虚弱体質だった大村崑さんが、86歳からジムに通い始めて起きた変化とは。鎌田實「トレーニングを始める前の崑ちゃんは、足腰がすっかり弱っていて」
2025年3月18日(火)12時30分 婦人公論.jp
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
60代でヨボヨボが始まってしまう人もいれば、80代で元気な人もいますが、なにが違うのでしょうか。今も現役で活躍している、93歳の喜劇役者・大村崑さんと76歳の医師・鎌田實さん。元気ハツラツなシニアライフを送っているお二人が大切にしているのは「筋肉」なのだそう。そこで今回は、大村さんと鎌田さんの共著『崑ちゃん・鎌田式 老化のスピードを緩める最強の習慣!』から一部をお届け。雑誌の企画で再会したときの語らいについて鎌田さんが綴ります。
* * * * * * *
100センチのウエストと大衆演劇の大物俳優
昔からスポーツをやっていて若々しい肉体を維持しているなら、まだ理解できる。驚くべきは崑ちゃんがトレーニングを始めた年齢だ。なんと、86歳になってからライザップのトレーニングを始めたのだ。いまの僕の年齢のときには何もしていなかったことになる。男性の平均寿命=約81歳を優に超えているし、普通の人ならもう諦めてしまう年齢だろう。
そもそも崑ちゃんは昔から虚弱体質だった。19歳で結核を患って右肺を部分切除し、医者からは「40歳まで生きられない」と言われた。58歳のときには初期の大腸がんの手術も受けた。高齢期に入ればそこに老いも加わる。86歳の崑ちゃんに何があったのか。
「何本もあるジーンズが入らなくなってね。腹が。あまりにブサイクやから、女房とデパートに買いに行って試着室に入ったんです。女房は売り場で待ってたんやけど、あまりに時間がかかるから“何してんの?”って試着室まで来るでしょ。ちょうど店員さんが僕のウエストを測っててね。“ご主人のウエストは100センチあります”と。
背は高くないし、足は短いから、ウエストに合わせるとみんな裾が長くてチンチクリンなんです。女房も驚いて“もう帰りましょう。どないすんの? そのお腹”って。もう長いこと僕の裸を見てませんでしたからね。今や寝室も別やし、触れ合うこともない。昔はあんなに愛し合ってたのに(笑)」
“ウエスト事件”の直後に新幹線に乗っていると、偶然にも梅沢富美男さんに遭遇する。大衆演劇が好きで、梅沢さんのことは昔から見ていた。当時、70歳を目前にしていた梅沢さんは昔と変わらずスマートだった。
「崑さん、どうも梅沢です」
「相変わらず格好がいいねぇ。どこかにトレーニング行ってるの?」
「そうなんです。崑さん、ライザップってご存知ですか」
60歳年下のスーパーマン
テレビコマーシャルを見る機会がなかったから、ライザップのことは知らなかった。じつは梅沢さんは2017年の秋からライザップでトレーニングを始め、翌18年春に約12キロ減を達成。そのビフォア・アフターの様子は全国ネットのテレビコマーシャルで放映されていた。崑ちゃんと梅沢さんが新幹線でばったり遭遇したのは、ちょうどその頃から少し後のことだった。
新幹線では妻の瑤子(ようこ)さんも一緒だった。しばらくして、瑤子さんからジムに一緒に通うことを誘われた崑ちゃん。ウエスト事件の熱はまだ冷めていない。こうしてジムの門を叩くことになった。
『崑ちゃん・鎌田式 老化のスピードを緩める最強の習慣!』(著:大村崑、鎌田實/潮出版社)
「最初は乗り気じゃなくて、説明だけ聞く予定でした。せやけど、受付の女性の言葉が巧みでね。それから、一緒にいた20代の男性のトレーナーがめちゃくちゃ格好良かった。身長が185センチあって、身体中が筋肉だらけ。思わず“この人に教えてもらいます”って指名してもうたんです。それがスーパーマンですわ」
「スーパーマン」とは、トレーナーの岩越亘祐(いわごえこうすけ)さんのこと。崑ちゃんとの年齢差は約60歳。アメコミの『スーパーマン』のような肉体だから「スーパーマン」と呼ぶようになった。
トレーニングを始めると筋肉痛が出た。あまりにひどかったので、すぐにやめてしまおうと思ったが、スーパーマンの一言で思い止まった。「寝てる筋肉が起きてる証拠です。筋肉が騒ぎ出してるだけだから、心配しなくていいですよ。その痛みが筋肉になりますから。じきにお腹も凹(へこ)んできます」——。
褒めてもらえるのが嬉しくて
スーパーマンの言うとおり、2カ月が過ぎたあたりから効果が出てきた。ウエストが少しずつサイズダウンしてきたのだ。スーパーマンに会うこと自体が楽しくなってきた。理由は褒めてくれるから。
〈やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ〉
山本五十六(いそろく)の有名な明言である。スーパーマンはこの精神で指導してくれる。だから、スーパーマンに会うのが楽しくなったのだ。
「この歳まで、人に褒めてもらったことなんかないんです。“崑さん、いいですよ。今の姿勢いいです。覚えておいてくださいよ”って、スーパーマンからそうやって褒められたら、次の週にちゃんとできるようにしたいじゃないですか。褒めてもらいたいから行く。そうしてるうちに、気付いたら筋トレが習慣になってたんです」
身体に起きた変化
ジムでのトレーニングに加えて、食事などの生活習慣も改善した。
その結果、崑ちゃんの身体にはどんな変化が起きたのだろうか。
トレーニングを始める前の崑ちゃんは、足腰がすっかり弱ってヨタヨタ歩きだし、少し歩くだけで息切れや動悸があった。食事のときにはよく誤嚥(ごえん)があった。日中はいつも疲れていて、毎晩の寝つきは悪く、眠りが浅かった。その結果、常に体調を崩しやすく、顔は土気色。ジーンズが穿けなくなったという話のとおり下腹がポッコリ出ていた。そんな様子を、崑ちゃん本人は「不調のオンパレード」と表現している。
※本稿は、『崑ちゃん・鎌田式 老化のスピードを緩める最強の習慣!』(潮出版社)の一部を再編集したものです。
関連記事(外部サイト)
- 大村崑、92歳の喜劇役者「最期のお迎えは<赤い霊柩車>で。9歳で父が他界。19歳で片肺を切除、寿命は40歳と宣告され。『やりたいことをやってやろう』と逆境が闘志に」
- 大村崑、92歳。妻の勧めで86歳から筋トレ開始。芝居の「見て盗む」力が役立った。心から「元気ハツラツ!」と言える喜び
- 鎌田實「75歳、心房細動と共に生きる。老いや病、経済的な問題を抱えても、自分に満足するためのヒントとは」
- 大村崑×岡村瑤子 91歳と85歳の不健康夫婦が今「元気ハツラツ」の秘訣はライザップ。「うちは孫がいないからね。その分、筋肉を育ててる」
- 大村崑×岡村瑤子「妻の決断がなければ、《元気ハツラツ!オロナミンC》はなかった。家出された時はのたうち回り…。大腸がん、前立腺がんを経て」