昨年の「神大会」とは対照的だった2024年全日本フィギュア・男子シングル、選手たちに何が起こったのか?

2024年12月24日(火)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 


まじか、という気持ち

 年末恒例の大会、フィギュアスケートの全日本選手権が行われた。

 12月21日には男子フリーが実施されたが、その光景は思いがけないものであった。

 第3グループ最終滑走の山本草太は2つ目のジャンプである4回転サルコウ、3つ目の4回転トウループで転倒。トウループは連続ジャンプの予定だったが転倒によりそれもできなかった。結果、総合得点217・09点、10位で終えた。

 山本ののち最終グループに入り、最初は佐藤駿。冒頭の4回転ルッツで転倒し、その後もジャンプでのミスが相次ぎ、230・80点、7位にとどまった。

 佐藤に続く織田信成こそ好演技を披露したものの、続く三浦佳生もジャンプが乱れ、230・09点で8位。さらには友野一希も、冒頭からの3つの4回転ジャンプが決まらず233・95点の5位に終わった。

 優勝した鍵山優真こそ笑顔で終われる演技をみせたものの、グランプリシリーズに出場し、世界選手権代表を目指していた選手たちが、次々にミスをおかし、本来の滑りができずに終えていったのだ。

 それは昨年の全日本選手権とは対照的だった。昨年は後半に進むにつれて選手が素晴らしい演技を披露、記憶に刻まれる大会であったからだ。

 この大会は、世界選手権など国際大会の選考対象となっている。今大会だけで決まるわけではなく、他にさまざまな選考基準があり、その中の要素の1つと言う位置づけだが、優勝すれば自動的に世界選手権代表になることができ、表彰台に上がれば選考対象となる。それを考えれば、選手が重きを置くのは自然だ。選考に限らず、伝統を誇る大切な大会だ。懸ける思いは強い。

 その上で、何が昨年と対照的な状況を生み出したのか——。

 昨年、まさに会心の演技で四大陸選手権代表をつかんだ山本は、今回の方が大会に向けていい練習を積むことができていたと言う。その上で、こう語る。

「去年は中国杯でミスをして(グランプリ)ファイナルに出れなくて、全日本までは苦しんでいた期間でした。全日本前に吹っ切れて、点数とかはいい意味で意識していなかったです。今年は去年より全日本に向けていい練習を積んでいたけれど、逆に空回りしたかなと思います」

 フリーの演技後、倒れて取材対応できなかった佐藤駿は12月23日に取材に応じ、こう振り返った。

「ショートの失敗で動揺してしまったのもあって、それをフリーまでひきずってしまったのが一つの要因になっているかなと思います」

「フリーの前は、ちょっと恐怖心を抱いてしまっていました」

 終始考え込むように演技を振り返っていた友野はこう語る。

「緊張も、いい緊張感と今のところ思っているんですけど……。ほんと、まじか、という気持ちで。あまりこういう状態でできなかった経験はないです。……客観的にみたら、いつもと違うところがあったかもしれません」


不思議な空気感

 三浦は、「自分の実力なのは分かっているんですけど」としたうえで、取り巻く雰囲気の違いをあげた。

「空気感が不思議な感じでした」

 それはフリーだけではなかったと言う。

「ショートのときからみんなおかしかった。いつもの感じじゃなかったです。ふつうに考えたら、ショートの(佐藤)駿のルッツの失敗をみたことないし、(鍵山)優真のアクセルの失敗もみたことないし、ほかの選手もそうですし。みんなほんとうに練習の状態がよかったので、今年もいい大会になるな、と思っていたんですけど」

 にもかかわらず、選手たちに失敗が相次いだ空気感の理由をこのように感じていた。

「空回りしている、力が前に出過ぎていると感じました。みんな、狙ってたんだな、と思います」

 狙ってたんだな、というのは「結果」にほかならない。

「(宇野)昌磨君が引退されて、優勝したい、成績を残したいというのが、自分も含めてあるなと思います」

 と、三浦は言う。

 一昨年と昨年は、宇野が連覇を果たしている。優勝候補筆頭とも目される中で勝ちきっている。いわば、皆の追いかける目標であった。宇野の存在は大きかった。

 しかし宇野は引退し、今大会にはいない。鍵山は数々の国際大会で実績を残してきているとはいえ、全日本選手権の優勝は今回が初めてだ。推測ではあるが、意識して、あるいは意識していなくても、優勝、それに準ずる成績を、という意識はより強かったかもしれない。佐藤も優勝を目指していたという。それを現実にしたいという意識は、昨年までとは異なるだろう。推測ではあれ、少なくとも、三浦が空気感を感じ取っていたのは事実だ。

 また、鍵山は別として、2位に入ったのはジュニアでただ挑むだけでよかった中田璃士、3位になったのはショートプログラムで伸びなかったことから前半のグループで滑った壷井達也、4位の織田と、ある意味、後半のグループが包まれた空気や、結果への過剰な意識を持たない立ち位置にいた選手であることも、象徴的だ。

 三浦は取材をこう締めくくった。

「僕はスケートが好きなのでここであきらめるようじゃ好きと言えないです」

 失敗から学べることも大きい。選手それぞれに苦い思いを味わった経験は、きっと、次にいかすことができるはずだ。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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