グローバルMX-5カップ レーサー鹿島レポート

2018年5月29日(火)7時0分 AUTOSPORT web

GLOBAL MX-5 CUPで、“夢”をつかむ。


5ワイドも当たり前の「GLOBAL MX-5 CUP」米国シリーズのスタートシーン

 5月27日に決勝が行われた世界最高峰のモータースポーツのひとつ「INDY500」に出場したドライバーの7割以上が、マツダがアメリカで展開しているドライバー育成プログラム「MAZDA ROAD TO INDY」の出身者であることは、日本では意外と知られていない。「デイトナ24時間」を頂点とするスポーツカー耐久シリーズ「IMSA」へのステップアップを支援する「MAZDA ROAD TO 24」もしかりである。


 昨年、「インディ・ライツ」で年間タイトルを勝ち取ったカイル・カイザーは、マツダのスカラーシップ(奨学金)100万ドルを獲得し、今季、「INDYカーシリーズ」に4レース出場、初の「INDY500」の予選で昨年王者の佐藤琢磨の横にマシンを並べた。その予選後、カイザーは「5年間に渡ってマツダに支えられ、ついに最高峰の500のグリッドにつくことができた。夢を叶えたいなら、MAZDA ROAD TO INDYに挑戦すべき」と興奮気味に語った。


 昨年は同様のスカラーシップで初出場したエド・ジョーンズがトップ争いに加わる好走で3位に入り、奨学金による参戦は終了したものの、ルーキーらしからぬ走りが評価され、トップチームのシートを得て参戦が続いている。支援の期間中に結果を出し、レーシングドライバーとしての未来を自らの力で切り開いたのである。
 一方、「MAZDA ROAD TO 24」では、昨季の「GLOBAL MX-5 CUP」米国シリーズで年間チャンピオンに輝いたパトリック・ギャラガーが、20万ドルのスカラーシップを獲得しスポーツカーで「デイトナ24時間」に初参戦、5月には、ミッドオハイオで初の表彰台へ上った。


「MAZDA ROAD TO 24」の重要な登竜門として、一昨年、米国でスタートした「GLOBAL MX-5 CUP」は、長年のマツダのドライバー育成プログラムの実績が広く知れ渡っていることから、初年度の開幕戦から40台を超えるエントリーを集め、今季もハイレベルな戦いが繰り広げられている。


「GLOBAL MX-5 CUP」米国シリーズで年間チャンピオンになると、ステップアップの支援金として20万ドルのスカラーシップが得られる。日本円にして約2,200万円という金額は、プロのレーシングドライバーを目指す若者にとって非常に大きなものであることは言うまでもない。しかも、自らのテクニックとモチベーション、鍛錬により獲得することができる“可能性が”ある。


「GLOBAL MX-5 CUP」には、スカラーシップ以外にもドライバーにとって大きなメリットがある。ひとつは、全員がまったく同じ仕様、コンディションのレースカーで戦うことから、タイムや結果がそのままドライバーの評価に直結すること。もうひとつは、チームやドライバーと主催者であるマツダ関係者との関係が密接で、まるでファミリーのような信頼関係が構築されている点である。


 筆者は、北米マツダのモータースポーツ責任者であるジョン・ドゥーナン氏が、ドライバーの活躍や将来をまるで兄や父親のような表情で語るシーンに何度も遭遇している。マツダの「IMSA」挑戦をディレクションするキーパーソンの目に自らの走りを焼き付けることはもちろん、早期に信頼関係を築き、レースに対する考え方やモチベーションを学ぶこともドライバーの未来につながる大きな糧になるはず。


 スポーツの道具としては非常に高額でチームやスポンサーの想いすべてが込められたレーシングカーを、このドライバーになら託したいと思われるかどうか、この人のためになら命がけで走りたいと思えるかどうか、シリーズ参戦を通じてアスリートとして必要なメンタリティも学ぶことができる。


 ところで、11月には12時間レースで有名なフロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイで、米国シリーズの上位ランカー、日本シリーズの上位2名のほか、ヨーロッパからの挑戦者も交えての「世界一決定戦」が今年も開催される。優勝者には7万5000ドルの賞金と、「世界一」の称号が与えられる。


 この「世界一決定戦」出場を目論むドライバーがしのぎを削る「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」を含めたプロジェクトの全体像に迫る。


“GLOBAL MX-5 CUPで、“世界”とつながる。


“世界につながる”「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」は2年目のシーズンへ

 前回は、マツダがアメリカで展開しているドライバー育成プログラム、アメリカ最高峰の「INDY500」を頂点とする「MAZDA ROAD TO INDY」、「デイトナ24時間」をはじめとするスポーツカー耐久シリーズ「IMSA」を目指す「MAZDA ROAD TO 24」と「GLOBAL MX-5 CUP」北米シリーズの関係を中心にお届けしたが、今回は日本で開催されている「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」も含み、シリーズの意義と全体像を紹介する。


「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」は、“世界とつながる”レースである。国内5カ所の国際サーキット(スポーツランドSUGO、ツインリンクもてぎ、鈴鹿サーキット、岡山国際サーキット、富士スピードウェイ)で年間5戦が行われ、シリーズチャンピオンとランキング2位のドライバーには、11月にフロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイで開催される「世界一決定戦」への出場資格が与えられる。


 米国シリーズの上位ランカーのほか、ヨーロッパからも猛者が集まる「世界一決定戦」を制したドライバーには、7万5000ドルの賞金と栄誉が与えられる。賞金もさることながら、全員が同じ仕様、イコールコンディションのレースカーで戦ったリザルトは、そのままテクニックと勝負強さの証明書となる。


 2000ccのスカイアクティブ・エンジンを搭載した北米仕様のMX-5(日本名:ロードスター)をベースに、サスペンション、ブレーキなどをレース用にアップグレード、ロールケージや6点式シートベルトをはじめとする安全装備を持つCUPカーは、指定タイヤのBFグッドリッチ製レーシングスリックと、任意でチョイスができるバケットシートを装着すれば、すぐに予選に出走できる状態で販売されている。なお、エンジン、サスペンションは封印が施され公平性が保たれている。

見るからに堅牢な専用ロールケージ


サスペンションにも封印がなされ改造は不可

 マツダのファクトリードライバーとして、スポーツカー耐久レースの最高峰「IMSA」などで活躍した経験を持つトム・ロングが開発ドライバーを務め、「NASCAR」の聖地であるノースカロライナ州のロングロードレーシングで製作されるCUPカーは、MX-5とレースを知り尽くした者たちによる傑作と評され、自由自在でシャープなハンドリング特性、バトルを面白くするスリップストリームの効きやすさ、レーシーなエキゾーストノートなど魅力が満載されている。


 また、一般的にワンメイクレースなどでは雨天時にグリップ力が弱いタイヤが使用されラップタイムが大幅に落ちるケースもあるが、CUPカーのレインタイヤは本格的なレース用同様に1周目から強力なグリップを発揮するコンパウンドがセットされており、上位カテゴリーにステップアップした際に役に立つ感覚を磨くことができる。もちろん、ソフトゆえに、雨が止み路面が乾くにつれて急激にグリップが変化する難しさも学ぶことができる。

「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」、トップ争いはミリ単位の超接近戦


 さらに、レースシーンで定評のあるAIM製のデータロガーと車載カメラも搭載、走行セッション毎に自らの走行を解析できることはもちろん、「INDY500」や「デイトナ24時間」などのトップレースと同様、例えばチームメイトとの比較によりセットアップやドライビングの改善を迅速に行うことができる。こういった点からも「GLOBAL MX-5 CUP」が、本気でドライバー育成を主眼としたシリーズであることが伺える。


 ここまでハイレベルに“お膳立て”が整ったワンメイクシリーズも珍しいと言えるが、それだけにドライバーのテクニックと臨機応変な対応、わずかに許されたセットアップ幅であるアライメント、サスペンション、空気圧の調整がシビアになる。


 レースは日本シリーズが45分間、米国シリーズが45分間×2レース。スプリントレースのようなハイペースでポジション争いを展開しながらも、タイヤマネージメントをしっかりと行って、ラストスパートの熾烈なバトルを制する余力を残す計算、駆け引きも必要になる。レースディスタンスの設定にも、やはりドライバー育成への配慮が感じられる。


 今季、マツダは「ル・マン24時間」で数々の伝説を持つドイツの名門、ヨースト・レーシングとジョイントして米国スポーツカー耐久レースの頂点「IMSA」を戦っている。

北米マツダ・毛籠勝弘社長兼CEOの想いは熱い(昨年の世界一決定戦にて)


 昨年、カリフォルニア州のラグナ・セカで開催された「世界一決定戦」を取材した際、北米マツダの毛籠勝弘社長兼CEOが語った言葉が印象に残っている。「マツダは、例えばINDYのエンジンを作っている訳ではありませんが、そこを目指すドライバーの支援や育成は積極的に行ってきました。日本からも我々の育成プログラムに挑戦し、トップを目指すドライバーが出てきてほしいと願っています!」


 すべてのドライバーに平等に可能性がある。「GLOBAL MX-5 CUP」というチャンスをきっかけに、“世界とつながり”、“世界をつかむ”ドライバーが現れる日が待ち遠しい。


●「GLOBAL MX-5 CUP JAPAN」公式サイト:https://mx-5cup.jp/
●「GLOBAL MX-5 CUP」米国シリーズ公式サイト:https://mx-5cup.com/


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レポート:レーサー鹿島



2000年代には「インディライツ」に参戦、今季は「GLOBAL MX-5 CUP」米国シリーズに参戦中。“世界”への挑戦経験を活かし、独自の視点でマツダのドライバー育成システムを取材している。


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