ハニワ・ブームの“裏側”を掘り越こす! 「ハニワと土偶の近代」東京国立近代美術館で開幕

2024年10月4日(金)18時51分 マイナビニュース

東京・竹橋の東京国立近代美術館で、「ハニワと土偶の近代」が始まりました。10月16日から東京国立博物館で始まる特別展「はにわ」も期待と注目を集めていますが、同時期に開催される2つのハニワ展、一体何が違うのでしょうか?
私たちが子どもの頃に歴史教科書や社会科見学で出会った、ハニワや土偶。古(いにしえ)の地層から出土するそれらのイメージは日本中に浸透し、奇怪な形態をした縄文土器も広く愛好されています。岡本太郎やイサム・ノグチによって、そうした出土遺物の美的な価値が“発見”されたというエピソードも、なかば伝説化。特にハニワといえば、勇ましく凛々しい武人やゆるい造形でユーモラスな表情を見せる人、馬や鹿などの動物、そしてNHKで1983年から6年間放送された幼児番組『おーい!はに丸』の人気も手伝って、いまや押しも押されぬ“国民的愛されキャラクター”といえる存在でしょう。
そんなハニワや土偶が教科書に登場するようになったのは、実は近代以降のこと。「この展覧会は“本物のハニワや土偶”を中心とするものではありません。本物のハニワは東博さんの方で十分に堪能いただきまして、我々の方は、ハニワや土偶を描いた、あるいはモチーフにした絵画、彫刻、工芸、デザインなどの作品や造形物、そういった“イメージを扱う展覧会”です」と、東京国立近代美術館 主任研究員の花井さん。というわけで、こちらに登場する本物のハニワは2体で、展示の主役は“ハニワや土偶を描いた作品”となっています。
ハニワや土偶は、なぜある時期に注目を浴びたのか? 遺物をめぐるブームには、いつも容易ならぬ背景があるとし、そうした“ハニワ・土偶ブームの裏側”を掘り起こすのを狙いとする同展。展示は、1980年に同館の地下収蔵庫を建設する際に行われた発掘調査で、前庭から出土された遺跡出土品から始まります。
序章は、古物愛好の「好古」と、明治初期に西洋からもたらされた考古学の「考古」、そこに美術が重なり合う場で描かれた出土遺物を紹介。たとえば、蓑虫山人(みのむしさんじん)が《陸奥全国古陶之図》で描いた土偶や土器は、中国の文人画風に茶道具や植物とともにレイアウトされ、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の《野見宿禰図》に描かれたハニワの足元に円筒の土台はなく、なぜか2本足で立っている。
『日本書紀』に登場する相撲の神様として知られる野見宿禰は、埴輪づくりや古墳の造営に携わった古代の豪族、土師氏の祖ですが、この絵の中の宿禰は、古墳時代ではなく奈良時代の服装をしていることにも注目です。
「日本を掘り起こす」と題した第1章で紹介されるのは、近代国家形成において「万世一系」の歴史の象徴として、ハニワが特別な意味を持つようになったこと。各地で出土した遺物は皇室財産として上野の帝室博物館に選抜収集され、ハニワは歴史画家の日本神話イメージの創出を助ける考証の具となっていきます。
特にハニワがフィーチャーされたのが、1940年を目前に“皇紀2600年”の奉祝ムードが高まり、日中戦争の開戦で仏教伝来以前の“日本人の心”に源流を求める動きが高まった時期。単純で素朴なハニワの顔が“日本人の理想”として、戦意高揚や軍国教育に使役されるようになったのです。
第2章からは、戦後パートです。敗戦で焼け野原になり、復興と開発のためにあらゆる場所が発掘現場となった戦後の日本。それまでの天皇を中心とした歴史教育はGHQの検閲の対象となりました。軍国主義や建国神話を教える教科書は墨塗りされ、代わって登場したのが“発掘”。実証的で科学的な学問として考古学が一躍脚光を浴びるようになり、新しい日本の歴史は考古遺物から始まった—という見方を示唆します。
この章では、戦前の来日時、京都の博物館で見て以来「ハニワ好き」を公言していたイサム•ノグチや、いわずとしれた縄文の“発見”者、岡本太郎の作品も登場。
最終章となる第3章は、考古学の外側で愛でられたハニワや土偶のイメージが、やがて広く大衆へ浸透していく様が紹介されます。SF・オカルトブームと合流し、特撮やマンガなどのジャンルで先史時代の遺物に着想を得たキャラクターが量産された1970年代から80年代。ハニワの王子・はに丸と馬のひんべえが現代の言葉を学ぶというNHKの幼児番組『おーい! はに丸』(1983−1989年放送)によって、ハニワの存在はいっそう身近になったといえるでしょう。ちなみに今回の音声ガイドは、はに丸役の声優・田中真弓さんが務めています。
「展覧会の準備中に『そもそもハニワと土偶は何が違うの?』と聞かれて、まったく時代が違うので驚いたんですけれど、逆に言えば、そのくらいフワっと認識されているものに光を当てる機会になりました。小学校で習ったことがこの展示の中につながっていると感じ取っていただけると、より身近に見られると思います」と、土偶を担当した主任研究員の成相肇さん。またハニワを担当した花井さんは、「東博さんが表舞台なら、こちらは裏舞台、“ハニワの裏側を掘り起こす”展覧会です。いま自分が見ているハニワではなく、描かれた作品と時代時代の作家たちが、どのように見てきたかの痕跡が、そして同じ日本で時代によってこんなに違う見方をしてきたのかがわかります」と、2つの展覧会の差異も含めて楽しんで欲しいと語っていました。
美術を中心にした「出土モチーフ」の系譜と、ハニワや土偶に向けられた視線の変遷を探り、それらの“ブームの裏側”を掘り起こす展覧会「ハニワと土偶の近代」は、東京国立近代美術館で、12月22日まで開催です。
■information
「ハニワと土偶の近代」
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
期間:10月1日〜12月22日(10:00〜17:00※金・土は20時まで)
休館日:月曜(ただし10/14、11/4日は開館)/10月15日、11月5日
料金:1,800円/大学生1,200円・高校生700円/中学生以下、および障がい者手帳提示の方および付添者1名まで無料

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