜6km、約14×1015km3)で認められている。岩石に含まれる重金属元素であるマンガンや鉛は熱水と反応して徐々に溶解し、その後、上方へ移動した熱水は海水により冷却され、沈殿物が堆積物中に取り込まれた。落下後のクレーター内堆積物には、マンガンや鉛が特徴的に濃集しており、70万年かけて減少していることから、低いオスミウム同位体比の供給源が熱水だったことが判明。これは、落下後のメキシコ湾では半閉鎖的な海洋環境が形成され、クレーター下から生じた熱水の影響を70万年間にわたり強く受けていたことを示すものだとする。
落下後のクレーター内海域では、生物基礎生産の指標となる「石灰質ナンノプランクトン」および浮遊性有孔虫の化石が急速に増加し、熱水活動の影響がなくなった約70万年後を境に、富栄養環境を示す化石群集から貧栄養環境を示す群集への顕著な移り変わりが確認されている。このことから、落下地点における生態系の急速回復は、クレーター下の熱水活動によってもたらされた富栄養の海洋環境が原因である可能性が示唆された。実際、マンガンや鉛と同時期にリンの濃集も記録されており、熱水中のリン酸塩などの栄養塩の豊富な供給が、生態系の急速な回復および群集変化に大きな影響を及ぼしていたことが示されているという。
生態系の回復時期は、落下地点に近づくほど遅れると考えられていたことから、今回の結果は予想を覆すものとなった。また小惑星の落下は大量絶滅を引き起こしたが、熱水活動を発生させることで破壊した生態系の回復にも深く関与していたことが明らかにされた。
今後は、クレーター直下の熱水循環が、メキシコ湾全体の生態系にどの程度影響を及ぼしたのかについての研究が進むことが期待されるといい、加えて、落下由来堆積物を探索する地球化学的指標として利用されてきたオスミウム同位体比は、当時の長期的な海洋環境変動を解明するツールとしても活用できることが示された。さらに、カリブ海や太平洋など、落下地点からの距離が異なるさまざまな海域の堆積物からオスミウム同位体層序を復元できれば、よりグローバルな生態系の回復パターンとその要因を解明できる可能性があるとしている。

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