ラーメン官僚も感激! 煮干ラーメンの新鋭『西永福の煮干箱』(西永福)の「煮干らーめん」が旨いワケ

2021年11月10日(水)10時51分 食楽web


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 永福町は、東京都のちょうど「重心」に相当する場所に位置し、「東京のへそ」と呼ばれる大宮八幡宮が鎮座するのどかな住宅街。ラーメン好きの方々からすれば、駅(京王井の頭線永福町駅)の目の前に名店中の名店『永福町大勝軒(1955年創業)』(※)が佇む、ラーメン聖地のひとつというイメージが強いのではないかと思います。

※『永福町大勝軒』……大量の煮干から出汁を採った醤油ベースの清湯スープの表面に、香り豊かなラード油を滴らせるスタイルを考案した名店。全国各地にも、『永福町大勝軒』の流れを汲む系列店が数多く存在します。麺も、デフォルトで一般的なラーメンの約2倍の分量があり、食べ応え満点。この系統のラーメンを提供する店舗ばかりを好んで食べ歩くマニアも少なくありません。

 そんな永福町の地で、2021年9月28日に産声を上げた新店が、今回ご紹介する『西永福の煮干箱』。前述した『Bonito Soup Noodle RAIK』と、方南町の『CLAM & BONITO貝節麺raik』の姉妹店です。

 より詳しくは、『Bonito Soup Noodle RAIK』の休業日(月曜)を活用し、2018年12月17日から同店で間借り営業していた『月曜日は煮干rabo』が独立・路面店化したのが『西永福の煮干箱』。ちなみに、これら3店舗の運営は法人化されており、『西永福の煮干箱』を取り仕切るのは、『月曜日は煮干rabo』時代から厨房を任されていた宮澤店長です。


同店のロケーションは、京王井の頭線西永福駅から徒歩2分程度で、立地は極めて至便

 ザックリと言えば、曜日限定店舗の『月曜日は煮干rabo』が軌道に乗り、RAIKグループとしても「そろそろ次の段階へと進みたい」ということで、今般、「鰹(1号店)」、「貝(2号店)」に続く「煮干(3号店)」として独立した店舗ということになります。

 間口が小さくこぢんまりとした外観は、前に入っていたとんかつの人気店『箸で切れるとんかつ かつ善』のそれを巧みに流用したもの。「ひと目見た瞬間、この建物の雰囲気に惚れ込んでしまいまして。ここでお店を出せれば良いなと考えていました」と笑う店主。店構えには適度な落ち着きがあり、周囲の街の雰囲気にも違和感なく馴染んでいます。

 いずれにしても、『RAIK』の姉妹店ということで、ラーメン好きからの注目度も極めて高く、私も、オープン早々の段階で足を運ぶことにした次第です。

煮干好きなら絶対ハマる!煮干の味を凝縮した一杯


店内は、6席のカウンター席と2人掛けのテーブル席が1席。厨房から漂う適度な緊張感が、良き「調味料」として機能。ラーメン食べ歩きの経験を重ねた方であれば、口を付ける前から「この店の1杯は期待できる」と確信できる空間

 訪問時、店内は満席。お客さんは皆、丼の世界にのめり込んでいます。耳が捉えるのは、一心不乱に麺とスープを啜る音だけ。入口からほど近い右手側に券売機が鎮座しています。

 提供する麺メニューは、麺のお替わりである「和え玉」を除けば「煮干らーめん」とそのバリエーションである「特製煮干らーめん」のみ。開業当初から複数の商品を用意する新店が年々増加する中、ひとつの味を極めようという姿勢が垣間見え、好感が持てます。

「競争が激しいこのラーメン職人の世界で自分ができるのは、この『煮干らーめん』のスープに集中し、徹底的に突き詰めていくこと。ただそれだけです」と語る宮澤氏。

 このような言葉を紡ぐ実直な作り手がいることは、お客さんにとって純粋に嬉しいもの。『月曜日は煮干rabo』の時代から、宮澤店長に数多くの常連が付いている理由の一端が分かったような気がしました。


「煮干らーめん」900円

「煮干らーめん」を注文してから3分強の時が経過。ついに、待望の1杯が卓上に供されました。

 丼から放たれ宙へと舞い上がる、煮干の麗しい香り。ビジュアルも、惚れ惚れするほど端整です。トッピングとして採用された輪切りのレンコンが、ワンポイントとして見事に機能。豚チャーシューの「紅」、鶏チャーシューの「白」、刻み青ネギの「緑」、柚子皮の「黄」など、視覚的な華やかさも、イヤミなく演出されています。


店内を覆い尽くす心地よい煮干の香りに食欲が爆発する

 スープは、考え得る限りの技術の粋を凝らした、まさに手間ひまの結晶。出汁を採る素材は煮干のみ。カタクチイワシ(2種類)・ウルメ・アジ・アゴ・伊吹イリコの6種の素材を、各種素材の等身大の持ち味を活かす形でブレンドし、1つの寸胴で火入れしたものです。

「カタクチイワシは『味の土台』と『インパクト』、ウルメは『甘み』、アジは『上品さ』、アゴは『力強さ』、伊吹イリコは『まろやかさ』を表現するために使っています」。それぞれの素材の特長を完璧に把握し、縦横無尽に使いこなす宮澤店長。その構成力には、目を瞠るものがあります。


染み渡る煮干のうま味に癒される

 出汁だけではありません。合わせるカエシの醤油も、煮干との相性を最大限考慮しながら、様々な銘柄を用いて試作した結果、煮干の風味を殺さずに活かす現在のものへと辿り着いたとのこと。まさに、こだわりの塊と言うほかありません。

 スープをひと啜りすれば、俄には動物系素材不使用とは信じ難いほど「骨太」なうま味が味蕾を強襲。うま味の内実は、この上なく複層的。6種類の煮干のうま味と香りが幾重にも折り重なり、複雑玄妙な味わいを創出。数年前に首都圏を中心に一世を風靡した、いわゆる濃厚一辺倒の「セメント系煮干ラーメン」とは明らかに一線を画した、奥行きとコク深さを兼ね備えた仕上がりです。


歯切れの良い麺は啜る度に旨さに磨きがかかっていく

 このスープに合わせる麺は、名門『三河屋製麺』製の低加水中細ストレート。口の中でパツンとバネのように跳ねる活きの良さと、ザクッと硬質な歯触りとが、食べ口に絶妙なメリハリを生む鉄板の逸品です。


このまま食べても抜群の美味しさ。最初はこのまま、中盤でつけ麺風に、最後はラーメンに入れてと多彩な食べ方ができる

「この麺を用いた『和え玉』は、タレ、油に加えて、ラーメンのスープとは別に作ったビターな煮干スープで味付けを施しています。お客様にはぜひ『和え玉』も召し上がっていただき、違いを楽しんでもらいたいと思います」(宮澤店主)

 適宜のタイミングで輪切りレンコンをサクッと囓りながら、麺とスープを啜っている内に、いつの間にか丼が空っぽになっていました。

「長きにわたって地元の人たちに愛され、『今日、ハコ(煮干箱)行く?』といった会話が日常的に交わされる。そんな地元・西永福のホーム的な存在になればと思っています」と、今後の目標を語る宮澤店長。

 魚介素材のみで紡ぎ出した新機軸の煮干ラーメン。宮澤氏のラーメンと向き合う真摯な姿勢も相まって、少なくとも当面の間は、その動向から目が離せない注目店となりそうです。

店長(宮澤 正秀氏)のプロフィール

・『Bonito Soup Noodle RAIK』、『CLAM & BONITO貝節麺RAIK』を擁する「株式会社GRID」にて修業。

・2018年12月、『Bonito Soup Noodle RAIK』の定休日を活用した間借り営業という形で、煮干ラーメンの専門店『月曜日は煮干rabo』を立ち上げ、2020年には、間借り営業であるにもかかわらず、『食べログ』の『ラーメンTOKYO百名店』に選出される快挙を達成。

・今般、同店の経営が軌道に乗ったこと等を切っ掛けに、屋号を『西永福の煮干箱』へと変更し、独立店舗化。一風変わった店名は、「前店舗の屋号とよく似た語感を持つ言葉で、誰が聞いても、どのようなラーメンを提供する店なのかが分かるものにしたかった」との意向によるもの。

・本文でご紹介したとおり、間借り営業時代からの宮澤店長のこだわりにより、鶏・豚等の動物系素材を一切使わない1杯を提供している。

●SHOP INFO

店名:西永福の煮干箱(にしえいふくのにぼしばこ)

住:東京都杉並区永福3-55-3
TEL:03-6304-7088
営:11:30〜15:00、火〜土18:00〜21:00(L.O.20:40) ※昨今の状況を鑑みて現在は21時閉店、通常時は〜22:00。日曜日は夜営業無し
休:日曜夜、月曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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