「具体的に言ってもらえないと動けません」舐めプな今どき部下を黙らせた氷河期上司の必殺"1枚資料"

2025年4月1日(火)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

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主体性に欠ける部下にはどう指導すべきか。新刊『「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる』を上梓した浅田すぐる氏は「私のような氷河期世代は“自分で考えろ”と一蹴されてきたが、時代は変わった。今の若手には紙に書いてみせてコミュニケーションするのがいい」という――。
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■「とりあえず」でも入社するしかない時代


私は氷河期世代です。就職活動をしていたのは2004年。就職氷河期の“末期”で、今となっては「かなり状況が改善されていた時期」という総括になっているようですが、当時、もちろん当事者にそのような認識はありません。


いつ終わるともわからない「超買い手市場」の中で必死に、説明会に参加したり、エントリーシートを書いたり、面接に臨んだりしていました。それでも案の定まったく内定はもらえず、就活本を買い漁っては、連日徹夜「自己分析」に明け暮れていました。


一社でもどうにか内定がもらえたら、たとえそこがブラック企業だったとしても(そういった言葉自体まだありませんでしたが)、とりあえず入社するしかない……。


そんな時代だったと、今でも鮮明に記憶しています。


■バブル上司の「ざっくりアドバイス」に困惑


加えて、当時多くの会社では新人教育の環境も整っていませんでした。新人の採用自体を抑制していたのですから、当然です。


同年代の友人や知人と話していると、「研修的なものはほとんどなかったよ」「OJTなんて言葉、うちの会社では見聞きしたことないよ」といった話ばかり……。


私は現在、社会人向けに教育事業を営んでいますが、氷河期世代の受講者さんたちから同じような話を何度もうかがってきました。


1つ、実際に受講者さんから聞いた体験談をシェアします。


入社後すぐ営業に配属されたAさんは、最初の数週間だけ先輩社員と同行していたそうです。ただ、その間に具体的な指導はほとんどなし。


直属の上司は“イケイケドンドン”のバブル世代で、相談しても「お客様目線でやっていけば大丈夫」「視野を広げて全体像を俯瞰してみれば、しだいにわかってくるよ」「とにかく自分なりによく考えてみろ」等々の曖昧なアドバイスが返ってくるばかり。


すぐに行動に移せるようなものはなく、まったく参考になりませんでした。


■「今どきの部下」が放った一言


その後は一人で飛び込み営業をやらされ、なかなかノルマを達成できない日々が続きます。


だからといって、上司の言葉に対して「それって具体的にどういう意味なんですか?」と気軽に相談できるような職場環境でもなく、とにかく何度も失敗しながら、試行錯誤を繰り返していくしかありませんでした。


その後もなんとか必死に仕事を続け、気づけば40代に。中間管理職となり、部下を何人ももつようになったAさんですが、ここでさらに困った事態に直面するようになりました。


Aさんの上司は、相変わらず曖昧な指示を平気で出すような人たちばかりです。それでも何となく成立してしまうのが日本のビジネスコミュニケーションですが、当然ながら何をどうしたらいいのかはさっぱりわかりません。


とはいえAさんも忙しく、「周知徹底よろしく」「もっとプロアクティブに頼むよ」「背水の陣で臨むように」といった上司からのセリフをそのまま部下に伝えてしまう場面も多かったそうです。


ところが、今の時代の部下はAさんが20代だった頃とは違います。「超売り手市場」で入社してきた希少・期待の人材であり、本人たちもそれを自覚しています。彼ら・彼女らは、当たり前のようにこう返してくるそうです。


「何をすればいいのかもっと具体的に言ってもらえないと、動けません」と。


写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
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■氷河期ミドルが直面する壁


Aさんが部下だった時代は、こんなことを上司にあっけらかんと言えるような職場環境ではありませんでした。


研修もOJTもロクに受けられないような状況下で、それでも「なんとなくこうかな」という感じで試行錯誤してきた結果、とりあえず自分自身はどうにか成果を出せるにようになっていった。


これが、今日までサバイブしてきた氷河期世代ビジネスパーソンの典型的な実態なのではないでしょうか。


ただ、自分なりにやってきたことを言語化して部下に伝えるとなると、これは今までとは全く異なる力が必要になってきます。


研修やOJTが充実していている時期に入社できていれば、「こうやって伝えればいいのか」といったことを学び取る機会も多々あるわけですが、今の40代ビジネスパーソンの多くが、こうした機会を経ることなくミドルマネジメント層になってしまっている。多くの受講者さんと日々交流させてもらう中で、そのような認識に至っています。


■トヨタで学んだ「言葉の解像度を上げる」


近年のビジネス書の世界では「言語化」や「解像度」をテーマにした本が多数出版され、ベストセラーにもなっています。


その理由について、「氷河期世代のビジネスパーソンが管理職世代になってきたから」と私は捉えています。


上司から降りてくる曖昧な指示について、「部下が納得するレベルで言葉にできる力」を求めている。


本人はそのようなコミュニケーションを見せてもらう機会が非常に少なかったわけですから、このようなニーズが顕在化してくるのは当然の帰結と言えるでしょう。


幸いにして、私自身は当時最終的にトヨタ自動車から内定をもらうことができました。入社してから半年間にわたる新入社員研修を受け、配属後も上司や先輩社員から様々な人材育成的な指導(OJT)を受けることができました。


トヨタには「教え、教えられる」文化といった社内用語があるくらい、このような人材育成的な働き方が定着しています。親身になって教えてくれる諸先輩が、日常的に数多くいる職場環境だったのです。


そこで、同社で得た学びを社会に還元したい、特に悩める同世代の役に立ちたいという想いから編み出したのが、たった1枚「紙に書く」だけで、曖昧な指示や表現の「言葉の解像度を上げる」手法です。


写真=iStock.com/Dacharlie
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■「優先順位をつける」とはどういうことか


1つ例を紹介します。たとえば上司から、「もっと効率的に働いて課全体の残業を減らしてほしい」「ちゃんと優先順位をつけて進めるように」「あれもこれもとならないように取捨選択してね」といった指示を受けたとしましょう。


個人レベルでは、長年の経験から「なんとなくこうすればいいかな」といったことが見えてくるかもしれません。


ところが、この指示を「自分だけでなく部下にも共有する」となると、途端に困ってしまうのではないでしょうか。


前述の通り、「優先順位って具体的にどうやってつけるんですか」と言われてしまうだけですし、「そんなの自分で考えろ」と一蹴できるような時代でもありません。


実はこの話、冒頭で登場してもらったAさんからの相談内容の1つでした。


私はAさんに、「次のように紙に書きだして、優先順位のつけ方を部下にそのまま見せてください」と伝えました。


■「書き出して、囲む」だけで一目瞭然


資料の裏紙でも、ホワイトボードでも構いません。リモートワークなら画面共有でも良いと思います。


何かしら部下に見せられるものを用意して、4×4マスの枠組みを作成します。


左上の枠に優先順位をつけたいテーマを記入し(この例の場合「今日やることは?」)、3分ほど時間をとって「今日やること」の「候補」を、まずは思いつく限り書き出します。


出典=『「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる』(プレジデント社)

続いて、「今日やること」について一通り書き出せたら、次の質問に該当するものを○△□で囲んでいきます。


・質問1 重要度=特に「重要なもの」は? → ○で囲む(最大3つ)
・質問2 緊急度=特に「急ぎのもの」は? → △で囲む(最大3つ)
・質問3 難易度=特に「着手しやすいもの」は? → □で囲む(最大3つ)

すると、最終的に図表2のような「紙1枚」が完成しますが、これを見れば一目瞭然です。


出典=『「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる』(プレジデント社)

○△□すべてで囲まれているということは、それだけ「優先順位が高い」ということになります。


すなわち、この「紙1枚」をガイドにして、たくさんの記号で囲まれているタスクから片づけていく。


あるいは、それらを重視して判断や意思決定をしていく。


そうすれば、「優先順位をつけて働く」という曖昧なフレーズについて、「すぐに動けるレベル」で部下に伝えられたことになります。


ちなみに、もし今回紹介した「重要度」「緊急度」「難易度」という3つの切り口がピンとこないということなのであれば、質問の内容を自分なりに変えてもらっても構いません。これはあくまでも一例だと捉えてください。


■部下を「動ける」ようにするための共通言語


Aさんは、実際にこの方法を、部下の前で見せて伝えてみました。


すると、部下は素直に実践し、数日後には「優先順位をつけて働くってこういうことなのかと人生ではじめて実感できました!」とAさんに伝えてくれたそうです。


これ以降、Aさんと部下は、こうした「紙1枚」を共通言語、共通の枠組みとしたコミュニケーションを日常的に行うようになりました。



浅田すぐる『「わかる」から「動ける」まで 言葉の解像度を上げる』(プレジデント社)

結果、世代間のギャップを超えて円滑に仕事を進めていけるようなったのです。


いかがでしょうか。わずか数分間、たったの「紙1枚」書くだけで、そしてそれを部下に見せるだけで、「優先順位をつける」や、それと似た「効率的に働く」「取捨選択する」などの曖昧な言葉の解像度を上げることができてしまう。


こうした技術を一冊の本にまとめたのが、新刊『「わかる」から「動ける」まで言葉の解像度を上げる』です。今回とりあげた「優先順位をつける」以外にも、多数の”曖昧フレーズ”の解像度を上げています。お役立ていただけましたら幸いです。


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浅田 すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役、作家・社会人教育のプロフェッショナル
「1枚」アカデミアプリンシパル。動画学習コミュニティ「イチラボ」主宰。名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車入社後、海外営業部門に従事。同社の「紙1枚」仕事術を修得・実践。米国勤務などを経験したのち、グロービスへの転職を経て、独立。現在は社会人教育のフィールドで、ビジネスパーソンの学習を支援。研修・講演・独自開講のスクール等、累計受講者数は10000名以上。独立当初から配信し続けているメールマガジンは通算1000号以上。読者数18000人超。
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(「1枚」ワークス株式会社代表取締役、作家・社会人教育のプロフェッショナル 浅田 すぐる)

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