【いざ、ラリージャパン2022】注目の参戦マシン紹介/Vol.2『ヒョンデi20 Nラリー1』

2022年11月10日(木)16時50分 AUTOSPORT web

 いよいよ日本に帰ってくる、ラリージャパン。WRC世界ラリー選手権『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が、11月10〜13日にシーズン最終戦として愛知県と岐阜県を舞台に開催される。北海道での開催以来、実に12年ぶりのカムバックとなる日本での世界選手権を楽しみ尽くすべく、ここではエントリーリストに名を連ねる有力参戦ドライバーや、今季より導入の最高峰“Rally1(ラリー1)”クラスの最新ハイブリッド車両の成り立ちや個性を紹介する。その新規定車両解説第2回は、開幕直前までチームの内情が大幅に揺れた影響も受けつつ、クリスチャン・ロリオーの手腕で中盤戦の盛り返しを見せる【ヒョンデi20 Nラリー1】にスポットを当てる。


 2000年代初頭にWRカー規定の『アクセントWRC』でワークス参戦を開始したヒョンデ(当時はヒュンダイ表記)は、外部委託先とのトラブルもありわずか3年ほどの活動期間で一旦は表舞台から姿を消したものの、2014年からの再挑戦を決め『ヒョンデi20 WRC』を提げ、世界選手権に返り咲いた。


 大幅な規定変更が実施された2017年には、3ドアベースの『ヒョンデi20クーペWRC』を投入。2020年には前年度チャンピオンのオット・タナクが加入し、現在に繋がるドライバーラインアップでタイトル戦線に挑んできた。


 復帰当初はかつてプジョーやスズキで開発プロジェクトを率いたミシェル・ナンダンが技術面も含めチームを統括したが、2019年にはアンドレア・アダモが新たなチーム代表に就任。イタリアJASモータースポーツでは『ホンダ・シビックWTCC』の設計者として仕事をし、ヒョンデ・モータースポーツ加入後はTCR規程ツーリングカーの『i30 N TCR』や『エラントラN TCR』を手掛けた男が辣腕を振るい、セバスチャン・ローブの招聘などもあって韓国勢初のマニュファクチャラーズタイトル連覇も成し遂げた。


 そのアダモが2022年開幕を前に事実上更迭され、新規定“ラリー1”は本社の予算承認も遅れた結果、ライバルより半年以上も遅い2020年後半になってようやく本格的な設計に着手。しかし当時の体制では満足いく初期性能に到達しないと判断したアダモは、2021年初頭にもMスポーツの“鬼才”ロリオーを引き抜くことに成功。フォードの『フォーカス』や『フィエスタ』でWRCのトレンドセッターとなり、時代を築いた技術者の頭脳により『ヒョンデi20 Nラリー1』は根本から設計が見直された。

初期のテストから、2022年開幕までに大幅な設計変更を経た『ヒョンデi20 Nラリー1』。初期テストモデル(上段)と終盤(下段)でも外観デザインに違いが見受けられる
2021年の開幕後にチームへ合流した“鬼才”クリスチャン・ロリオー。準備期間が短かかったものの、彼のアイデアと知見がラリー1車両に盛り込まれる

フォードやトヨタの車両は、外観から共通ハイブリッド機構冷却用の電動ファンが視認できるが、ヒョンデはその開口部も最小限だ


■ボディワークやサスペンション周りには独自の“ロリオー・イズム”を反映


 マニュファクチャラーとしてWRCでの将来設計が描けず、一時は参戦継続自体が危ぶまれたチーム内情を反映し、ライバルより開発進行が大幅に遅れた新規定マシンだが、これまで蓄積されてきたWRカーの系譜を断ち切り、ある意味で“アダモの置き土産”と言えるロリオーの設計思想を色濃く反映した車両に生まれ変わった。


 ベース車も従来のクーペではなく第3世代となる『ヒョンデi20 N』とした上で、前回のフォード・プーマ・ラリー1同様に車体には鋼管パイプフレームを選択。共通ハイブリッドの搭載やシーケンシャルシフト化、センターデフの廃止など新規定への対応を施しつつ、1.6リッター直列4気筒直噴ターボの“GRE”もキャリーオーバーされ、従来より出力面では定評のあったエンジン単体で公称380PS/450Nmを発生。システム総合で500PS以上/630Nm以上を絞り出す。


 そのボディワーク上の特徴となるのがリヤに搭載された共通ハイブリッド機構の冷却面の設計で、ドアからフェンダー部に掛けて開口部を設けるライバル勢とは異なり、冷却ダクトをサイドウインドウからCピラーにかけての相対的に高い位置に設けている。と同時に、こちらも競合車両ではリヤバンパー部にある電動ファンを外部からは視認できないレイアウトとし、その排出口も最小化した。


 内部の流路には熱交換器とファンが仕込まれているはずだが、こうした冷却系の重量物をオーバーハングとなるバンパー部へ搭載せず、なるべく車両中央部に寄せて運動性能への影響を最小限に留めようとする意図も感じられる。


 またサスペンション構成も“ロリオー・イズム”が反映され、従来のWRカーではトップマウントからアップライト接続側まで直立配置だったダンパー・レイアウトは、フロント側で後傾、リヤ側で前傾させたうえで、車軸センターから前後オフセット位置に接続するなど大きなキャスター角を持たせる構成とした。


 このラリー1規程では最大ストローク量が270mmに規制(従来より短縮)されるうえ、ダンパーの摺動抵抗の面でもデメリットがある方式だが、それよりもフォード時代からノウハウを蓄積してきたロリオー自身のジオメトリー哲学を優先するデザインとなっている。


 こうした突貫工事と哲学変更の影響もあってか、開幕当初から主に信頼性の面でビハインドを抱えたスタートとなり、序盤戦はトラブルやハイブリッド関連の問題も頻発。しかし中盤以降は持ち直し、第5戦イタリア・サルディニアで初勝利を挙げると、ライバルの脱落にも助けられフィンランド、ベルギー、そしてアクロポリス(史上初のポディウム独占)と3連勝を飾ることに。


 とくに後半ターマック戦のベルギー・イープルではタナクが勝利し、スペイン・カタルーニャでもティエリー・ヌービルが2位に入っているだけに、舗装路のラリージャパンでは来季に繋がる速さが見せられるだろうか。

従来より出力面では定評のあったエンジン単体で公称380PS/450Nmを発生。システム総合で500PS以上/630Nm以上を絞り出す
サスペンション構成も“ロリオー・イズム”が反映され、従来のWRカー時代とは異なり前後ダンパーを傾斜配置としている
ツイスティな舗装路ステージが続くラリージャパンでは、来季に繋がる速さが見せられるだろうか

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