写真家・富井義夫さんと世界遺産を旅する。世界遺産誕生のきっかけになった、エジプト「アブ・シンベル大神殿」の魅力とは
2025年5月17日(土)12時30分 婦人公論.jp
アブ・シンベル大神殿。左から2番目の像は、地震によって上半身が崩れている(撮影:富井義夫)
133の国と地域を旅して、625ヵ所もの世界遺産を訪れている写真家・富井義夫さん。40年以上にわたって世界中を巡ってきた富井さんによる、『婦人公論』での新連載「世界遺産を旅する」。第1回は、富井さんが世界遺産の撮影をライフワークとするきっかけとなった「アブ・シンベル大神殿(エジプト)」をご紹介します
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朝日が差し込む始まりの地
エジプト
私は40年以上にわたり、世界遺産の撮影をライフワークとしています。初回は、この道を歩もうと決めたきっかけの地、アブ・シンベル大神殿をご紹介しましょう。
エジプトのカイロから南へ飛行機で2時間のところにある都市、アブ・シンベル。ナイル川の河畔に建つ神殿は、3000年前に、第19王朝の征服王・ラムセス2世の権威を示すため造られました。
外壁に鎮座するのは、岩山をくり抜いて造られた、高さ20メートル以上のファラオ像。廊下からラムセス2世の座像のある奥の至聖所へと、朝日が真っ直ぐに差し込むよう綿密に計算されて建てられています。
ただし、この現象が起きるのは年に2度、2月22日と10月22日のみ。この日は、王の誕生日と即位した日という説もありますが、未だ解明されていません。
実は、1960年代、この一帯はダム建設に伴い水没の危機に陥りました。エジプトとスーダン両政府の要請を受けて、ユネスコが国際的な救済キャンペーンを展開。その結果、60以上の国や企業の協力を得て、近隣に移築する大規模工事が行われたのです。これを機に、世界各地の宝を保全すべく誕生したのが、「世界遺産」でした。
当時、私はこの一連の動きを新聞で知り、国や人種を超えて人類が手を取り合い遺跡を救済したという事実に胸を打たれました。人々の思いをかくも集める存在。その素晴らしさを伝える写真家になりたいと願い、私の世界遺産を巡る旅は始まったのです。
世界遺産登録名/3 アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群