「最近よくむせる」「食べこぼしが増えた」「滑舌が悪くなった」…それは《オーラルフレイル》のサインかも。専門家が教える口腔機能セルフケア
2025年5月21日(水)13時0分 婦人公論.jp
イラスト:小林マキ
「最近よくむせる」「食べこぼしが増えた」「滑舌が悪いと指摘されて」……そんな自覚があれば、「オーラルフレイル」のサインかもしれません。これ以上悪化させないためのセルフケア方法を聞きました(イラスト/小林マキ 取材・文・構成/岩田正恵《インパクト》 デザイン/米山和子《プッシュ》)
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「オーラルフレイル」の原因に
「舌骨上筋」の衰えの影響
「オーラルフレイル」とは、噛む、飲み込む、話すといった口腔機能が加齢によって低下することを意味しています。
「口まわりの筋力低下やむし歯・歯周病による歯の減少、唾液の分泌量の減少などにより、口や舌をなめらかに動かす力や、食べ物を噛んで飲み込む『嚥下力』が衰えるのです」と説明するのは、オーラルフレイルの臨床研究をしている戸原玄先生です。
口まわりの筋肉の中でも、特にあごのすぐ下にある「舌骨上筋」の衰えの影響が大きいことが、戸原先生の研究で明らかになっています。
「舌骨上筋はあごとのど仏をつなぐ筋肉です。口を開けることに加え、ものを飲み込む際にのど仏を持ち上げて気管を閉じ、食道の入り口を開けて食べ物や飲み物を消化器官に送り込む働きもしています。舌骨上筋は加齢により筋繊維の数が減り、細くなることで衰えるのです」(戸原先生。以下同)
かたいものを食べにくく
感じるようになったら
舌骨上筋の機能低下は、やがて全身の健康にも影響を及ぼします。
「かたいものを食べにくく感じるようになり、食への関心が落ちて食事量が減少。よく噛まないといけない肉や魚、野菜などを避け、うどんやパンのようなやわらかい食品を好むようになります。栄養の偏りが続くとやがて、全身の筋肉量が減ってしまうのです」
身体的な衰えが進むことで外出がおっくうになり、さらに筋肉量が減少するという悪循環に。すると、転倒や寝たきりの危険性が高まります。また、家族や友人との外食を避けるようになることで社会性が低下し、認知症のリスクも増加しかねません。
「口と全身の健康維持は表裏一体。フレイルの段階なら健康な状態に引き返すことは可能です。1年前と比べて口腔機能が落ちていると感じたら、すぐに対策を始めましょう」
正しい姿勢で舌骨上筋の
機能を維持しよう
舌骨上筋は姿勢の影響を受けることもわかっているそう。
「猫背になると、あごが前に出ます。すると、舌骨上筋が伸びて会話や嚥下の際にうまく機能しなくなるのです。まずは立ったり座ったりする際に、背筋をまっすぐ伸ばすことを意識しましょう。これだけで舌骨上筋が機能しやすくなります。また、ウォーキングなどの有酸素運動や、スクワットなどの筋力トレーニング、ストレッチを日々の生活に取り入れ、全身の柔軟性と筋力の維持にも取り組んでください」
普段から、おしゃべりやカラオケを楽しむ、おせんべいやするめといったかための食材を噛むなど、口をよく動かすことも舌骨上筋の機能維持に効果的。
「さらに積極的に鍛えるためには、思いきり大きく口を開けるトレーニングが有効です。カラオケなら、テンポの速い曲を汗をかくぐらい本気を出して、表情豊かに歌って」
同時に、筋肉の材料となるタンパク質と、タンパク質の吸収を促すビタミン類を意識して摂りましょう。
日々のオーラルケア
定期的な歯科検診の受診も
口腔機能を高めるためには、唾液の分泌を促す必要もあります。梅干しなどすっぱいものをイメージしたり、こまめな水分補給で口の中の乾燥予防を心がけて。
さらに、日々のオーラルケアも欠かせません。
「むし歯や歯周病があると、口の中に細菌が蔓延。当然、唾液の中にも細菌が広がります。その状態で嚥下力が落ちると、細菌まみれの唾液が肺に流れ込み、誤嚥性肺炎を起こす原因に。唾液の誤嚥は就寝中にも起こるため、口腔内の衛生管理は重要です」
歯みがきや洗口剤、歯間ブラシなどを使って毎日、歯の汚れをていねいに取り除くとともに、定期的な歯科検診の受診もお忘れなく。
そのほかの対策は、次回から紹介します。
なお、口腔機能の低下には、神経性の病気が潜んでいるケースもあるので、2、3週間セルフケアを行っても改善しない場合は、オーラルフレイルを扱う歯科医や神経内科に相談しましょう。
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