炭素を豊富に含む隕石はなぜ衝突跡を残さないのか?30年にわたる謎がついに解明

2025年4月28日(月)21時0分 カラパイア


 宇宙を旅してきた隕石の中には、炭素を豊富に含んでいるにもかかわらず、激しい衝突の痕跡がほとんど見られないものが存在する。この不思議な現象に科学者たちは30年以上にわたり頭を悩ませてきた。


 2025年4月、神戸大学をはじめとする研究チームは、独自に開発した装置で隕石の衝突を再現し、その謎をついに解き明かした。


 炭素を含む「炭素質隕石」では、衝突時に発生するガスによって衝撃の証拠が吹き飛ばされてしまうことが分かったのだ。


 この発見は、太陽系形成の歴史解明に新たな道を開くとともに、今後の惑星探査ミッションにも重要な手がかりを与えることになりそうだ。


なぜか傷跡が少ない炭素質隕石の謎


 地球に落下してくる小さな隕石は、もともともっと大きな小惑星の一部だったものだ。それが小惑星同士の衝突などによって砕けると、しばらく宇宙を浮遊したのちに、地球に落下してくることがある。


 だから隕石のほとんどには、「衝撃変成」と呼ばれる衝突の痕跡が残されている。


 こうした痕跡は、太陽系の歴史を解き明かすうえで大切な手がかりとなる。太陽系の惑星は宇宙を漂う岩石の激しい衝突によって形作られたが、そのプロセスを隕石の衝突から推測できるのだ。


 だが研究者たちの間では奇妙な事実が知られている。それは炭素を含む隕石(炭素質隕石)には衝撃変成があまり見られないことだ。


 まるで炭素を含む隕石だけが優しく扱われたかのように見えるが、その理由は惑星科学における30年来の謎だった。



2000年1月18日にカナダ、タギシュ湖したタギシュ・レイク隕石の最大の破片は炭素質コンドライトだ


従来の仮説に疑問


  神戸大学大学院人間発達環境学研究科の黒澤耕介准教授は以前に提案されていた仮説に注目した。


 それは、宇宙の岩石に何かが衝突すると、内部に含まれていた水分が蒸気となって放出され、その勢いで衝突の痕跡が吹き飛ばされてしまうというものだ。


 だが、黒澤准教授はこの仮説についてアイデア自体は素晴らしいが、完全ではないと考えた。


 まず含水鉱物のない炭素質隕石でもやはり衝撃痕が少ないものがあるが、これをどう説明すればいいのか?


 そもそもこの仮説を提唱した研究者は、衝撃跡が吹き飛ばされるほどの水蒸気が本当に生じるのかきちんと計算していない。


 そこで黒澤准教授が着目したのは、炭素それ自体だ。


 炭素を含んだ小惑星で衝突が起きると、炭素に化学反応が起こり、それが衝撃跡を吹き飛ばしてしまうのではないか?



真犯人は一酸化炭素ガスと二酸化炭素ガスの爆発


 この可能性を検証するため、黒澤准教授は密閉されたチャンバーに二段式のガスガン取り付けた装置を独自に開発。


 炭素質隕石を模した炭素入りのペレットを秒速3〜7kmで射出し、かつて宇宙で起きた衝突を再現するという実験を行った。



実験に使用した二段式水素ガス衝撃銃の写真 惑星探査研究センタープレスリリース[https://www.perc.it-chiba.ac.jp/news/2025/04/24/4290/]


 そして明らかになったのは、衝突の衝撃で化学反応が起き、1700度と高温の一酸化炭素と二酸化炭素のガスが発生することだ。


 それは文字通り爆発であり、その運動量は衝撃変成の痕跡を宇宙へ吹き飛ばすのに十分なものであることが確認された。


 つまり炭素質隕石の衝撃の傷跡を消し去っていたのは、水蒸気ではなく、一酸化炭素と二酸化炭素のガス爆発だったのだ。



隕石の衝撃変成度2分性の成因の模式図 惑星探査研究センタープレスリリース[https://www.perc.it-chiba.ac.jp/news/2025/04/24/4290/]


ただし事情が異なる準惑星衝ケレス


 ただし同じ炭素質の天体であっても、太陽系最大の小惑星であり、準惑星にも分類される「ケレス[https://karapaia.com/archives/52315075.html]」では、少々違うことが起きるようだ。


 ケレスは小惑星帯の質量の3分の1を占めるほどに大きいので、その重力によって吹き飛んだ物質がまた戻ってくると考えられるのだ。


 だとするなら、そこには衝突の痕跡が蓄積されて残っているはずだ。もしもこれを採取して地球で分析できるなら、それは太陽系の炭素質隕石母天体でかつてどのような衝突が起きていたのかを知る貴重な手がかりになるとのことだ。


 この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-58474-2]』(2025年4月24日付)に掲載された。 


References: 隕石の衝撃変成度2分性の成因を解明[https://www.perc.it-chiba.ac.jp/news/2025/04/24/4290/] / https://www.nature.com/articles/s41467-025-58474-2[https://www.nature.com/articles/s41467-025-58474-2] / Carbon Meteorites Go Boom: The Explosive Secret Hiding Their Violent Pasts[https://scitechdaily.com/carbon-meteorites-go-boom-the-explosive-secret-hiding-their-violent-pasts/]

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