「バウアーのボーク」を日米逆で考えると...明快な「必要なこと」元NPB審判員記者が解説
2025年3月9日(日)21時53分 スポーツニッポン
◇オープン戦 オリックス 2—2 DeNA(2025年3月9日 京セラD)
DeNAのトレバー・バウアー投手(34)がオリックスとのオープン戦に先発した。3回で打者15人に49球を投じ、5安打2四球2奪三振2失点(自責0)だった。
「騒動」は2回。1点を失い、なお2死三塁で西野への初球を投じたところで「ボーク」を宣告され、追加点を許した。両手を広げる「WHY?」のポーズで判定への不満を表した。三浦監督は、ボークを宣告した三塁塁審の福家英登審判員に確認を求めた。
その後、福家審判員はマウンド周辺で通訳を通し、バウアーに投球動作について説明。その後に「投球動作の変更によりボークを宣告しました」と場内放送を行った。
ボークを宣告されたバウアー、コールした福家審判員の試合後コメントは以下の通り。
▼バウアー
あの場面で、三塁塁審の方から説明をいただいたんですけど、まだ自分の中では理解できていないので、しっかりコーチの方と話をしたいと思っています。あの場面では、三塁塁審の方にまず“ワインドアップでいきます”っていうジェスチャーをしたんですけど、こっちの方を見てなかったので、球審の方を向いて“ワインドアップでいきますよ”っていう風に伝えて、球審の方は頷いていたように感じました。その後、なぜボークの指摘を受けたかについては、まだしっくりきていないんですけども、試合後しっかり確認したいと思っています。
▼福家三塁塁審
バウア—はワインドアップを取ろうとしていた。でも、足の置き方がセットポジションの置き方だったので、セットポジションから(モーションを)ワインドアップに変えたという判断です。だから、それ以上でもそれ以下でもなくて、野球規則通り適応させていただきました。(バウアーはワインドアップでいきますと申告するような動作をしていたが)メジャーはメジャーのルールがあって、我々は我々のルールがある。
双方の認識が分かれたボーク宣告。NPB審判員を務めた経験のある記者が解説する。
まず、福家三塁塁審の下したボーク判定は正しい。公認野球規則では「投手は、打者に面して立ち、軸足を投手板に触れ、他の足を投手板の前方に置き、ボールを両手で身体の前方に保持して、完全に動作を静止したとき、セットポジションをとったとみなされる」とある。さらにワインドアップポジション、セットポジションの足の置き方が図を用いて規定されている。
バウアーは走者三塁となったことで、左足を引いて投げるノーワインドアップを選んだ。投手板に右足、投手板の前に左足をおき、グラブを体の前で制止した。これは前述した規則でセットポジションと判断される。そこから一歩左足を引いて、ワインドアップのモーションに入ったため、投球動作の中断としてボークを宣告された。
規則的には福家審判員が正しい。ただ、バウアーは投手板を踏む前に「ワインドアップからの投球」を通告するようなゼスチャーを取っていた。だが、そもそも日本には「通告」でボークを回避できるような規則はない。だからこそ、福家審判員は「メジャーはメジャーのルールがあって、我々は我々のルールがある」と言ったのだろう。
この問題の肝はどこか——。選手はプレーするリーグの規則を知っておくべき、という点に尽きる。今回は「米国では許されるが、日本では違反」の事例。もし、今回の事象が日米逆ならば、どうだろうか。
例えば、メジャー挑戦した日本人投手がピッチクロックに違反し、ボールを宣告されたとしよう。その投手が「日本ではOKだった」とMLB審判員に伝えたとしても、今回と同じく「MLBにはMLBのルールがある」と一蹴されるのではないだろうか。
タダで走者の進塁を許すボークは投手にとって重い。バウアーにとってはオープン戦で日米の違いを学べたことは幸運だったといえる。(元NPB審判員、アマチュア野球担当記者・柳内 遼平)