日本選手権10000mの女子は東京五輪7位の廣中璃梨佳が復活V、高校時代のライバル・矢田が大幅ベストで2位に入る

2025年4月20日(日)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


廣中が“絶妙スパート”で2年ぶりの優勝

 日本選手権10000mの女子は“九州勢”の熱い戦いになった。長崎出身の廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)と熊本出身の矢田みくに(エディオン)だ。矢田の方が1学年上で、高校時代(※2017年のインターハイ3000mは廣中が7位、矢田が8位)から競い合ってきた。

 20時15分にスタートしたレース。緑のウェーブライトは31分20秒ペースに設定された。外国人選手の後ろに廣中がつくと、矢田がピタリとマークする。先頭集団は3000mを9分23秒で通過して、4000m手前で前年3位の兼友良夏(三井住友海上)が脱落。雨のなか、5000mは設定通りの15分40秒で通過した。

 8000mでペースメーカーが離脱すると、廣中、矢田の順で駆け抜ける。ふたりのマッチレースが始まった。

 徐々にペースを上げた廣中が、残り4周を前にペースを落とす。矢田に先頭を譲るかたちになったが、これは“戦略”だった。

「残り5周でいきたかったんですけど、押し切れなかった。一旦、後ろに下がって、自分を落ち着かせる時間にしたいなと思いました。ラストスパートをどこでかけるのか。レースプランを練り直したんです」

 ふたりは9000mを28分16秒で通過。矢田の様子を探りながらレースを進めた廣中がラスト2周で前に出る。残り600m付近で矢田を突き放すと、ラスト1周でさらにペースアップした。緑に灯るウェーブライトの前を突っ走り、2年ぶりの優勝ゴールに飛び込んだ。

 廣中はラスト1周を64秒でカバーして、31分13秒78をマーク。2位は矢田で31分20秒09、3位は兼友で32分18秒25だった。なお東京世界陸上マラソン代表の小林香菜(大塚製薬)はスピード強化の目的で出場して、33分41秒65の10位に入った。


パリ五輪を逃した廣中が再び世界を目指す

 絶妙なラストスパートで完勝した廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)だが、「8000mから自分のペースで上げていきたかったんですけど、ラスト2周で逃げ切るのが、今の状態だったのかなと思います」と自身の走りには満足していなかった。それでも久しぶりの笑顔が彼女の充実度を物語っていた。

 廣中は2021年から日本選手権の10000mを3連覇した。さらに2021年の東京五輪で7位、2023年のブダペスト世界陸上でも7位に食い込んでいる。世界大会で「入賞」を重ねてきたが、昨年は日本選手権10000mを欠場。故障に苦しみ、パリ五輪の出場を逃した。

 それでも24歳で迎えるトラックシーズンの初戦で“復活”の走りを披露した。

「昨季の(苦しい)経験がプラスになっているなと感じていますし、冬季にしっかり練習できたのが大きいかなと思います。日本選手権に帰ってこられて、しかも優勝できた。スタミナはついてきているので、今後はスピードをもう少し上げていきたい。この優勝をステップに今季は実りあるシーズンにしたいと思います」

 5月下旬のアジア選手権でも「優勝」を目標に掲げている廣中。9月の東京世界陸上を目指して、ギアを上げていく。


地元で快走した矢田は「やっと世界が見えてきた」

 廣中の背中を追いかけて2位に入ったのが矢田みくに(エディオン)だ。ルーテル学院高では2年時にU20世界選手権5000mに出場。デンソー入社1年目にはアジア・ジュニア選手権5000mで金メダルに輝いている。

 2022年9月にエディオンに移籍。昨年の日本選手権10000mで4位に入ると、地元・熊本で開催された日本選手権10000mで激走した。

「5000mまでは落ち着いて走り、残り2000mから仕掛けるレースプランを組み立てていました。終始、『みくに』とか『やだちゃん』という声援が聞こえたので、すごくパワーになりましたね。想定通りの走りができたのは良かったですけど、最後の粘りと自信は廣中ちゃんの方が上だったのかな。地元優勝を狙っていたので、悔しい気持ちが大きいです」

 それでも自己ベスト(31分34秒39)を大きく更新する31分20秒09をマーク。レース後、矢田は廣中と抱擁してお互いの健闘を称えた。

「廣中ちゃんは高校時代からずっとトップを走っているので、良きライバルですし、尊敬する存在です。昨年は苦しい思いをしてきたと思うので、『おめでとう』と言いました」

 高校時代から活躍してきた矢田だが、今年3月に宮崎で行われた日本実業団連合・日本陸連合同女子長距離春季強化合宿で「世界」を目指す気持ちが強くなったという。

「昨季まではただレースに出ていただけで、正直、日本代表を意識できていなかったんです。でも陸連合宿で山本(有真/積水化学)さんとお話して、意識の差に悔しさを感じました。気持ちの変化が大きいと思いますね。今後は世陸を目指して、記録を追い求めていきたいです」

 地元Vは逃したが、アジア選手権の代表が濃厚になった矢田。同世代の廣中、山本らとともに“日の丸”をつけて、勝負に出る。

筆者:酒井 政人

JBpress

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