前川國男設計の名建築が「霞会館記念学習院ミュージアム」として甦る…皇族・華族ゆかりの品々を公開

2025年3月29日(土)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

皇族・華族にゆかりが深い学習院大学に、大学博物館「霞会館記念学習院ミュージアム」が誕生。リニューアルを記念し、特別展「華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」が開幕した。


旧図書館の建物をリノベーション

 明治10年(1877)に創立、大正15年(1926)の皇族就学令によって皇族の就学先とされた学習院。同令廃止後も多くの皇族の方々が学習院を選ばれ、縁はいまも深く続いている。

 昭和50年(1975)、学習院大学内に「学習院大学史料館」が開館。皇族・華族ゆかりの品々を中心に、資料・史料の収集、保存、調査、研究を行い、展覧会も数多く開催してきた。コレクションは寄贈などにより着々と増え続け、現在、所蔵品の数は25万点以上。史料館は手狭になり、学内からは施設の改善・拡張を訴える声があがり始めたという。

 そうした状況のなか、学習院大学の構内に大学図書館の新棟が完成。いままで図書館として使われた建物は、史料館と博物館機能を併せ持つ施設として活用されることになった。こうして誕生したのが「霞会館記念学習院ミュージアム」だ。

 実はこの旧図書館の建物は建築家・前川國男が設計し、昭和38年(1963)に竣工した「昭和の名建築」。今回のリニューアルにあたって大規模な改修工事が行われ、利便性を高めながらも、建設当初の姿が取り戻された。旧図書館の建物は竣工後しばらくして白いペンキで塗られたが、今回のリノベーションにより前川建築の特徴である美しいコンクリート壁が甦っている。


記念展のテーマは「パトロネージュ」

 令和7年(2025)3月14日に開館した霞会館記念学習院ミュージアム。同日、リニューアルオープンを記念した特別展「華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」が開幕した。

 本展のテーマは「パトロネージュ」。芸術の発展には、パトロンによる職人や芸術家への支援「パトロネージュ」が欠かせないが、日本でも天皇家をはじめ、皇族・華族らが芸術の作り手たちに厚い支援を行ってきた。展覧会では皇室に縁の深い職人らが制作した工芸品や調度品、身の回りの品々、儀礼で用いられる装束やドレスなど約100点を紹介する。


日本の技が光る「皇族のドレス」

 出展作のなかで、時代の移り変わりとパトロネージュの思いを感じさせてくれるのが皇族ゆかりのドレス。明治維新後の明治5年(1872)、天皇は西欧諸外国の賓客接遇のために洋装礼服を導入。皇后もまた伊藤博文首相らより洋装化を勧められ、「国のためであれば何でもする」と決意を表明する。明治19年(1886)、皇后は華族女学校の卒業式に初めてドレスを着用、翌年の新年拝賀儀式からは皇后はじめ皇族妃は洋装大礼服で出席することになった。

 ただし皇后は「服を作る際には国産の生地と技術を用いること」という内容の思召書を提出。たとえドレスを着るとしても、国産の生地を使用し、織や刺繡などには日本の伝統技法を用いたい。そんな思いを表明し、日本の技術と職人を守ることに努めた。

 明治の皇后の思召は日本皇室の伝統となり、その後のドレス製作にもわが国の伝統技術が生かされている。展覧会では会期中に展示替えをしながら、4着のドレスを公開。上皇后陛下ローブ・モンタント(3/14〜3/22)、北白川宮富子妃ヴィジティング・ドレス(3/24〜4/13)、高松宮喜久子妃ビーズドレス(4/15〜5/2)、清子内親王ローブ・モンタント(5/7〜5/17)が鑑賞できる。


時代を映す「ボンボニエール」

 展覧会ではボンボニエールの展示も興味深い。ボンボニエールとは、皇室の慶事に際して下賜される菓子器のこと。西欧諸国では結婚や子供の誕生の際にボンボニエールを配る慣習があるが、この慣習が明治の中頃、日本の皇室にもたらされた。

 皇室初のボンボニエールは明治22年(1889)、大日本帝国憲法発布式で下賜されたもの。その後、慶事に際してはもちろん、海外賓客への贈り物としても使われるようになり、華やかな意匠が施された手のひらサイズのボンボニエールが数多く製作された。

 展覧会では30点のボンボニエールが展示されている。いずれも「超絶技巧」と言いたくなる見事な職人技を堪能できるものばかり。それもそのはず、これらのボンボニエールを手がけたのは江戸時代から腕を磨き続けた刀職人たち。廃刀令で職を失った彼らを助けるために、製作にあたらせたのだという。

 また、ボンボニエールは「時代を映す鏡」という一面ももつ。明治39年(1906)、明治天皇が日露戦争の勝利を祝って開いた宴では、陸軍・海軍それぞれの旗を七宝で表したボンボニエールを賜与。大正10年(1021)に皇太子裕仁親王が外遊より帰られた際の帰国祝賀饗宴では地球儀形ボンボニエールが下賜されている。

 昭和に入り、戦争への足音が聞こえるようになってくると、モチーフに「兵器」が用いられるようになる。複葉機形(昭和7年)、魚雷形(昭和10年)、水上飛行機形(昭和21年)。史実を伝える資料としてもボンボニエールの価値は高い。

 リニューアルオープン記念展「華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」は5月17日まで。ただし、「一度の展覧会では紹介したい作品が出し切れない」(展覧会担当学芸員)とのことで、すでに続編の開催が決定。6月23日から8月2日まで第2弾「芸術と文化のパトロネージュⅡ まだまだ開く玉手箱」が予定されている。

リニューアルオープン記念展「華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」
会期:開催中〜2025年5月17日(土)
会場:霞会館記念学習院ミュージアム
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:日曜日、祝日、4月14日(月)(4月13日(日)・4月27日(日)は開館)
お問い合わせ:03-5992-1173

https://www.gakushuin.ac.jp/univ/ua/

筆者:川岸 徹

JBpress

「学習院」をもっと詳しく

「学習院」のニュース

「学習院」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ