東京六大学野球初の「ビデオ検証」で思い出した田口壮監督の北風と太陽 早大・小宮山悟監督の重い言葉

2025年4月14日(月)22時17分 スポーツニッポン

 ◇東京六大学野球春季リーグ戦 第1週第2日 早大13—3東大(2025年4月14日 神宮)

 今季から導入された「ビデオ検証」が東大—早大戦で初めて実施された。5回の東大の守備で無死一、三塁から一塁走者の早大・小沢が盗塁を仕掛け、セーフの判定。東大・大久保裕監督が「ビデオ検証」を要求し、三塁側ベンチ横のビデオルームで検証した結果、アウトに覆った。

 さらに7回の早大の攻撃では、3番・小沢が二ゴロの一塁判定が際どいタイミングでセーフ。大久保監督が再び「ビデオ検証」を求め、今度は判定は覆らず9イニングで1回(成功は含まれない)の権利を失った。試合後、大久保監督は「モヤモヤしたところがない」と新制度を歓迎していた。

 「ビデオ検証」は10日に開かれた理事会で承認されていた。各チームが検証を要求できるのはプロ野球と異なり、9イニングで1度で、延長戦も1度要求が可能。判定が覆った場合はカウントされない。また、選手からジェスチャーなどで要求はできず、監督が直接、審判員に求める。

 記者は11年から16年までNPB審判員を務めた経験がある。グラウンドでは選手や監督から「下手クソ!」などの罵声を浴びることもあったが、抗議を受けた際に一番印象に残っているのは当時、オリックスで2軍監督を務めていた田口壮氏の言葉だ。

 

 普段から審判員にも紳士的な態度を貫く指揮官。ある2軍戦で二塁塁審を担当した私はミスジャッジをした。ベンチから飛び出してきたオリックス・田口監督は「柳内さんは普段、頑張っているだけに残念なジャッジです」と言った。

 抗議の際、他の監督から「ふざけるな!」や「アホなことぬかすな!」と言われたこともある。ただ、この田口監督の言葉は何ともいえない後味を残した。信頼してくれた人を裏切った時ほど情けないものはない。中傷の言葉よりも、失望させた時の方が心のダメージは大きかった。寓話の「北風と太陽」のようだった。

 時を戻そう。東大による歴史的な「ビデオ検証」が行われた試合後。早大・小宮山監督は今後早大側から「ビデオ検証」を求めることはない、とメディアの前で公言した。

 

 「運用として当時者の選手がアピールできないってのはいかがなものかなと。(ビデオ検証の要求を)する気はないです。近くにいる審判の判定に、遠くにいるベンチから異議を唱えることは審判に対して失礼と思っています。彼ら(選手)にもそれは伝えています」

 権利を放棄し、東京六大学野球をジャッジする審判員に示したリスペクト。記事を通し、小宮山監督の言葉を知った審判員たちは身の引き締まる思いだろう。古い記憶、田口監督の「北風と太陽」を思い出した。(元NPB審判員、アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

スポーツニッポン

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