ハンガリーの丘で3000年以上前の数百点の遺物を発見、戦士社会の痕跡か

2025年5月17日(土)20時0分 カラパイア


Image credit: Bence Soós et al; Photo by László György;CC BY 4.0[https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/]


 ハンガリー西部にあるソムローの丘で、考古学者たちが3000年以上前の、青銅器時代の遺物を900点以上発見した。


 現地で調査を進めているパンノニア大学などの研究チームによると、この丘には戦士階級を中心とした集団が住んでおり、彼らは金属製の武器や装飾品、さらには食料の痕跡までもを丁寧に陶器に納めて地中に埋めていたという。


 なぜそれらは掘り出されることなく残されていたのか。この発見は、青銅器時代から鉄器時代への移り変わりを生きた、戦士社会を浮き彫りにしているという。


ソムローの丘で発見された900点以上の遺物


 ソムローの丘は、ハンガリー西部のヴェスプレーム郡にある標高431mの小さな火山性の丘で、周囲の平坦な地形の中に孤立して存在している。


 このような地形は「ビュート」と呼ばれ、周囲の侵食によって残された、頂上が比較的平らな孤立丘のことを指す。アメリカ西部などでは一般的だが、ヨーロッパでは比較的珍しい地形である。


 ビュートのように目立つ地形は、古代においても特別な場所と見なされていた可能性がある。


 これまでもハンガリー西部では、ヴェレム=セント・ヴィドやシャーグの丘などに青銅器時代の集落跡が見つかっていたが、調査の多くは19世紀に行われたもので記録が乏しかった。


 そこで2023年より、パンノニア大学を中心とする研究チームがソムローの丘で本格的な調査を開始した。


 ドローンとライダー(LiDAR)[https://ja.wikipedia.org/wiki/LIDAR]技術を使って丘の地表をスキャンし、地上では金属探知機や徒歩による調査を行った。その結果、青銅器時代後期から鉄器時代初期にかけての遺物が900点以上見つかった。



(A) ハンガリーのソムロー丘陵、(B) ソムロー丘陵の研究地域の地形、(C) 発掘された遺物の位置を示す地図 Image credit: Bence Soós et al;CC BY 4.0[https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/]


陶器に収められた宝物


 発見された遺物の中で特に注目されたのは、6カ所にわたって発見された宝物庫とその貯蔵品である。これらは紀元前14世紀から9世紀ごろに埋められたもので、大半はハルシュタットB期(紀元前1000年から紀元前800年まで)に属している。


 武器や装飾品のほか、琥珀のビーズ、イノシシの牙、革の断片、焦げたレンズ豆やキビの種なども含まれており、これらは単なる生活用品ではなく、儀式や象徴的な目的をもって埋められた可能性がある。


 陶器に収められた状態で発見された貯蔵品は、パンノニア大学でCTスキャンが行われた。そのうちのひとつからは、アルプス地方の様式を持つ槍の穂先が見つかっており、広域的な交流の痕跡が確認されている。



ソムロの丘にある宝物庫Iで考古学者が発見したアルプス様式の槍先。異なる角度から撮影 Image credit: Bence Soós et al;CC BY 4.0[https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/]


ソムローの丘にあった戦士階級の社会


 研究チームによれば、これらの遺物を残した集団は戦士階級を中心とした部族社会だったと考えられている。


 丘のふもとでは鉄器時代初期の大規模な墳墓も見つかっており、この丘が政治的または儀式的な拠点だった可能性がある。


 また、「貯蔵品V」に含まれていた陶器の壺は、同地域で初めて確認された青銅器時代末期の陶器であり、その中に食料の痕跡が含まれていたことから、宗教的または象徴的な目的をもって埋められたと考えられている。



宝物庫Vの調査:A)貯蔵品周辺の試掘写真、B)現地での貯蔵品のフォトグラメトリ(写真測量)による再現図、C)集合体のCT検査、D)発掘中に撮影された内容物の写真 Image credit: Bence Soós et al;CC BY 4.0[https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/]


社会崩壊を免れた集団の記録


 多くの青銅器時代の社会が鉄器時代の始まりとともに崩壊した中で、ソムローの丘に住んでいた集団は定住を継続していたとみられる。


 金属製品の生産に関わるとみられる青銅のしずく、鋳造の副産物、半球状のインゴットなどが見つかっており、現地での金属加工が行われていたことが示されている。


 建物の跡や作業に関する痕跡も確認されており、専用の工房が存在していた可能性もある。


 アルプス地域に由来する武器の存在からは、交易や移動によって外部との接点もあったと推定される。


今後の調査と展望


 2025年には、貯蔵品が見つかった場所の周辺をさらに調査し、それらが日常的な空間の一部だったのか、それとも特別な場所として使われていたのかを明らかにする計画が進められている。


 また、出土した骨片の放射性炭素年代測定も進行中であり、今後はより正確な年代の特定が進む見込みである。


 これにより、遺物や構造物だけでなく、当時の社会全体の姿を時間軸の中で捉えることが可能になると期待されている。


この研究結果は『Antiquity[https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/later-prehistoric-hoarding-and-habitation-on-somlo-hill-western-hungary/F1557B993706ADCFF8C267C8CFA0E6F1]』誌(2025年3月27日付)に掲載された


References: Later prehistoric hoarding and habitation on Somló Hill, western Hungary[https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/later-prehistoric-hoarding-and-habitation-on-somlo-hill-western-hungary/F1557B993706ADCFF8C267C8CFA0E6F1] / A Mysterious Warrior Society Buried 900 Artifacts on This Hill in Hungary 3,000 Years Ago[https://www.zmescience.com/science/news-science/a-mysterious-warrior-society-buried-900-artifacts-on-this-hill-in-hungary-3000-years-ago/]

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