花和紙…花びらと優しさすき込んで

2025年5月3日(土)12時0分 読売新聞

完成した花和紙を手にする斉藤さん(左)と大西さん

 生花店が春の花で彩られる季節になった。商品として出荷される花々がある一方で、規格外などの理由で、店頭に並ぶこともなく処分される花もある。「せっかく美しく咲いたのに……」。そんな優しさから生まれた紙がある。花びらを和紙にすき込んだ「花和紙」だ。(紙WAZA編集長 木田滋夫)

捨てられる花 惜しむ思いが形に

 花吹雪という表現がふさわしい。薄い和紙に、赤や紫の花びらが点々と散っている。「処分される花に新しい価値を持たせ、手にとってもらえるものをと考えました」。名古屋市出身のデザイナー出水佳恵さん(37)は話す。

 きっかけは7年ほど前に遡る。店舗の内装をデザインする会社を起こした出水さんは、花好きだったこともあり、空いた時間に生花市場でアルバイトを始めた。そこで取引されていたのは、大きさや形のそろった花だけ。規格に満たない花は廃棄されていることを知った。「モヤモヤした気持ちを抱えたまま1年ほど過ごしましたが、『行動しなければこの気持ちは消えない』と思い至りました」

新たな製品を

 処分される花で新たな製品を作ろうと、試行錯誤を重ねた。まず草木染を作ったが、手に入る花が毎回異なることを考えると、安定的に生産するのは難しい。ドライフラワーや押し花も作ったが、目新しさはない。そんな折、「和紙と組み合わせてはどうか」と考え、「小原和紙」の産地として知られる愛知県豊田市の小原地区を訪ねた。

製法探して数か月

 工房や美術館などからなる「豊田市小原和紙のふるさと」の斉藤順子さん(50)と大西奈美さん(36)は、出水さんが訪ねてきた日のことをよく覚えている。「試しに花をすき込んだ紙を作り、『かわいい!』とみんなで大喜びしました」

 試作品は「パーフェクトの出来栄え」(出水さん)だったが、販売するには課題もあった。花びらをそのままの大きさで使うと、乾燥後に剥がれやすい。紙を厚めにすくと花びらは固定できるが、出水さんがイメージする軽やかさが損なわれる。数か月かけて行き着いた製法は次の通りだ。

色の変化楽しむ

 まず、和紙原料の「コウゾ」の繊維と水をミキサーで混ぜ、そこに「トロロアオイ」の粘液を加えて原料液を作る。これを三つの容器に分け、このうち一つにはミキサーで少し細かくした花びらを加えておく。

 次に、目の細かい金網を張った木枠に原料液を注ぐ。1回目はコウゾとトロロアオイだけの液、2回目は花びら入りの液、3回目はコウゾとトロロアオイだけの液だ。こうすることで、紙の表面と裏面の間に花びらの入った層ができる。液を注ぐたびに木枠を揺らして水を分離させ、さらに機械で水を除いた後、屋外で乾燥させれば完成だ。

 「花の美しさを伝えたいという私の思いを、形にしていただきました」と出水さん。すき込まれた花は時間とともに色が変わるが、「新鮮な花だけが美しいわけではありません。変化を楽しんでほしい」と話す。

 花和紙は、通販サイト「テルズマーケット」や紙専門店で取り扱っている。名古屋市の専門店「紙の温度」では、直径15センチの円形に加工されたものを1100円(税込み)で販売している。花瓶や小物を飾る台紙などに使われているという。

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