モドリッチの人間的な魅力はどのように育まれたのか?乗り越えた4つの試練
2024年12月4日(水)18時0分 FOOTBALL TRIBE

クロアチア代表MFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)は、ピッチ上のプレーもさることながら、人としての魅力がある。この人間力がモドリッチ自身のプレーの源泉になっているのはもちろん、ピッチの内外で遺憾なく発揮されチーム全体を支えていると言える。
モドリッチの人間力は、どのようにして生まれたのだろうか。その深すぎる生い立ちを辿ってみよう。
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紛争というどん底から始まった人生
ピッチ上では熱くエネルギッシュなプレーを魅せるモドリッチだが、オフ・ザ・ピッチではとても静かな性格で、まるで二重人格かと思うほどだ。重い過去を背負っているせいか、普段は寡黙だ。そして、深々と周囲を見つめている。そんな無口なモドリッチにとって、サッカーは自己表現する言語そのものだ。
生まれ育ったクロアチアは、欧州の火薬庫と形容されるバルカン半島に位置する。地理的に欧州とアジアの狭間にあり、様々な民族が混ざり合って暮らしており歴史的に紛争も頻発してきた。
そして不運にもモドリッチが幼少期にクロアチア紛争(1991-1995)とボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992–1995)に巻き込まれ、祖父が落命の憂き目に。ルカの名は祖父にちなんだものだった。故郷の町を追われて18歳の頃にプロ契約するまで、長らく戦争難民として生きてきた。
物心ついた頃には家族が紛争の渦中にあり、どん底の状況からモドリッチの人生は始まったのだ。
熱く激しいプレーを魅せる一方で、試合中に一喜一憂せず、精神的に非常に安定している。それも、モドリッチの生い立ちを知れば合点がいく。モドリッチは少年時代に空襲警報が鳴るなかで、仲間たちとストリートサッカーに没頭していた。銃弾が飛び交い爆弾が落ちてくる本当の戦争の苦悩に比べたら、サッカーの試合の危機的状況なんて、へっちゃらだ。

プロクラブの入団テストに不合格
モドリッチは10歳で、クロアチア1部のビッグクラブであるハイドゥク・スプリトの入団テストを受けたが、フィジカルが弱いことを理由に落ちてしまい、近隣の弱小ザダルでプレーした。
しかし発育が遅かったことは、むしろモドリッチの成長を促した。身体の成長が早い選手が体格や力任せにプレーできるのに対して、小柄でひ弱なモドリッチは技術や判断力などプレーの仕方を工夫する必要があった。
そして16歳の時に晴れて実力が認められて、もう1つのビッグクラブであるディナモ・ザグレブのユースの門をくぐったのである。
少年時代から数々の挫折を乗り越えてきた。この経験はモドリッチを人間として大きくした。そしてモドリッチの不屈の精神は、38歳289日でUEFA欧州選手権(ユーロ2024)の史上最年長得点を決める原動力にもなった。

プロ契約後も続く移籍という挑戦
ディナモ・ザグレブで頭角を現したモドリッチは、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーの目に留まった。そして2008年、22歳の時にクラブ史上最高額の移籍金で加入するも、周囲の期待の割に活躍できず、1年目は非常に苦労しリーグ8位で無冠に終わっている。
次第にパフォーマンスを発揮するようになり、2009/10シーズンにリーグ4位となり、2010/11シーズンにスパーズ(トッテナムの愛称)を約半世紀ぶりとなるUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)に導く。
そして欧州CLで敗れた相手であるレアル・マドリードに2012年に加入することになるのだが、そこでも1年目はシーズン序盤のプレー時間が安定せずに、主要タイトルも逸して「期待外れだ」と周囲を失望させた。
しかし尻上がりに調子を上げ、翌2013/14シーズンに欧州CLとコパ・デ・レイ(スペイン国王杯)の二冠を達成。チームになくてはならない選手になった。次々と現れるつわものの新加入選手とのポジション争いに敗れたかと思いきや不死鳥のごとく蘇り、クラブ史上最年長の選手にまでなった。

ジダン監督に懇願されてキャプテンに
モドリッチは出しゃばるタイプではなく、むしろ控えめな性格だ。しかし人一倍気持ちが強く負けず嫌いだ。その類まれな人間力にカリスマが宿り、チームをまとめあげる。
モドリッチが表立ってキャプテンシーを発揮するようになったのは、レアル・マドリードで黄金時代を築いたジネディーヌ・ジダン監督(2016-2021)に懇願されてからのことだ。2019年に初めてマドリードのアームバンドを巻くことになった。
チームを率いるというよりは、包み込むといったほうが正しいかもしれない。その人格がプレーメイクの能力とあいまり、チームになくてはならない貴重な存在になっている。
トッテナムから加入したウェールズ代表FWガレス・ベイル(2023年引退)が長きに渡りマドリード(2013-2022)で活躍できたのも、ピッチ内外でのモドリッチのお膳立てによるところが大きい。
とりわけマドリードのような世界中からスーパースターをかき集めたようなチームでは、一つ間違えば個性がぶつかり合い空中分解しかねない。しかし、モドリッチという偉大な人間を前にしたら、どんなビッグプレーヤーも初心にかえるのである。
モドリッチにとって言葉は、さして重要ではない。自らの背中と風格でチームを導くのだ。心に深い闇をかかえるモドリッチは、白く美しい光を放つロス・ガラクティコス(銀河系軍団、レアル・マドリードの愛称)をつなぎとめるだけの計り知れない引力を生み出している。
モドリッチのプレーは、生き様やそこから醸し出される人間力がにじみ出ている。選手の人となりや内面を感じ取れると、同じサッカーの試合でも、また違った風に見えてくることだろう。