小林可夢偉が授けた“1杯のビール”。SF初テストで好走の元チームメイト「誰だってハッピーになる必要がある」

2023年12月11日(月)17時17分 AUTOSPORT web

 12月6〜8日に行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同/ルーキーテスト。最終日は決勝出走が4戦未満の“ルーキー”のみが参加を許され、12名が鈴鹿サーキットを走行した。この日が初めての走行機会となるドライバーも多くいるなか、安定したスピードを見せ、最終セッションではトップタイムを奪ったのが、VANTELIN TEAM TOM’Sから参加したベン・バーニコートだった。


 セッション終了直後にピットを覗くと、エンジニアとのミーティングの後、自らの名前が最上段に記されたタイミングモニターを嬉しそうに撮影するバーニコートの姿があった。


 1996年生まれ、イギリス出身のバーニコートは2016年にヨーロッパF3へと参戦。同時にGTレースでも活動を開始し、2022年からはIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のGTDプロクラスでバッサー・サリバンのレクサスRC F GT3をドライブしている。


 2年目となる2023年には、ジャック・ホークスワースとともにタイトルを獲得。同時にヨーロピアン・ル・マン・シリーズの一部イベントにはAFコルセからLMP2プロ/アマクラスに参戦し、プロトタイプカーでも経験を積んでいる。


 さらにバーニコートは11月、WEC世界耐久選手権のルーキーテストに参加。ホークスワースとともに、トヨタGR010ハイブリッドをドライブする機会が与えられていた。


 2022年からトヨタ=レクサスファミリーの一員であるバーニコートのスーパーフォーミュラテスト起用は、2023年のIMSAタイトルを獲得していることなどを考えても不思議ではない。


 バーニコートはさらに、WECチーム代表兼ドライバーを務める小林可夢偉ともつながりがある。2022年7月、ホークスワースの怪我により可夢偉がIMSAのモスポート戦に代役出場したが、このときチームメイトとなったのがバーニコートだった。


 そんな過去を考えると、今回のSFテスト起用にも一役買っているのでは……と思い2日目の昼に可夢偉に聞くと「いや、全然知らなかったです。僕も国内では“ドライバー”なので、逆に隠されてましたね」と語る。


「でもベンって、(ジョージ・)ラッセルとかと近い世代なんですよね? だから(スーパーフォーミュラに)乗っても全然おかしくないんじゃないかと。今回はまだ会ってないです。写真で見て『あ、いるんだ』と」

鈴鹿でのスーパーフォーミュラルーキーテストで、トヨタの加地雅哉氏と話すベン・バーニコート(VANTELIN TEAM TOM’S)


 そして可夢偉は昨年のモスポート戦について、バーニコートとのエピソードを教えてくれた。


 このとき、走行初日のプラクティスでバーニコートがクラッシュ。可夢偉にしてみれば、未知のサーキットと初めてのクルマにも関わらず、レギュラードライバーのクラッシュにより走行時間が削られるという痺れる状況となってしまったのだが、そこは百戦錬磨のベテラン。かける言葉が違う。


「彼、すごい落ち込んでいたんです。真面目に『どうしよう……』って。だから『落ち込んでるときは、ビールを飲んで早く寝ろ』って言いました。そしたら、本当に飲んでましたね」と可夢偉。


「ビール1杯では酔っ払わないですから。それで気持ち良くなって、リラックスして、次の日に備えろ、って意味なんです。そしたら、次のレースからもそうしているみたいで、たまに(ビールの)写真送ってくるんですよ(笑)。『まだやってるか?』って、聞いておいてください」

2022年IMSA第8戦に急遽代役出場、レクサスRC GT3をドライブした小林可夢偉


■TGRとのつながりは「ますます強まっている」


 というわけで、この話をテスト3日目の走行を終えたバーニコートに向けてみると、セッショントップタイムで浮かんでいた笑顔が、さらに緩んだ。


「可夢偉と一緒にレースをすることができたのは、素晴らしい体験だった。あのときはジャックの怪我があってチームがすごく悲しい状況だったけど、そこで可夢偉がものすごくいい仕事をしてくれたんだ」とバーニコート。


「彼はそれまでRC F GT3をドライブしたことがなかったのに、最初からとても速かった。でも僕がクラッシュしてしまったことで、難しいレースウイークにしてしまったね。しかも可夢偉はトヨタファミリーの中でも重要な立場にいる人物だというのに、その目の前でクラッシュしてしまったのは少々バツが悪かった」

2022年のIMSAモスポート戦に出場した小林可夢偉/ベン・バーニコート組のバッサー・サリバン14号車レクサスRC F GT3


「ちょうどクラッシュする前夜、僕らは一緒にディナーに行ったんだけど、そこでは僕ひとりだけがビールを飲まなかったんだ。そして、次の日にクラッシュ。そこで可夢偉から教えられたんだよ。それ以来、チームのみんながビールを飲むときは、僕も飲むようにしている」


「彼から教わったのは、こういうことだ。ハイレベルなプロフェッショナル・レースの世界では『すべてを完璧にこなす必要がある』と考えてしまいがちだ。だけど、一日の終わりには、誰だってハッピーになる必要がある。ハッピーになるために、1杯のビールを飲めばいい、ってね」


 なお、バーニコートによれば、今回のスーパーフォーミュラのテスト参加は、11月上旬のWECのルーキーテストよりも前に決まっていたとのこと。


「僕はここ2年、アメリカでのレクサス・レーシングのドライバーだし、新しいGT3車両の開発にも関わっていることで、日本のトヨタGAZOO Racingとのつながりはますます強いものになっているんだ。だからテストについても今シーズンのある時点から話し合ってきた。彼らは『スーパーフォーミュラやスーパーGTに興味はあるか』と聞いてきから、『もちろん』と返事をしたんだ」


「そして僕らがIMSAでタイトルを獲った後、彼らは僕をスーパーフォーミュラとWECのテストメンバーに選んでくれたんだ。だからこの1カ月は本当に素晴らしい経験になったよ」


 2024年はIMSAでのタイトル防衛に集中するというバーニコートだが、近い将来にはGTの世界でも、スポーツカーやフォーミュラの世界でも、ステップアップできる環境は整っていると言える。この顔を覚えておいて、損はないだろう。

2023スーパーフォーミュラ合同/ルーキーテスト ベン・バーニコート(VANTELIN TEAM TOM’S)
GTDプロクラスの年間タイトルを獲得したバッサー・サリバン14号車レクサスRC F GT3のジャック・ホークスワース(中)とベン・バーニコート(右)。サードドライバーのカイル・カークウッド(左)。

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