球速が“平均以下”なのになぜ打たれない? 歴史的な快投を続ける今永昇太の直球がMLBの強打者たちに通じる理由
2024年5月20日(月)12時0分 ココカラネクスト

カブスを牽引する存在となっている今永。(C)Getty Images
今永昇太(カブス)は、「世界最高峰」と言われる舞台で異彩を放ち続けている。
現地時間5月18日の登板でもスコアボードに「0」を刻んだ。本拠地でのパイレーツ戦に登板した今永は、7回(88球)を投げ、被安打4、無失点、7奪三振と好投。防御率をリーグトップの0.84にまで向上させ、1投球回あたり何人の走者を出したかを表す指標のWHIPも0.91とした。
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敵将のデレク・シェルトン監督が「彼は打撃コーチに悪夢を与える」と思わず脱帽してしまう圧巻の投球内容だった。本人は「防御率は本当に気にしていない」と周囲の反響を意に介していないが、それでもメジャー9登板での防御率0.84は、公式記録になった1913年以降、メジャーデビューからの9試合を投げた先発投手(開幕投手を除く)で歴代1位。文字通り歴史的な快投を続けている。対峙するチームからすれば、「手も足も出ない投手」と言えるのかもしれない。
もっとも、速球の向上化が顕著な近年の野球界の投手事情を鑑みると、30歳の左腕から放たれているボールは「図抜けたもの」ではない。MLBの公式データサイト『Baseball Savant』によれば、今永の投げる、「直球」とされるボールの平均球速は92.1マイル(約148.2キロ)。これはメジャー平均(94マイル=約151.2キロ)を下回っており、全体で下から21%に位置している。
それでも今永の直球は“打たれない”。4シームの被打率はわずかに.184。これは今季に100球以上を投じた投手ではメジャー全体3位の好結果で、ナショナル・リーグではトップの値だ。
ずば抜けた速さを有しているわけではない。それでも打たれない理由は何か。ひとつは、独自の配球が活きていると言える。
今季ここまでの今永は直球を高めに投じている傾向が強い。これによって長打になりやすいとされる“バレルゾーン”でのアジャストに重きを置く打者たちの逆を突いているのだ。アッパー気味のスイングをする打者は、今永の切れ味のある真っすぐに打ちにいくことで、必然的にフライを打たされてしまうのである。
レベルスイングを心掛ける打者の多い日本では「高めは危険」。だが、メジャーでは概念が逆。低めこそ被弾するリスクがある傾向が強い。今永はこの傾向の違いに瞬時に対応したと言えよう。
また、他の投手たちとは一線を画すスリークォーター気味のリリースポイントも好結果をもたらしているようだ。18日の試合で今永と対峙したパイレーツのジョーイ・バートは「彼は背が低いからか、リリースの位置が異常なんだ。イマナガは投手が持っているべきファンキーな要素を持っている」と分析した。
無論、ここから相手チームや打者たちによるデータ研究が進めば、攻略される試合も増えてくるだろう。そのなかで今永がいかに最適解を見出していくのか。その時こそ日本時代から「投げる哲学者」と評される男の真価が問われそうだ。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]