メールの「お世話になっております」に意味ありますか?…いくら働いても仕事が終わらない人の悲しい共通点

2025年4月29日(火)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

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仕事ができる人、できない人の差はどこにあるのか。『道ばたの石ころ どうやって売るか?』(アスコム)を書いたPRコンサルタントの野呂エイシロウさんは「仕事が遅い人は、固定観念にとらわれて思考停止している。まずは常識を疑うことから始めるといい」という――。(第1回)
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■「枠」にとらわれる必要はない


あなたが連日残業続きで、ヘトヘトに疲れていたとします。その原因は、会議やプレゼンに提出する大量の資料作成に大幅な時間を割いているということ。やってもやっても仕事が終わらず、深夜までかかってしまうので、どうにかしたいと思っています。


そんな時、枠にはまった考え方しかできない人は、とにかく書類の作成スピードを上げよう、文章を早く書けるようにしよう、ショートカットキーをたくさん覚えよう、という「スキルアップ」な答えになりがちです。それはそれで必要かもしれませんが、多少の時短になったとしても、それだけでは定時上がりは難しいでしょう。


枠にはまらない人なら「そもそもその資料が必要なのか」ということから考えます。クライアントへの提出ならともかく、社内向けの資料であれば口頭で説明できないか、あるいは何十ページもの資料ではなく、ペライチに要点だけまとめたほうが結果的に社内の会議でも分かりやすいのではないか、ということも考えられます。


出所=『道ばたの石ころ どうやって売るか?』(アスコム)

上司や先輩のやり方を踏襲するという“枠”にとらわれる必要はあるのかどうか考えてみるのも手です。クライアント向けのプレゼン資料であったとしても、ムダに豪華な資料が必要なのかどうか、あらためて検討してみてもいいのではないでしょうか。


■「本当に必要なのか」を考える


クライアントに見せる資料は「きれいに」「豪華に」作らなくてはいけないというのも、ある種の思い込みです。クライアントが望んでいるのは美しさではなく、自分たちにメリットがあるかどうかです。


ある調査によると、商談に使うパワーポイントの資料は、「3色以内」「1ページ105文字以内」が、一番成約率が高いのだそうです。そのほうが見やすいということもあるでしょうし、結局は提案の中身しだいということでしょう。


「この仕事は、こんなふうにやらなければいけない」という枠組みにとらわれるのではなく、「そもそも、その仕事が必要なのか」という枠の外の視点に立てば、「残業をなくす」という課題解決に近づけます。


ちなみに、私はムダな仕事はしない主義で、特別な事情がないかぎりクライアントへのメールも数行です。1行の時もあります。


「こんな、短いメールは野呂さんだけだよ」と驚かれますが、支障が出たことはありません。「お世話になっております」なんて定型文は使いません。だって、意味がないですよね。もっとも私は普段からみんなを笑わせて、細かなことは気にしないキャラですから、「野呂だから仕方がないか」と思ってくれているのかもしれません。


■「疑う」ことが最初の一歩


あなたが、今までのやり方をいきなり変えると驚かれるかもしれませんが、初めてつき合うクライアントさんなら最初から省略形で通してもいいかもしれませんし、「私のメールはこういうスタイルです」と宣言しておけば、さほど問題ないでしょう。


では、どうすれば枠にとらわれない考え方ができるのか。その1つが、「疑う」ということ。


「上司や先輩からこうやって教えられたから」
「世間ではこれが常識だから」
「みんな、こんなふうにやっているから」


こうして、思考停止してしまうと、当たり前のことしか思いつかなくなってしまいます。


そもそも、日本人は「疑う」ことが苦手ですよね。上司や先輩の言うことを素直に聞くというのは長らく、日本社会で美徳とされてきた人間像です。


たしかに、仕事で結果を残すためには素直さは大事です。自分より経験があって仕事もできる上司や先輩の言うことを素直に聞いて、学んでいく人のほうが早く成長します。まだ実力もなく、経験も足りないのに、自分のやり方ばかりにこだわる人はなかなか伸びないというのも事実です。


写真=iStock.com/itakayuki
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■素直なだけでは結果が出ない


ただし、新人の頃ならそれだけでいいかもしれませんが、ある程度の経験を経て、結果を求められるようになった人は、ただ単に素直なだけでは、かえって結果が出ないことがあります。


素直なだけの人は、マニュアル的な仕事をするうちは伸びますが、自分で創意工夫をして仕事のやり方を見つけていかなくてはいけない段階に入ると、壁にぶつかります。この本(『道ばたの石ころ どうやって売るか?』)をお読みの方も、周囲にそんな人がいるのではないでしょうか。あるいは、あなた自身がかつて経験したことかもしれませんね。


ずっと受け継がれてきた今の仕事のやり方は時代に合っているのか、それが本当に一番いいやり方なのか、もっと効率的なやり方があるのではないか。そういうふうに「疑う」と視点が広がります。別のやり方に目がいくからです。逆に、疑わずに素直なままだと思考停止です。視点が固定化されたままということです。


あなたには、普段から疑うクセをつけてもらいたいと思います。例えば、スーパーやコンビニを歩いている時に、商品のネーミングなどを見て疑問に思ったことはないでしょうか。


■「ごはんですよ!」に米は入ってない


私はロングヒット商品、桃屋の「ごはんですよ!」という商品名を疑問に思ったことがあります。おそらく、なぜ「ごはんですよ!」なのか、疑問を持ったことのある人は少ないでしょう。けど、よく考えてみてください。「ごはん」じゃないですよね。なのに「ごはんですよ!」とは、これいかに。


写真=iStock.com/metamorworks
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お店に行けば、いつも当たり前のように並んでいて、それが普通になっているので、「なぜ」とすら思わなくなっています。いわば、「この商品は、こういう名前なのが当たり前」という固定観念ができ上がってしまっているわけです。しかし、これは明らかに海苔の佃つくだ煮にです。しかも、「ごはんですよ」と言いながら、米はいっさい入っていません。


なんでこんなネーミングなのだろうと、私は疑ってかかりました。後で調べてみると、桃屋の社長が、この商品のネーミングに苦慮している時、奥さんが子どもに「ごはんですよ!」と呼んでいたのを聞いて、「これだ!」とひらめいたそうです。


これ以降、会話調の商品名が生まれ、「ごはんですよ!」はしゃべり言葉のネーミングの元祖になりました。その後、この方式は参考にされ「写ルンです」(使い捨てカメラ)や「お~いお茶」(食品飲料)などがヒット商品になりました。スーパーに行っていろいろな商品を眺ながめながら「何でだろう?」といった楽しい気持ちで疑うことで、考え方や視点の幅が広がっていきます。


■脳は手を抜きたがっている


ところで、人はなぜ普段から「疑う」ということをしないのでしょうか。疑わないということは、その人にとっての「当たり前」「思い込み」を作ること。つまり固定観念ができるということです。すると何がいいのかといえば、考えなくて済むのです。「それはそういうものだから」で済ませば楽だからです。


考えようとしないあなたを、なまけものだと言いたいわけではありません。これには脳の仕組みが関係しています。ケンブリッジ大学の研究によると、脳は1日に3万5000回もの決断をしているそうです。


ここでいう決断というのは、大げさな話ではありません。「今日は何を食べようか」「どんな服を着ようか」ということを、何げなく考えていますよね。それも脳にとっては負担です。


どこを見る、どこで手を動かす、足を動かすといったことも含めると「考えること」「決めること」は膨大な数になるので、なるべく決断の回数は減らしたほうが、脳にとって省エネになります。1日に必要なエネルギー量の20パーセントを脳で消費しているとも言われています。そのため、「こうあるべき」という固定観念を作って、考える労力を減らしているのです。


■「自由形=クロール」は思い込み


日常の暮らしの中では、過度に考えないほうが脳にやさしいかもしれませんが、ビジネスシーンで固定観念にとらわれていると、上手く結果を出せずに評価も下がることになりかねません。脳の仕組みなので、頭の良し悪しとは関係なく、誰であっても固定観念に縛られる危険性があるということです。意識して、視点を増やす思考を身につけないと、あなたも固定観念のワナにはまってしまう恐れがあるのです。



野呂エイシロウ『道ばたの石ころ どうやって売るか?』(アスコム)

固定観念から自由になることで、どんな結果が生まれるのでしょうか。例えば、水泳の競技に「自由形」があります。「自由形=クロール」だと思っていませんか。実は、自由形なのですから泳ぎ方は自由です。ただ、一番速い泳ぎ方がクロールということになっているので、みんなクロールで泳いでいるだけ。もしクロールより速い泳ぎ方があれば、別に何でもいいわけです。


けど、自由形と聞いて、パッと頭に浮かぶのはクロールだと思います。そう思い込んでいると、それ以外の発想がまったく出てこなくなるのです。


「本当はクロールより速い泳ぎ方があるんじゃないか」と疑ってみることが重要です。実は、かつて「自由形=クロール」といった固定観念を外してみたことで、すごいことが起きていたのです。


写真=iStock.com/takoburito
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takoburito

■常に疑うクセをつける


2000年に開催されたシドニーオリンピックの自由形で、クロールのバタ足ではなくドルフィンキックを使って泳いだオーストラリア代表のマイケル・クリム選手が、世界記録を更新したという事例があります。常識にとらわれない発想で、結果を残すことに成功したのです。


もっとも、この泳法は体力の消耗が激しく、その後、他の選手が使うことはあまりなかったようです。とはいえ、クロールで泳ぐことに何の疑問も持たなければ、世界記録が生まれることはなかったのも事実です。


こうして、常に「疑う」クセをつけることで、視点が変えられるようになり、結果にも結びつきやすくなります。


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野呂 エイシロウ(のろ・えいしろう)
放送作家・戦略的PRコンサルタント
1967年、愛知県に生まれる。愛知工業大学在籍中に、学生起業家として活躍後、雑誌編集者に。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家としての活動を開始し、数々の人気番組を手掛ける。30歳のとき、戦略的PRコンサルタントの仕事をスタート。これまでに、大手広告代理店をはじめ、150社以上と契約。著書に、『「話のおもしろい人」の法則』『心をつかむ話し方 無敵の法則』『先延ばしと挫折をなくす計画術 無敵の法則』(すべてアスコム)、『プレスリリースはラブレター テレビを完全攻略する戦略的PR術』(万来舎)などがある。
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(放送作家・戦略的PRコンサルタント 野呂 エイシロウ)

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