造船関連企業・イワキテック 合言葉は「上島町から全国へ」人材確保へ硬式野球部創設 地域創生にも一役
2025年4月17日(木)7時0分 スポーツニッポン
創部1年目の新興チームが、堂々たるデビューを飾った。3月24日に行われたJABA春季四国社会人野球大会。初の公式戦に臨んだイワキテックは昨年都市対抗16強の四国銀行を相手に、5—3で接戦を制した。投げては大体大から入社した右腕・加藤祥太が8安打を浴びながらも完投。打線も6回までに13安打を放ち、練習の成果を発揮した。
「私がこんな言い方をしてはダメですが、正直、驚きました。本当にみんなが頑張ってくれて、初勝利を手にすることができたのは誇らしいですし、彼らを褒めてあげたい」
イワキテックの代表取締役社長の山本一郎氏は、20人の部員を称えた。
大型構造物や造船関連製品等を製造する同社は、愛媛県北部に位置する上島町に本社を持つ。離島である上島町は瀬戸内海に浮かぶ25島で構成され、本州(広島県尾道市、三原市)、四国(愛媛県今治市)、瀬戸内海しまなみ海道から高速船、フェリーで訪れることができる。三原から生名島の立石港まで高速船で40分程度だが、新卒での採用者はアクセスが良い広島県側の工場勤務を希望。過去3年の新卒採用11名は全員が「因島工場」となった苦境を打破するべく、人材確保の観点から山本社長は野球部の創設を決断した。
「瀬戸内海の離島ということと、当社が労働集約型産業でもあることから人材の確保が必要でした。また、岩城小、中学の生徒さんを見ても、生徒数は減ってきている。果たして何人が将来、岩城島にUターンしてくれるかということを考えても今のうちに人材を確保したいと思い、創部を決断しました」
昨年8月にはJABA四国野球連盟にクラブチームとして加盟。本社採用された18歳から30歳の20人の部員は平日の午前8時から午後5時まで加工、溶接、品質管理などフルタイムの業務に励む。全体練習の開始時間は、午前中のみ勤務の水曜日を除くと午後5時30分から。2時間半ほどナイター練習を行い、その後は各自が室内練習場に移りウエートトレーニングなどの自主練習に取り組む。土日のいずれかも活動しており、仕事と野球の両立は決して簡単ではないが、車で5分程の生名島にもグラウンド、室内練習場があるなど野球に打ち込む上での環境は充実。さらに、同町は年間の平均気温が15〜16度と温暖なうえ、年間降雨量も1000ミリメートル前後と気候にも恵まれている。
「過疎地域でありますので、若い人間が他の地域から来ていただけるのは良いことですし、やって良かったな、と。地域の方々からも歓迎されているように感じます」
山本社長の言葉からも分かるように、上島町は少子高齢化とも向き合っている。3月31日現在で人口は5944人。野球部の発足は同社の人材確保に加え、地域創生の役割を担う側面もある。野球部員は秋祭りや、「いわぎ桜まつり」といったイベントに積極的に参加。町内の保育所や小学校にも赴き、野球教室を開催してきた。町民の反応も上々。同部の村上太一部長は「イワキテックのユニホームを着ていくと、子供たちも喜んでくれているようです」と笑顔を浮かべる。
かねて、上島町は少年野球、中学野球が盛んな地域だったが、地元で長く野球を続けていく選択肢はなかった。同社の野球部が活動を継続していけば、町内で育った子供たちの受け皿になる可能性がある。地域に根付けば、同部と子供たちの交流を通じて、レベルアップに寄与することも可能。山本社長は「地域の活性化にも貢献できればと思います」と先を見据える。
四国銀行からの歴史的1勝もさることながら、村上部長を喜ばせたのは、同日に行われたJR四国との決勝戦に社員十数名が応援に駆けつけたことだった。午後5時までの業務を終え、今治市まで車を走らせること約1時間。それも、試合終盤の2〜3イニングを見届けるためだった。「わざわざ来てくださり、ありがたかったですね。職場が非常に若返り、明るくなっていることも事実です」。今後は5月10、11日に予定されているJABA子規記念杯大会を経て、6月20日からは都市対抗野球大会四国1次予選が開幕する。合言葉は「上島町から全国へ」。社会人野球界全体から見ても斬新な挑戦が、いよいよ始まる。