東大合格者数50人、海外一流大34人…国際派・渋渋の「ランチは"出前"も容認」「隣に美術館誘致」という異次元

2025年3月18日(火)10時16分 プレジデント社

撮影=市来朋久

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私立共学の渋渋の今年の東大合格者数は50人で全国ベスト10入り。加えて、昨年は34人が海外の難関大学に合格するなど国内外で実績を伸ばしている。同校の校長・高際伊都子さんが、神奈川県トップ高・聖光学院高校の校長・工藤誠一さんとの対談で「これからの社会で活躍する子に必要なもの」を語った――。(後編/全2回)

※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。


前編はこちらから。


■聖光に1500人収容コンサートホール、渋渋は敷地に現代アート美術館


【工藤誠一:聖光学院中学校高等学校校長(以下、工藤)】本当にネットワークは広がっているようです。SNSの発達のプラス面ですね。感性を育むという意味では、うちは芸術教育にも力を入れています。まあ、私の趣味でもあるんですが(笑)。スタインウェイのグランドピアノがある約1500人収容できる本格的なコンサートホールがありまして、音楽系の部活に入っていなくても演奏会ができます。ピアノは学内のあちこちに置いてあって、生徒は自由に弾いています。音楽だけじゃなく、陶芸の窯も二つありますよ。


【高際伊都子:渋谷教育学園渋谷中学高等学校校長(以下、高際)】素晴らしい! 本校も学校に隣接していたブリティッシュ・スクール・イン・東京が移転した跡地に、現代アートの「UESHIMA MUSEUM」を誘致しました。見学ツアーを開催したり、授業の一環として見に行ったり、いつでも使える約束になっているんです。


撮影=市来朋久

【工藤】学校の隣に美術館というのも贅沢(ぜいたく)な環境だ。


【高際】積極的でチャレンジ精神旺盛な生徒もいますが、興味や関心が薄い生徒もいます。そういう生徒には、美術館もそうですが、外部の方に来ていただく講演など、「面白いから行ってみない?」と声をかけるようにしています。まだ興味は持てなくても、「中学生のときに見たことがあるな」という程度でも頭のどこかに残っていることが大事だと思うのです。そういう意味でやはりきっかけづくり、機会を提供することは大切だと思います。渋渋には、バイオリンなど予備の楽器も用意していて、ちょっとやってみたいなあと思ったときに、気軽に“お試し演奏体験”ができるよう工夫していますね。


【工藤】機会提供の場というのはいいですね。楽器は高額なので、「やってみたい」と思ってもハードルが高いし。大人になったら、そんな環境はありません。同じような意味で、うちでは宿泊行事も大事にしていて、どの学年にも必ずあります。学校が所有している長野県の斑尾(まだらお)キャンプ場に行ったり、冬季にはスキー教室を開いたり。仲間とともに自然の中で過ごすというのが大事ですね。「蟻(あり)が/蝶(ちょう)の羽をひいて行く/ああ/ヨットのやうだ」という三好達治の詩がありますが、大人になるとそういう感性というのは、なかなか出てきませんが、中高生の子供は、自然の中に放り込むとパッと出てくる。面白いよね。


【高際】学校行事は本当に大事ですよね。うちには残念ながらキャンプ場はないので、あちこちに出かける宿泊行事を大切にしています。生徒たちが自分たちで見学先を見つけることになっています。伝統工芸の体験工房を見つけてきて参加する生徒もいます。「体験だけでなく、近くにいるいろんな大人にインタビューしてくれば?」と勧めると、農家の方にインタビューして、トウモロコシをお土産にもらってきたり、宮大工さんに木材の組み方を教わって感動してみたり。


【工藤】いいですね。


【高際】本当に。ただ、体験はなかなか難しいらしく、三輪そうめんの工房で生徒が作ったのは、稲庭うどんよりも太かったりします(笑)。でも、何かに挑戦して、うまくいかないという体験こそが、本当は大事なんだと思います。


■「心の窓拭き」で少しずつ自分の“なりたい自分像”明確に


――両校とも素晴らしい大学進学実績を誇っていますが、受験には直接関わりのなさそうな学校行事や芸術教育を重視しているのですね。


【工藤】受験にこそ学校行事や芸術教育が生きると思っています。100人の東大合格者を出した学年では、コロナ禍でも宿泊行事をすべてやった。時期は多少遅れましたけどね。学園祭もリアルでやりました。それができたことで、学校に対する信頼感も育っただろうし、自分たちはできたという自己肯定感も持てた。じゃあ、今度は入試もがんばろうと、粘り強く力を発揮できたのだと思います。


撮影=市来朋久

【高際】そうだったんですね。


【工藤】今の難関国立大学の2次試験には重層的に物事を考える抽象的な思考能力が欠かせません。抽象的な思考力を高めるためには、芸術のような感性を養う豊かな学びが大事なんです。今の時期(1月中旬)、ほんとは高3生は学校に来なくてもいいんだけど、うちの生徒は来るんです。夜の9時まで自習室「ザビエルセンター」を開けているので、そこで友達と勉強している。夕飯は学食で食べたり、ラウンジにはキッチンもあるから、そこで仲間同士で麻婆豆腐を作ったりしている(笑)。


【高際】受験は、実は「周囲はみんなライバルで、孤独な努力を続けていく作業」ではなくて、仲間とともに乗り越えていくチーム戦の要素もあるんです。希望や不安を共有できる仲間がいて、そういう仲間と励まし合いながら一緒にがんばっていける生徒は最後のふんばりが利きます。


【工藤】そうなんですよ。



『プレジデントFamily2025春号』(プレジデント社)

【高際】中高生は成長途中なので、自分の未来をしっかりと見通すことはできません。よく窓拭きに例えるんですが、曇ったガラス越しでは遠くは見えないけれど、窓拭きによって少しずつきれいな部分の面積が増えていくと、遠くまで見えるようになります。仲間と一緒に体験したり感動したり、時にはぶつかったり失敗したりすることで心のガラスが磨かれ、よりはっきりと自分の未来を見ることができるわけです。「この先の世界に仲間と一緒に進んでいきたい」「その世界で、自分はこういうふうに生きてみたい」という“なりたい自分像”が明確な生徒ほど、勉強に対するモチベーションも上がり、がんばることができます。


【工藤】人間は誰しも、生まれや環境、才能という部分で、格差のある中で生きています。これら持って生まれたものを“たて糸”だとして、これに、自分で歩む、自分で考える、自分で選択するという“よこ糸”を織り込むことで人生の織物ができる。いかにしっかりとそれを織ることができるかは、先ほどから申し上げている通り、感性を磨いて人間としての土台をしっかりつくることです。


■大事なのは「子供の話を聞くこと」「一歩待つこと」


――人間としての土台を育てるために、家庭でできること、親がすべきことを教えてください。


【高際】親子で話をする時間をたくさん持ってほしいですね。親御さんも自分の感情や感性としっかり向き合って、「ありがとう」「うれしい」「きれいだね」などと感じたことをしっかり言葉にして子供に伝えられるような会話がいいと思います。ただし、親が教え込もうとしたりしないこと。特に受験が近づいてくると、親御さんが何かを質問して、子供がそれに答えるという一問一答形式になりがちですから(笑)。


【工藤】ですね。


撮影=市来朋久

【高際】そもそも教え込めないものもありますし、逆に親が教え込もうとすることで、子供の“学び取る力”を減退させてしまうこともあります。


【工藤】私は、親は「一歩待つ」ことが大事だと思っています。特に最近の親御さんはすぐに、結果、結論を出そうとしてしまいがち。皆さん、忙しいですからね。うちの生徒の親も6割は共働きなので、どうしても親のペースを崩したくないんですね。子供の勉強の進捗(しんちょく)をエクセルで管理している親もいますが、当然のことながら、子供は親の自己実現の道具でもないし、親のペースでは動いてくれません。むしろ、子供のペースを尊重して、親は一歩待つ。これが子育てだと思います。


【高際】子供の話って、親御さんに何かを解決してほしいという内容ばかりではなくて、自分を受け止めてほしいという発話もあります。特に10代前半までの子供は、自分が何を話したいのか自分でもわからないので、順番もバラバラ、思いついたことから話すので結論がわからない。でも、話し終わる頃には、何を言いたいのか、親にもなんとなくわかってきます。「結論を先に」と焦らせるのではなく、一歩待ってみてほしいです。


【工藤】あとね、休みの日にのんびり過ごす時間も大事。海外にホームステイすると「日曜日は家でのんびり」というケースも結構多いんですよ。それとね、あんまり子供を縛らないほうがいいと思います。ゲームはダメだ、スマホは良くないってね。彼らは彼らなりに考えていますから。ただ、大人のルールとはちょっと違うかもしれないけれど、そこも待つことが大事です。うちはね、“早弁”という概念がないんですよ。弁当はいつ食べてもいい。昼休みは昼休みで、いろんな活動をしている生徒たちが多いから。ただし、教室に弁当の臭いが残るのは次の時間の先生に失礼だから、教室以外で食べること。


【高際】うちのほうがゆるいかな。立って食べなければOKです(笑)。ウーバーイーツで出前をとっている生徒もいるぐらいで。


【工藤】それはすごいね。


(プレジデントFamily編集部 構成=田中義厚)

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