50代の4分の1は貯蓄ゼロ…荻原博子が「年収700万円が低所得になる日は近い」と言い切るこれだけの理由【2025年4月BEST】

2025年5月7日(水)16時15分 プレジデント社

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2025年4月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。家計・節約部門の第1位は――。


▼第1位 50代の4分の1は貯蓄ゼロ…荻原博子が「年収700万円が低所得になる日は近い」と言い切るこれだけの理由
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なぜ日本の子育て世帯の家計はこんなにしんどいのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「たとえば年収700万円以上を得る男性は全体の約24%だ。しかし、上位4分の1に入っていても『余裕のある勝ち組』とは言えなくなりつつある」という――。
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■年収700万円でも貯金ができない


年収700万円といえば、わが国では「裕福だ」「暮らしに余裕がある」と思っている人が、まだ多いと思います。


国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、2023年の民間の給与の平均は460万円。年収700万円は民間平均給与の1.5倍以上で、しかも、700万円以上の給料をもらっている人は、男性だと全体の約24%しかいないのですから、誰が見ても明らかに裕福な勝ち組に見えます。


けれど、本当に年収700万円が裕福だと言えるかといえば、微妙。


なぜなら、年収は年齢によっても変わり、25歳から29歳の男性の平均年収は429万円ですが、50歳から54歳の男性の平均給与は689万円、55歳から59歳の男性の平均給与は712万円。


つまり、50代の会社員が大黒柱のご家庭にとっては、年収700万円というのは、ごく普通の年収ということになります。


しかも、50代の中には、普通どころか家のローンや子どもの教育費その他で出費も多く、貯金したくてもできないという人が意外と多くいます。


平均的な年収が700万円前後の50代世帯の家計には、どれくらいの貯蓄余力があるのでしょうか?


金融広報中央委員会(日本銀行)の「家計の金融行動に関する世論調査」(令和5年)では、50代で3000万円以上の貯蓄があるという人が約1割いますが、逆に約1割の人は100万円の貯蓄もないという状況。


しかも、50代の2人以上世帯の平均貯蓄額は1147万円ですが、これを中央値で見ると約300万円。中央値というのは、調査したデータの数字を小さいほう(または大きいほう)から順番に並べた時に真ん中に来る数字なので、より現実に近いと言えます。


この中央値が300万円ということは、つまり、約半分の人は貯蓄が300万円に満たないということ。ここには、貯蓄がないという人も含まれていて、なんと50代で貯蓄がない割合は27.4%です。


出典=金融広報中央委員会(日本銀行)「家計の金融行動に関する世論調査」(2023年)

しかも、2023年の調査では、貯蓄できなかったという人が28.1%もいて、こうした人も含めて、貯蓄できた人が10%未満と全体の半分以上を占めています。


つまり、ひと握りの貯金が多い人が、全体の貯蓄額を引き上げているということで、実際には裕福と言えるほどの貯蓄を持っていない人が多いということです。


50代といえばそろそろ老後生活を意識しはじめる年代。ところが、金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査(2022年)」の調査では、必要となりそうな老後資金が確保できそうにないという人が7割以上いました。


こうした数字を見ていると「余裕の暮らし」とは程遠い実態が見えてきます。


なぜこんなことになっているのでしょうか。


■年収700万円の手取りは、約550万円


50歳代は、収入も多いかもしれませんが、出ていくお金も多い世代です。


これを、年収700万円で家族を養う会社員の例で見てみましょう。


年収700万円の会社員だと、給与から、社会保険料が年間約110万円、所得税が約30万円、さらに住民税が約37万円引かれるので、社会保険料と税金だけで約177万円が引かれて、手取りは523万円となります。


ただし、扶養家族がいたら所得税や住民税はもう少し下がるので、手取りは550万円前後と思えばいいでしょう。この550万円をボーナスなしの12カ月で割ると、月約46万円。これで、家計のやりくりをしていくことになります。


では、この中からどれくらいのお金が家計運営費として出ていくのでしょうか。


総務省の家計調査(2023年)の4人家族の生活費の平均支出は32万3324万円。ですから、月約46万円の収入があれば、余裕で暮らせそうな気がします。ところが、ここには大きな落とし穴があります。


出典=総務省「家計調査家計収支編2人以上世帯詳細結果(2023年)」より編集部作成

■マンションを買うとローン以外に維持管理費もかかる


家計調査では、住居費が約1.5万円となっています。これは、すでにローンのない親の住まいなどを譲り受けているケースだと思われます。


ただ、多くの人は、住宅ローンを組んでマイホームを購入していたり、マイホームを持たない人でも都会だと高い家賃を払わなくてはならないので、住居費が月1万5208円で済むというケースはほとんどないでしょう。


国土交通省の「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」を見ると、住宅ローンの平均返済額は、注文住宅で約14.5万円。分譲住宅で約10.6万円、分譲マンションで約12.3万円(ボーナス払いはなしとして計算)。つまり、住宅を購入するとそれだけの額が毎月家計から出ていくことになります。さらに固定資産税の支払いもあります。


ただ、マンションであれば、出費はローン分や固定資産税だけでは済みません。マンションを買うと、管理費や修繕積立金も毎月支払わなくてはなりません。こうした費用も考慮すると月約15万円の支払いになります。この時点で月約46万円の収入は、出費と同額になります。


■「控除から手当」という実質増税


50代だと子どもが大学などに通っていて教育費がかかるというご家庭もあります。大学に在学中だと年間に子ども1人で100万円以上かかりますから、大学生の子どもが1人いる時点で、家計はあっけなくマイナスに転落します。


また、小学生から高校生の塾代などの教育費は、東京などだと月ひとり平均4万5000円と言われていますから、大学生以外の子どもが2人いるケースだと月約10万円、年間120万円近くかかり、家計はさらにマイナスになります。


こうした費用を含めて見ると、年収700万円でも余裕がないのは不思議ではありません。


ただし、16歳から22歳までは扶養控除がありますが、たとえば、0歳から15歳までの子どもがいる家庭であれば、2011年からその扶養控除が廃止されています。国の「控除から手当へ」という方針で、児童手当(子ども手当)が拡充されたためです(図表3)。


出典=大和総研資本市場調査部制度調査課試算

控除というのは税金の仕組みの中に織り込まれているので、これを減らすのはなかなか難しい。けれど、手当については国の裁量のようなところがあるので、控除に比べて操作がしやすいという面があります。ですから、「控除から手当」にした時点で、増税が始まっていると思ってもいいでしょう。


実際に、大和総研では移行期の2010年を基本に試算を行っていて、年収700万円世帯の0〜12歳の子1人を持つ家庭では、手取り額は年1万1700円のマイナスです。その後、手当が縮小されたことで、このダメージは年収500万円程度の“普通の家庭”にも広がることになりました。


さらに、2025年度の「税制改正大綱」では、16歳から18歳の扶養控除を引き下げる案が示されました。所得税38万円を25万円に縮小、住民税33万円を12万円に縮小する案です。ただ、この改正案は、少数与党となったことや「103万円の壁」との絡みで2026年以降に持ち越しになりました。ただ、持ち越しただけなので、いずれ実質増税となる可能性は大です。


■年収700万円でも「低所得者」


年収700万円なら余裕のある勝ち組というのは、すでに幻想となりつつあるようです。


実は、給与から引かれる税金や社会保険料は毎年のように増えていて、2023年8月発売の『週刊ダイヤモンド』が「年収700万円の人の手取りはこの21年で51万円減!」という記事を出していますが、実は、51万円どころではありません。


5%だった消費税が2014年から8%になり、19年には10%となりました。結果、年収700万円のご家庭では、消費税だけでも年間20万円以上の負担増となっています。


さらにここ数年は、電気やガスといった公共料金をはじめとしてあらゆるものがウナギ登りに上がっています。マイホームを持った人は、住宅ローンそのものには消費税はかかりませんが、住宅を買った時の建物代にはかかっているので、そのぶんもローンで支払っています。


■嗜好品やガソリンにも容赦ない増税


住宅関連以外にも暮らしを直撃する物価上昇はあり、負担はさらに増え続けています。特にガソリンは、政府の補助金縮小の影響が色濃く出ています。


経済産業省が2025年1月22日に発表したレギュラーガソリン1リットルの全国平均小売価格は185円10銭でした。


しかも、多少は円高になったとしても、今後、どんどん値下がりしていく兆しは見えません。高速のサービスエリアでは、すでに1リットル200円に迫る価格のところも出てきています。このバカ高いガソリン価格を引き下げるために期待されているのが、2024年、与党の補正予算に賛成するのと交換条件で国民民主党が署名させた「暫定税率をなくす」という3党合意。


写真=iStock.com/Mariakray
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ガソリンは1リットル185円だと、本体価格は約112円で、なんと73円が税金です。うち消費税込みで27円が暫定税率。ですから、「暫定税率をなくす」という3党合意が直ちに実行されれば、185円のガソリン価格は、すぐにでも158円まで下がります。


ところが、それはやりたくないのが与党。


しかも、通常ならこれだけガソリンが高くなってくると、選挙を踏まえて補助金を出すというのが与党の常でしたが、今回は国民民主党との約束があり「いま補助金を入れたら暫定税率の話が蒸し返され、国民民主は手柄になるがわれわれは非難を浴びる」という判断なのか、ガソリンの高騰については見て見ぬ振りを決め込んでいます。


そもそも「暫定税率」の「暫定」とは、辞書を引くと「一時的なもの」です。その「暫定」をすでに60年も続けているのですから、実質的な“増税”と言っても過言ではないのです。


たばこにも増税が迫っています。2026年4月から加熱式の税率を引き上げて紙巻きたばこの税率に揃えたうえで、たばこ全体の税率を2029年4月にかけて3回、1本あたり0.5円ずつ引き上げる予定です。


酒類については、2026年10月には発泡酒や第3のビールなどが値上げされます。ビールは、350mlの税金が63.35円から54.25円に下がりますが、一方で庶民の味の発泡酒や第3のビールの税金は46.99円が、54.25円に値上がりします。


写真=iStock.com/gilaxia
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ビール全体の価格を統一するとの名目ですが、実際は庶民に人気が高く売れている発泡酒や第3のビールに目をつけ、こちらに「網」を広げようということでしょう。


さらに、チューハイや低アルコールの蒸留酒、リキュール類も、350mlで税金が28円から35円に上がります。


出典=財務省HP「酒税に関する資料」より

そのうえ、日本人の主食である米の価格までも2024年3月の2倍になっていて、政府による備蓄米放出はあるものの米価はさほど下がらないと予測され、物価高に悲鳴をあげる家庭が続出しています。


■アメリカの平均年収中央値は日本の2倍


ガソリンの4割は税金、お酒も2〜4割は税金。独身者からも「子ども子育て支援金」をむしり取り、退職金にもガバッと課税しようとしています。


加えて、年金制度改革で事業所の規模に関係なく20時間以上働くパート全員から、年間15万円以上の税金・保険料を徴収しようとしています。


出典=内閣府HP

厚生労働省が2025年2月5日に発表した「毎月勤労統計調査2024年分結果速報」では、実質賃金は3年連続で対前年比マイナス。物価高に賃金が追いついていない状況が浮き彫りになっています。けれど政府は、物価高を放置し続けているだけでなく、「手取りを増やす」という国民民主党の主張も、すでに蚊帳の外。


すべてのものが値上がりしていく物価高の中では、すでに「年収700万円でも低所得者」という時代が、すぐそこに迫ってきている気がします。


ちなみに、アメリカでは、2023年の実質平均世帯所得の中央値が8万610ドル、日本円で約1300万円です。


出典=独立行政法人 労働政策研究・研修機構HP

(初公開日:2025年4月5日)


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荻原 博子(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からはお金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。
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(経済ジャーナリスト 荻原 博子)

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