なぜモドリッチは謎な選手になってしまったのか?「奇跡」をたどる

2024年12月1日(日)18時0分 FOOTBALL TRIBE

ルカ・モドリッチ 写真:Getty Images

アドリア海を臨む風光明媚なクロアチアに生を享けたMFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)が、世界の名選手であるという評価は揺るぎない。しかし「どのようなプレーヤーか」という質問を投げかけられると、難解で一言で答えるのが難しく、しどろもどろしてしまう。


では、どうしてモドリッチは、まるでウナギのようにとらえどころがない選手になってしまったのだろうか。その謎を一緒に探ってみよう。


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ヨハン・クライフ氏 写真:Getty Images

「バルカンのクライフ」


モドリッチをあえて一言で表現するなら、ボックストゥボックス・ミッドフィールダー(攻守に幅広く動く運動量豊富なMF)といったところだ。しかし、それだけでは語り尽くせない味わいが醸し出されている。


パスを出すプレーメイクの能力に長けているモドリッチは、ユース時代を主にトップ下で過ごした。1960-80年代のスーパースター、ヨハン・クライフ氏(2016年没)に準えて「バルカンのクライフ」と形容されるように、華麗に攻撃を組み立てる。


確かに「空飛ぶオランダ人」と形容されたクライフ氏に瓜二つの時がある。クライフターンが得意で相手のタックルを飛び越えながらドリブルで推進していく仕草などだ。違いは、クライフ氏はMFだけではなくFWとしてもプレーしたが、モドリッチは主にMFということだ。


モドリッチは、セカンドストライカーとしてもプレーできる資質があるだろうが、運動量が豊富で守備力もあるため攻撃にだけ使うのは逆にもったいないので、中盤に落ち着いているのだろう。172cm・66kgと小柄なため身のこなしは軽やかだが爆発的なパワーが特段あるわけではない。無尽蔵のスタミナとプレーの嗅覚で重要な局面に必ずといっていいほど顔を出す。セカンドストライカーのようなプレーをしていたかと思えば、次の瞬間にはスイーパーのようにディフェンスラインの綻びを繕う。




ルカ・モドリッチ 写真:Getty Images

路上で覚えた足技


モドリッチが子供の頃にサッカーを覚えた場所は、クロアチアが紛争中に身を寄せていた避難先にあった駐車場だという。つまりストリートサッカーだ。


モドリッチは右足アウトサイドを巧みに使う。アウトサイドを多用するプレーは、バルカン半島や南米のようなアウトローで技術力が高い国の出身選手に多い傾向がある。モドリッチが生まれた旧ユーゴスラビアは「(東)ヨーロッパのブラジル」と形容され、よく比較される。


小さな頃から手取り足取り正しい基礎技術を教わっていると、このような選手は出てこない。ノーモーションでデタラメな方向にキックすると精度が落ちる傾向があり、育成段階でキックのフォームを矯正される。しかし、モドリッチは奇跡的にピタリと狙ったところに届く。型を崩したキックながら、摩訶不思議なことに精度がピカイチなのである。


無論、小さな頃から正しい基礎技術を教わっている日本人に、このパスを使いこなす選手は少ない。


イビチャ・オシム氏 写真:Getty Images

プレーを変えた武者修行時代


力技で相手を封殺する訳ではないが、タフでボールへの執着心が尋常ではなく、気がつくともうボールを奪っている。この泥臭い特徴は、若い頃のモドリッチにはまだなかった。


きっかけとなったのは、ディナモ・ザグレブのユースからトップチームに昇格して間もない2003/04シーズンのズリニスキ・モスタル(ボスニア・ヘルツェゴビナ)への期限付き移籍だ。


あまり馴染みがない欧州の片隅の国と思うかもしれないが、実は日本の身近なところにある。同国出身者イビチャ・オシム監督(2006-2007)とヴァイッド・ハリルホジッチ監督(2015-2018)という2人が歴代の日本代表監督に名を連ねている。


オシム監督は「走るサッカー」が特徴。そしてハリルホジッチ監督の代名詞といえば「デュエル(1対1の決闘)」だ。彼らは、しっかりと故郷の系譜を継いでいる。


バルカン半島の辺境の地で国際的に無名な選手たちが、檜舞台にどうにか這い上がろうと四苦八苦しながら激しい戦いを繰り広げる。こんなアンダーグラウンドな世界に突然、放り込まれた華奢な10代の少年モドリッチは、生き残るために無我夢中でプレーする中で、この泥臭さを会得した。


まるで、キレイに生クリームといちごをトッピングしたショートケーキの上に、バニラパウダーではなく間違えて激辛のカレー粉をまぶしてしまったかのようなものだ。「甘いのも辛いのもいける」なんともいえないモドリッチの難解な味わいは、このようにして生まれた。




アンドレス・イニエスタ 写真:Getty Images

バルカン半島という「るつぼ」が生んだ


もしモドリッチがスペインに生まれていれば、かつてバルセロナやヴィッセル神戸でプレーした元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(2024年引退)のようなファンタジスタになっていたかもしれない。


攻撃時はあんなに華麗なのに、守備になると急転し腹を空かせた野良犬のようにボールに食らいついていく。センスがあり技術力が高く、強く駆け引きに秀でており泥臭い。モドリッチの特徴を並べると一見、矛盾するような表現になる。


旧ユーゴスラビア系には、テクニックがあり優雅でなおかつ激しく気持ちが強い選手が多い。モドリッチも、その1人だ。つまり、カオスとエレガンスが入り乱れたバルカン半島という環境が生んだプレーヤーなのである。

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