「必要な負けだった」全日本大学女子駅伝で8連覇を逃した名城大、常勝軍団が敗れた理由と再浮上へのストーリー

2024年11月30日(土)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


「チームにとって必要な負けだった」

「NIKE RUNNING MEDIA CAMP 2024」のスペシャルゲストとして登場した名城大女子駅伝部。同校は昨季、全日本大学女子駅伝で7連覇、富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)で6連覇を達成した。

 しかし、今年は10月27日に行われた全日本大学駅伝で立命大に完敗。4位に沈み、8連覇を逃している。令和の常勝軍団はなぜ敗れたのか。米田勝朗監督は昨季あたりから“嫌な雰囲気”があったという。

「連覇を重ねるごとに少しずつ取り組みが変わってきている部分がありました。ちょっと悪い方向にいっているな、と。去年も状態があまり良くなかったんですけど、それでも勝ち切った。でも同じことは起きないと思っていましたし、学生たちには、『やるべきことができないようなチームだったら負けた方がいい』という話をしていました。成功体験だけでなく、失敗することも大事です。チームが再び強くなるために必要な負けだったかなと私は思います」

 3度の「日本一」を経験している主将の谷本七星(4年)もチームの異変を感じとっていた。

「練習でプラスアルファをやる選手が少なくなって、『もっと強くなりたい』という姿勢が年々弱くなっていました。一日の積み重ねがレースの結果につながってきます。寮生活をしているなかで自分を律して頑張っている選手を見ると、『私もやらなきゃ』という連鎖反応が生まれてくるんですけど、今年はそれが少し弱かったかなと思います」

 競技面でもトラックシーズンで5000mの15分台を出す選手が現れず、夏合宿は故障者が続出した。それでも全日本大学女子駅伝の直前でチームはグッと調子を上げてきたという。

「レース1カ月前ぐらいからの練習はほとんど決まっているんですけど、直前の3000mも結構速いペースでできました。それまでできなかった練習もこなすことができて、チームの一体感が生まれてきたんです。私たちのなかで『優勝できる』という気持ちで臨みましたが、うまくいきませんでした」(谷本)


 昨年まで7連覇を果たした全日本大学女子駅伝(10月27日)で何が起きたのか。まず3年連続で1区を務めた米澤奈々香(3年)にアクシデントがあった。前々回は後続に19秒差をつける区間賞、前回はトップと3秒差の2位で発進しているが、今回は終盤に大きくペースダウン。先頭と44秒差の9位と出遅れたのだ。

「スタートしてすぐに違和感があったんです。練習を積めていなかった分、自分でしっかり引っ張るようなレースもできず、さらに脱水もあって(先頭集団から)離れてしまいました。レースで脱水症状が出たのは初めてだったので、タスキをつなげられるのか不安でした……」(米澤)

 前々回は1区で、前回は2区でトップに立ち、その後は独走したが、今回は追いかけるかたちになった。その後も思うように浮上できず、最終6区の谷本七星(4年)にタスキがつながったのはトップと2分50秒差の6位だった。

「レースが始まってみて、『あれ?』という戸惑いが大きかったかなと思います。私が入学してから名城は先頭しか走っていなくて、流れ的にも凄くいいかたちでもらうことが多かったんです。そのなかでレースを進めていくのは簡単だったと改めて感じましたね。今回は最初から思うようにいかない展開になり、優勝しか狙っていなかった分、ふわふわした気持ちで待っていました。何を目指して走っていいのかわからなくなったんです」(谷本)

 主将の谷本は区間2位の力走で拓大と東北福祉大をかわすも4位でフィニッシュ。8連覇を逃しただけでなく、メダルにも届かなかった。

 泣き崩れる選手たちを目の当たりにした米田監督は複雑な思いを抱いている。

「今回、立命大がやった駅伝はうちが強かったときと同じような内容です。5連覇した年は3区が終わった時点で1分以上リードしました。仙台の駅伝で勝つには前半勝負がセオリーです。それを今年はできませんでしたが、学生たちが本当にしっかり取り組んでいればできていたんじゃないかなと思います」


富士山女子駅伝で7連覇を目指す

 全日本大学女子駅伝で敗れて、主将の谷本は3日間ほど沈み込んだという。先輩たちと紡いできた“連覇”を後輩たちにつなげなかった責任を強く感じていた。それでも全日本で悔し涙を流したからこそ、次なる決戦に向けての気持ちが高まっている。

「結果がすべての世界なので、キャプテンとして何もできていなかったのかなと思っていたんですけど、その後のミーティングで『富士山で絶対に先輩を優勝させてあげたい』という後輩たちの言葉を聞いて救われました。いまは富士山女子駅伝だけが心の支え。そこで優勝するという目標は絶対に達成したい。最大限の走りをして大学生活をいいかたちで終わりたいなと思っています」(谷本)

 名城大は昨年まで富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)で6連覇を重ねている。全日本の連覇が途切れたが、富士山では本気になった“女王”が栄冠を奪いにいく。

「全日本は勝ちへの貪欲さが足りなかったのかなと思いましたし、負けたことでチームを見直すきっかけになりました。富士山では全日本の悔しさをしっかりと晴らして、キャプテンの七星先輩ら4年生に優勝をプレゼントして送り出したいなと思っています。そして来季につなげていきたい」(米澤)

 名城大の今季のチームスローガンは「感謝を胸に、ジョウショウ・メイジョウ」だ。“ジョウショウ”には「常勝」「常笑」「上昇」という3つの意味が込められている。この言葉を選手たちは毎日のように口にしてきた。「とにかくやるべきことをしっかりやってチームとして最大限のパフォーマンスを発揮できるような状況を作っていきたい」と米田監督。12月30日の富士山女子駅伝から“新たなジョウショウ・メイジョウ”が幕を開ける。

筆者:酒井 政人

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