「私は君を救わないといけない」――闘志消えぬカルデナスを止めたレフェリーの“名判断” 井上尚弥の恐ろしさを示す「64」
2025年5月6日(火)5時30分 ココカラネクスト

カルデナスを冷静に止め、試合を捌き切ったテイラー氏。(C)Getty Images
現地時間5月4日、米ラスベガスのT-モバイルアリーナで行われた世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ12回戦で統一王者の井上尚弥(大橋)は、WBA同級1位のラモン・カルデナス(米国)に8回で完勝。2回にダウンを喫して先手を取られるも、冷静に試合を推し進めて7回と8回にそれぞれダウンを奪ってTKO勝ちを収めた。
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ドラマチックな展開が大きな反響を生んだラスベガス決戦。その中にあって、賛否両論を呼ぶ判断もあった。それは、まさに雌雄を決する場面で下されたジャッジだった。
4回以降、手数を増やして完全に主導権を握った井上は、7回に鋭い右のショートでダウンを奪うと、一気呵成に攻めた8回には猛ラッシュを展開。コーナーサイドに押し込められたカルデナスが防戦一方となったため、レフェリーを務めたトーマス・テイラー氏は両雄の間に入って試合を止めた。
この紙一重は判断に異論が飛んだ。その声の大半は、戦闘意志を見せていたカルデナスが「まだ戦えたのではないか」というものだった。元世界スーパーバンタム級2団体統一王者のスティーブン・フルトン(米国)も自身のXでテイラー氏に対して「批判する人がいるかもしれないけど、あの試合終了は少し早すぎたと思う」と指摘した。
ではなぜ、レフェリーは試合を止めたのか。その舞台裏を米メディア『Boxing News』のインタビューに応じたカルデナスが明かしている。
「あの時、俺は『大丈夫、大丈夫だから』と言ったけど、レフェリーは『いや、ダメだ。私は君を救わないといけない。今、止めれば、君の将来も大丈夫だから』と言ったんだ。レフェリーの判断を議論するつもりはない」
実際、カルデナスは相当なダメージを井上によって負わされていた。ボクシングの専門サイト『CompuBox』が集計したデータによれば、挑戦者が主導権を失った6、7、8回で受けたパワーパンチは実に64発。とりわけ6回は52発中33発も被弾するなど深刻な状態にあったことは想像に難くない。
データを加味すれば、咄嗟に「君を救わないといけない」とカルデナスを止めたテイラー氏は、井上が猛攻を仕掛ける中で冷静に試合状況を見極めていたと言える。
一部で疑問が投げかけられた判断は、試合を公平に捌くこと、そして選手のキャリアを守ることを見事に遂行した名ジャッジだった。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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