かぜに抗菌薬は効かない! 「薬剤耐性(AMR)」問題、抗菌薬の正しい使い方とは

2025年2月4日(火)10時32分 マイナビニュース


国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターの佐々木秀悟医師が、「かぜ」を切り口に薬剤耐性(AMR)問題について解説している。
○薬剤耐性(AMR)とは
薬が効かない薬剤耐性(AMR)が世界中で大きな問題になっている。抗菌薬(抗生物質)は細菌が原因の病気を治療するために医療現場で広く使用されてきた。一方で、抗菌薬が効きにくかったり、効かなかったりする細菌のことを薬剤耐性菌とよぶ。薬剤耐性菌が広がってしまう大きな原因の1つとして、抗菌薬の不適切な使用(細菌感染症ではないのに抗菌薬を処方/内服したり、医師に指示されたのみ方を守らなかったりすること)が挙げられる。
薬剤耐性菌が原因の感染症を発症してしまうと、抗菌薬による治療が難しくなってしまうため、重症化したり、命にかかわるリスクが高まることがあるという。日本でも、主な2種類の薬剤耐性菌だけで年間8,000人が亡くなっていると試算されており、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことが重要な課題となっている。
○誰でもかかるかぜ
かぜは誰でもかかる感染症だが、実は医学的にはっきりとした定義があるわけではない。多くの人が思い浮かべる「かぜ」に近い病気として感冒がある。感冒は、鼻水や鼻づまり、のどの痛み、せきの症状が同じぐらいの程度で存在する病気。
鼻水、のど、せきの3つの症状があることがかぜなので、せきはたくさん出るけれど鼻水は出ない、のども痛くない、というものはかぜではなく別の病気である場合も。たとえば、鼻水や鼻づまりだけだと「急性鼻副鼻腔炎」という病気の可能性があるという。
かぜをひいても、軽症であれば医療機関を受診しないことも多いため、正確な患者の数はわからない。過去の報告では、普通の生活をしていても成人なら平均で年間2、3回はかぜにかかるとされている。乳幼児は抵抗力が弱いなどの理由で年間5、6回かかるとされ、万人の病気と言える。
ウイルスによる呼吸器感染症の多くは冬になると患者が増える傾向があるが、かぜにも同様の傾向がみられるという。気温が低く乾燥しているとウイルスが感染を広げやすくなることや、人々が屋内で換気が悪い空間にいる時間が増えることなどが、冬に患者が増える理由として考えられている。
○かぜはウイルスが起こす
かぜの原因の多くはウイルスである。現在流行しているインフルエンザやRSウイルス、ヒトメタニューモウイルスもウイルスの一種。ウイルスは細菌とは異なり、自身の力で増殖することができず、人間など他の生物の細胞に入り込み、その機能を利用して増殖することができる。そのため、ウイルスは細菌とは全く異なる性質をもつ病原体であり、細菌感染症に効果のある抗菌薬を使用しても、かぜの治療にはならないとされている。
しかし、佐々木氏によると、かつてはかぜと診断された場合でも、抗菌薬が処方されるケースが多くあったという。最近では抗菌薬に関する教育・啓発の効果もあり、「かぜ治療に抗菌薬」というケースは減少傾向にあるが、一般の人を対象とした調査によると「抗菌薬はかぜに効く」と誤解している人が39%、「わからない」と回答した人を合わせると74%が正しい知識をもっていないことがわかった。
ちなみに、日本で抗菌薬をもらうためには医師の処方せんが必要となる。そのため、薬局で市販されている一般用医薬品(OTC)のかぜ薬は抗菌薬ではなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤、抗ヒスタミンのような鼻水を抑える薬など、かぜの症状を緩和する目的のものがほとんどだという。
○かぜの治療は休むこと
医師が患者をかぜと診断したときは、のどが痛い人には鎮痛剤、せきがひどい人にはせき止めといった具合に、「症状を緩和する薬」が処方される。しかし、薬によって症状を緩和し、体を楽にすることはできるが、かぜが早く治るわけではない。症状が持続する期間には個人差があるものの、軽快するまで1、2週間ぐらいかかると言われており、その間「しっかり休んで自身の免疫で治るのを待つ」ことがかぜの治療だと佐々木氏は言う。
○かぜをきっかけとしてAMRを防ぐ
これまで、かぜに対する抗菌薬の処方は頻繁に行われてきた。かぜの原因の多くはウイルスであると認識していたとしても、「もしかしたら細菌が原因かもしれない」「重症化を防げるかもしれない」「念のため」といった理由で、抗菌薬が処方されることも。以前は薬剤耐性菌の問題が十分に認識されていなかったことも一因だと考えられる。
しかし、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づく教育・啓発が進められたことで、最近ではかぜに抗菌薬が処方される機会は減ってきたという。一方で、患者の中にはかぜに対して抗菌薬の処方を希望する人もおり、そのような場合、不要と考えつつも患者の希望を優先して抗菌薬を処方する医師もいると佐々木氏は指摘する。その結果、患者にとってメリットがないばかりか、薬剤耐性菌出現のリスクも含めたデメリットを増やしてしまうことに。
医師はかぜのような抗菌薬が不要な疾患への処方を控え、患者としっかりコミュニケーションを取り、不必要な場合に抗菌薬を服用することのデメリットを丁寧に説明していく必要があると佐々木氏は述べている。さらに、薬の専門家である薬剤師との連携も重要だとしている。また、患者側も医師や薬剤師の説明をしっかりと聞き、かぜや抗菌薬に関する正しい知識を身につけることが求められる。
○1.抗菌薬を正しく使う
かぜには効果がないため、医療機関でかぜと診断された際に抗菌薬を希望することは避けるべきだとしている。また、抗菌薬を処方された場合には、医師の指示を守り、途中で症状が良くなったとしても、量や回数を勝手に減らすことなく、最後まで飲み切ることが勧められている。さらに、抗菌薬をとっておいたり、人にあげたり、もらったりすることは避ける必要がある。
○2.感染対策
感染対策としては、手洗いが基本であり、外から帰ったときや、トイレの後、食事前にはしっかりと手を洗うことが推奨される。また、せきやくしゃみが出る場合は、マスクを着用し、飛沫が飛ばないようにすることが大切であり、マスクがない時には、ハンカチや袖の内側などで鼻と口を覆うことが望ましいという。さらに、ワクチンによって防げる病気もあるため、必要なワクチンを適切な時期に接種することが推奨される。
○3.感染症を広げない
感染症を広げないために、感染症による症状(のどの痛み、せき、鼻水、発熱など)がある時は、外出を控えてゆっくり休むことが大切だという。

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