断捨離提唱者やましたひでこ「《使えるのに捨てたらもったいない》は<自分軸>ではなく<モノ軸>の考え方。自分を主人公にすると、片づけはどんどん加速する」
2025年5月22日(木)12時30分 婦人公論.jp
「老いも若きも誰でも、断捨離を通して爽快な毎日を送ることができるのです」(撮影:洞澤佐智子)
片づけに悩む多くの人に、断捨離の手ほどきを続けて25年。やましたひでこさんが、これからのモノとの向き合い方や、自己肯定感を上げて人生をよみがえらせる知恵を伝授します(構成:山田真理 撮影:洞澤佐智子)
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老いも若きも爽快な毎日を
今号の特集テーマが「モノを手放して、心も体も健康に」だと聞いて、まさにその通り! と嬉しくなりました。断捨離を実践することで元気になる方を、この25年間見てきたからです。
たとえば、80代で自宅の断捨離を見事にやりとげ、その後も元気に暮らしている女性がいらっしゃいます。
ほかにも、妻を亡くして広い古民家をモノでいっぱいに埋め、「これでいいんだ、死ぬわけじゃなし」とうそぶいていた独居の男性が、断捨離を進めるうちにどんどん表情が変わり、「いつでも遊びに来てよ」というまでに心を開いてくれた姿も見ました。
老いも若きも誰でも、断捨離を通して爽快な毎日を送ることができるのです。
見違えるように表情が生き生きと
私が、心の執着を捨てるヨガの行法から「断捨離」の着想を得たのは、夫の故郷の石川県で主婦をしていた40代の頃。戦後どんどん豊かになった日本の住まいには、とにかくモノが増えすぎていた。
散らかるモノを、美しく整理整頓したい気持ちはわかります。でもそのために収納ケースや棚板を買い足して、モノを増やすのは本末転倒。完璧に収納しても、使っていくうちにすぐに崩れて元の木阿弥になってしまう。
その繰り返しを止めるには、モノに対する考え方を根本から変える必要があるのではないか——。そんなことを考えてたどりついたのが、不用意に入り込むモノを「断ち」、不要なモノは「捨て」、執着を「手離す」という断捨離だったのです。
もともとは家の片づけに悩む主婦向けに講座を開いていましたが、思いのほか心の問題もからんでいると気づきました。当時、主婦が置かれていた状況は、家事をしてもほめられも感謝されもしない評価ゼロの世界。経済的に収入が得られないことで自信喪失に陥っている人も。
日々行っている、汚れたら洗う、散らかったら整える、増えすぎたら減らす、丁寧に手入れをして一定の状態に保つのはものすごく大事なことなのです。その手入れがあるとないとでは暮らしの快適さはまったく違う。
「それを担っているのが主婦の皆さんです。素晴らしいことなんですよ」とお伝えすると、すごく喜んでくださいました。
気持ちよく「行ってきます」「ただいま」「ようこそ」と言える場所に(やましたさんの沖縄の家/撮影:高野大(フォトアートたかの))
そして、「かつては意味があったモノでも、今の自分に必要がなければ手離す」という断捨離の視点に、刺激を受けたという人が大勢いらした。「帰宅して片づけてみたら、いらないモノがこんなに見つかりました」と報告をしてくれる方も。
なかでも印象的だったのは、「モノ選びに関して、自分という存在がなかった」と気づき愕然としたという方です。食器棚のなかにはお姑さんの代から引き継いだモノ、引き出物や景品、安いから買ったモノが満載で、「私が好きで選んだ食器が1つもなかったんです! 片づかないと悩んでいた自分はいったい何だったのか」と……。
自分を主人公にすると、片づけはどんどん加速していきます。誰かに「やらされている」のではなく、「やりがいがある」から楽しんで取り組める。余計なモノが減ればスッキリして、自分の家が好きになる。結果、その人の表情が見違えるように生き生きと変わっていくのです。
長年しみついたモノとのつきあい方を変えるのは、とても難しいですよね。読者の皆さんのなかには、「使えるのに、捨てるのはもったいない」という考え方をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。ただ、「もったいない」というのは、「モノ軸」の考え方であって、「自分軸」ではありません。
この「もったいない」には2つのタイプがあって、1つは「使えるモノを捨てるなんてもったいない」という正義の価値観と、もう1つは「もったいなくて使えない」という気持ち。
後者は、「これを使う価値が自分にはない」と言っているのと一緒で、自己肯定感が低い状態。その場合、私は「これ、あなたのお気に入り? だったら今使わなくてどうするの? 自分をもてなしましょう!」と「自分軸」のほうへ促します。
棚の奥深くに仕舞い込んだ大事な食器を出して、自分をもてなし、自己肯定感を上げる——。これも断捨離なのです。
<中編につづく>
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