《大人の愛着障害》「褒められても満たされない」「人の顔色を気にする」「自分が嫌い」自己肯定感が低く、逆境に弱い人に共通している問題とは

2025年2月26日(水)12時30分 婦人公論.jp


幼少期に育まれる親子の絆(写真提供:Photo AC)

「自分のことが嫌い」「自己肯定感が乏しい」「周囲にとても気をつかう」それは子どもの時に育まれる愛着がうまく形成されなかったからかもしれません。愛着の問題があると、逆境やストレスに弱くなってしまいます。では、大人になってからでも愛着の形成はできるのでしょうか?精神科医の村上伸治さんが「自己肯定感を育てて、何があってもグラつかない自分になる方法」を教えてくれる『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』から一部を抜粋して紹介します。

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「愛着障害」とは


愛着とは子どもが親に対して、親が子に対してもつ相互の情愛的なやりとりでつくられる絆です。

人は、親との愛着関係のなかで自己肯定感や基本的安心感を育み、人生を自ら切りひらく力を身につけます。

ところが親子関係に問題があり愛着がうまく形成されていないと、その後の人生にさまざまな影響を及ぼします。

愛着は人という建物の土台になります。愛着が弱いと、基礎工事の弱い建物のように脆弱で、心が安定しません。

うつや依存症など精神疾患をくり返す人のなかには、愛着に問題を抱えている人が少なくありません。

「愛着障害」とは正確には小児に限られた病名です。大人の場合は、愛着障害という病名はないので、私は広く「愛着の問題」と呼んでいます。

親からの虐待を受けてきたわけではなくても…


愛着に大きな問題が生じる典型は、虐待を受けて育った場合です。ですが、虐待を受けてなくても、愛着の問題を抱えている人が、実は少なくありません。

そうした逆境体験はないのに、自己肯定感や基本的安心感が乏しい方が多くいます。

それは愛情不足というより、むしろ少子化のなかで、親は「理想の子ども」を育てようとするため、子どもは「ありのままの自分」を「理想からはずれたダメな子」だと思ってしまうなどの、現代社会の病理が見えてきます。

みなさんの中にも、「自己肯定感が乏しい」「自分がきらい」「親との関係が苦しい」などを感じている人がいるかもしれません。読み進めながら、ご自身についてふり返ってみてください。

もしそれが愛着の問題なのだとわかったら、自分の手で愛着を再構築することに挑戦してみませんか。

真の意味で大人になるため、損なわれてしまったあなた自身をとり戻していきましょう。

自分は生きていていいという基本的な安心感が乏しい


一般に「愛着」とは、慣れ親しんだものに対する離れがたい心情を表しますが、発達心理学における「愛着」とは、乳幼児と母親など養育者とのあいだに形成される特別な情緒的結びつきを意味します。

生まれたばかりの赤ちゃんは「お腹が減った」「おむつが濡れている」など不快な感情を言葉で表すことができません。泣いたりぐずったりすると親が気づき、不快感をとり除いてくれます。

こうした相互関係がくり返されるうちに赤ちゃんは親を「不快や不安から守ってくれる存在」と認識し、親にくっついて安心を得ようとします。

このとき親は赤ちゃんの存在を丸ごと無条件で受け入れます。「なにかができるから」「努力しているから」愛するわけではありません。

乳児期から3歳頃にかけてこうした無条件の愛情を与えられると、子どもは自分を「生きる価値のある存在」「愛されるべき人間」と認識するようになります。

この感覚が基本的な自己肯定感の土台となるのです。

しっかりとした愛着形成がなされていると自分自身を肯定的に捉えられ、存在していいかどうかを意識することなどありません。

安心して親に甘えられない


しかし、愛着形成が不十分だと、「自分には生きる価値がある」と思うことができず、安心して親に甘え頼ることができません。

このように愛着障害は子どもに診断される障害で、虐待などの逆境体験により愛着が形成されなかったときに生じます。本来は大人に向けられる概念ではありません。

ただ、愛着になんらかの問題を抱えたまま大人になり、「自分が生きていてもいい」という基本的な安心感が乏しい人もたくさんいます。

こうしたケースでは、逆境体験が皆無ということも多いのです。そのような人たちは、自己肯定感が乏しく、基本的安心感をもつことが困難です。

つき合う相手によって安心感が大きく変化したり、年齢を重ねても、安心感が増えていかなかったりします。

成長過程のどこかでつまずき、「自分は愛されていない」「自分はいらない存在」「自分はきらい」と思うようになってしまった可能性があります。


安心して親に甘えることができない子どもの原因は(写真提供:Photo AC)

ほめられても満たされず、いつも足りない感じがする


愛着に問題を抱え、苦しんでいる人には共通して「周囲にとても気をつかう」傾向が見られます。

母子間で基本的な愛着形成が行われるのは、3歳くらいまでの時期です。

お腹がすいて泣く、乳をもらう、安心する、こうした要求と応答という母子間の相互のやりとりがベースとなります。

このとき子どもは受けとるだけです。ギブアンドテイクでいうと、ギブする必要はないのです。

ところが、なんらかの原因でこの相互関係が不安定になると、情緒も安定しません。お腹がすいて泣いても、乳をもらえるときともらえないときがある。

そこに一定のルールもない場合、子は混乱します。

ワンオペ育児をしている、病気や障害がある、周囲からのストレスで母親が情緒的に不安定である、など原因はさまざまです。

幼い頃から親にも周囲にも気をつかう習慣


いずれにせよ、こうした不安定な関係性のなかで、母親に見捨てられないために、つまり生き残るために、より一層親の顔色を読み、注意を引こうとします。

次第にそれは、他の人との関係にも応用されます。幼い頃から親にも周囲にも気をつかうことが習慣化するのです。

愛着形成がうまくいかないと、自己がうまく確立できません。自己が不安定で空虚だと、つねに不安なまま周囲に気をつかい続けなければなりません。

相手に気をつかい、つい「なにかしてあげなければ、ここにいてはいけないのではないか」と思うようになるのです。

それによって感謝されても、あまり嬉しいとは感じられません。ほめられているのは自分の内面(自己)ではなく、自分の外側(自分の行為)だと感じてしまいます。

まるでメイクした女性が「美しいね。いいコスメ使っているんだね」とほめられるようなものです。

人にほめられるほど、それと引き換えに「もっとがんばらなくては」という気持ちが強くなり、心が満たされないまま、ひたすらがんばり続けることになります。

※本稿は、『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)の一部を再編集したものです。

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